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第1章 黎明の航路
第6話 接触
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――沈黙が続いていた。
船団全体が緊張の糸で吊るされている。
デブリ帯を越え、犠牲者を出し、内部にスパイの疑念。
希望の航海は、いつしか“誰も信じられない旅”へと変わっていた。
太平洋船団《オケアノス》の艦橋では、蓮が報告書の山を前に項垂れていた。
隣で真壁が低く唸る。
「他船団、ついに補給の共有を停止した。酸素と食料の割り当ては自前でやれ、だとさ」
「……孤立無援、か」
「まるで敵のいない戦争だな」
沈黙。
そのとき、観測班からの通信が割り込んだ。
『第七観測ドローンが異常信号を検知――』
蓮が顔を上げる。
「座標を!」
『第四宙域、進路先方向です。自然波とは異なり、人工的パターン。……それも我々の通信コードに似ています』
真壁の指が止まった。
「通信コード? どういうことだ?」
『信号の一部が……まるで“こちらのプロトコルを真似ている”ようなんです』
艦橋にざわめきが走る。
レイナの残したもの
同時刻、通信区画で封鎖されていた端末が発見された。
それは失踪したレイナ・グラントの個人ユニットだった。
保安局員が封を切り、蓮にデータパッドを渡す。
再生すると、淡いノイズの向こうにレイナの声が流れた。
> 「この航路の先には、“観測者”がいる。
彼らは私たちを待っている。
地球が沈みゆく前、すでに彼らは――コンタクトを取っていた。」
音声が途切れ、次の瞬間、断片的な映像が映し出される。
古い地球の宇宙基地、そして発射前のロケット。
日付は――A.D.2083。
《アルカディア計画》の起動より十年も前。
真壁が呟く。
「……俺たちの航路は、最初から“見られていた”のか?」
光の影
数時間後。
前方宙域のセンサーが一斉に異常を示した。
空間が揺らぎ、通信系が軋みを上げる。
「重力反応、急上昇!」
「何だ……?」
視界の先――虚空の奥に、霧のような光が浮かび上がる。
それは形を定めず、しかし確かに“何か”の意志を持って動いていた。
艦橋の誰もが言葉を失う。
「生体反応……否、構造物です。……いや、生体と機械の融合体?」
解析班の報告に、オオトリ船団長が立ち上がる。
「全船団に警戒信号! 防御シールドを最大まで展開!」
だが、蓮はモニタを凝視していた。
その存在は、攻撃もせず、ただこちらを“見ている”。
議論
臨時通信会議。
各船団の代表が声を張り上げた。
「攻撃すべきだ! 未知の存在だぞ!」
「交信を試みるべきだ、敵と決めつけるのは早い!」
蓮は前へ出た。
「私たちは“希望”のためにここまで来た。
未知と恐怖の先にこそ、新しい未来がある。まず対話を――」
「理想論だ!」
連邦アークのエリザが遮る。
「奴らが沈黙しているのは、観察しているからだ。獲物を見る捕食者のようにな!」
議論は紛糾し、怒号が交錯した。
その最中、エリザの副官が独断で発射命令を下す。
交錯
連邦アークの主砲が火を吹き、光の構造体を直撃した。
閃光。
そして空間が音もなくねじれた。
衝撃波が広がり、通信系が一斉にブラックアウトする。
蓮が叫ぶ。
「停止しろ! 通信を回復させろ!」
だが、そのとき――
艦内に声が響いた。
それは音ではなかった。
金属を叩くような音でも、無線の波でもない。
意識の奥に直接響く、“言葉”のようなもの。
> 『――なぜ撃った?』
『おまえたちは……“また”か。』
蓮は凍りついた。
“また”――その一言に、理解を超えた寒気が背を走る。
「……まさか、過去に――」
光が急速に消えていく。
残されたのは、通信不能の船団と、漆黒の宇宙だけ。
沈黙の中、蓮は呟いた。
「彼らは言った。“また”と……。
人類はすでに、どこかで彼らと……」
遠い星々が瞬く。
その光の向こうで、何かが、確かに“見ている”。
希望の航路は、いまや未知との対話へ――。
✦ 第6話「接触」 完
船団全体が緊張の糸で吊るされている。
デブリ帯を越え、犠牲者を出し、内部にスパイの疑念。
希望の航海は、いつしか“誰も信じられない旅”へと変わっていた。
太平洋船団《オケアノス》の艦橋では、蓮が報告書の山を前に項垂れていた。
隣で真壁が低く唸る。
「他船団、ついに補給の共有を停止した。酸素と食料の割り当ては自前でやれ、だとさ」
「……孤立無援、か」
「まるで敵のいない戦争だな」
沈黙。
そのとき、観測班からの通信が割り込んだ。
『第七観測ドローンが異常信号を検知――』
蓮が顔を上げる。
「座標を!」
『第四宙域、進路先方向です。自然波とは異なり、人工的パターン。……それも我々の通信コードに似ています』
真壁の指が止まった。
「通信コード? どういうことだ?」
『信号の一部が……まるで“こちらのプロトコルを真似ている”ようなんです』
艦橋にざわめきが走る。
レイナの残したもの
同時刻、通信区画で封鎖されていた端末が発見された。
それは失踪したレイナ・グラントの個人ユニットだった。
保安局員が封を切り、蓮にデータパッドを渡す。
再生すると、淡いノイズの向こうにレイナの声が流れた。
> 「この航路の先には、“観測者”がいる。
彼らは私たちを待っている。
地球が沈みゆく前、すでに彼らは――コンタクトを取っていた。」
音声が途切れ、次の瞬間、断片的な映像が映し出される。
古い地球の宇宙基地、そして発射前のロケット。
日付は――A.D.2083。
《アルカディア計画》の起動より十年も前。
真壁が呟く。
「……俺たちの航路は、最初から“見られていた”のか?」
光の影
数時間後。
前方宙域のセンサーが一斉に異常を示した。
空間が揺らぎ、通信系が軋みを上げる。
「重力反応、急上昇!」
「何だ……?」
視界の先――虚空の奥に、霧のような光が浮かび上がる。
それは形を定めず、しかし確かに“何か”の意志を持って動いていた。
艦橋の誰もが言葉を失う。
「生体反応……否、構造物です。……いや、生体と機械の融合体?」
解析班の報告に、オオトリ船団長が立ち上がる。
「全船団に警戒信号! 防御シールドを最大まで展開!」
だが、蓮はモニタを凝視していた。
その存在は、攻撃もせず、ただこちらを“見ている”。
議論
臨時通信会議。
各船団の代表が声を張り上げた。
「攻撃すべきだ! 未知の存在だぞ!」
「交信を試みるべきだ、敵と決めつけるのは早い!」
蓮は前へ出た。
「私たちは“希望”のためにここまで来た。
未知と恐怖の先にこそ、新しい未来がある。まず対話を――」
「理想論だ!」
連邦アークのエリザが遮る。
「奴らが沈黙しているのは、観察しているからだ。獲物を見る捕食者のようにな!」
議論は紛糾し、怒号が交錯した。
その最中、エリザの副官が独断で発射命令を下す。
交錯
連邦アークの主砲が火を吹き、光の構造体を直撃した。
閃光。
そして空間が音もなくねじれた。
衝撃波が広がり、通信系が一斉にブラックアウトする。
蓮が叫ぶ。
「停止しろ! 通信を回復させろ!」
だが、そのとき――
艦内に声が響いた。
それは音ではなかった。
金属を叩くような音でも、無線の波でもない。
意識の奥に直接響く、“言葉”のようなもの。
> 『――なぜ撃った?』
『おまえたちは……“また”か。』
蓮は凍りついた。
“また”――その一言に、理解を超えた寒気が背を走る。
「……まさか、過去に――」
光が急速に消えていく。
残されたのは、通信不能の船団と、漆黒の宇宙だけ。
沈黙の中、蓮は呟いた。
「彼らは言った。“また”と……。
人類はすでに、どこかで彼らと……」
遠い星々が瞬く。
その光の向こうで、何かが、確かに“見ている”。
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