宇宙艦紀アルカディア

Ilysiasnorm

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第1章 黎明の航路

第7話 観測者(オブザーバー)

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――通信はまだ完全に戻っていなかった。

 船団各艦は最低限の非常信号のみでかろうじて繋がっており、広域通信は沈黙したままだ。
 それはまるで、宇宙そのものが息をひそめ、人類を見下ろしているかのようだった。

 《オケアノス》艦橋では、蓮が端末のノイズ混じりの画面を見つめていた。
 観測者との“接触”から数十時間が経ったが、胸の奥のざわつきは消えない。

「蓮……本当にあの声が聞こえたのか?」

 真壁が訊く声は、静かだが恐怖を隠しきれない震えがあった。

「……あれは、音じゃなかった。意識の奥に直接……『なぜ撃った』『またか』って言っていた」

「“また”……まるで人類が以前にも同じ過ちをしたみたいな言い方じゃねえか」

 蓮は頷き、視線を落とした。
 観測者は敵意ではなく、“失望”に似た感情を伝えてきていた。
 その意味が分からないまま、時間だけが過ぎていく。

 レイナの第2のメッセージ

 失踪したレイナの個室からは、さらにもう一つデータが発見された。

 封を解いた瞬間、映像が流れはじめる。
 そこには、出発前の地球――薄く霞んだ蒼さを残す空の下、古びた宇宙基地が映っていた。

 そして、レイナの声。

 「もし彼らと接触したなら、覚えておいて。
  彼らは“敵ではない”。
  ただし、決して触れてはならない“領域”がある。
  人類は……すでに一度、それを破った。」

 映像が途切れる。

「この日付……」
 真壁の声が詰まる。

「地球出発の“三ヶ月前”だ。つまりレイナは……」

「――観測者とすでに通信していた」

 蓮が言い終える前に、艦橋の空気は凍った。

 太平洋船団への追放提案

 同刻、船団会議は緊迫していた。

 連邦アークの代表エリザが声を張り上げる。
「太平洋船団は観測者の“標的”になった。危険だ。隊列から切り離すべきだ!」

 大洋連合も続く。
「我々は巻き添えになるわけにはいかない」

 東方同盟は沈黙しているが、反対する様子はない。

 孤立無援。
 オオトリ船団長の顔は沈痛に歪んでいた。

「……我々は敵ではない。
 観測者は“交信”を試みてきた。彼らは――」

「蓮、それはあなた個人の妄想だろ?」
 エリザの冷笑が飛ぶ。

 蓮は拳を握る。
 声が届かない。
 真実を語るほど、逆に太平洋船団を追い詰めていく。

 光の影が現れる

 そのときだった。

「艦前方、微弱な重力波反応!」

 航海士の叫びに全員が身を乗り出す。

 虚空に、淡い光点が一つ。
 それはゆっくりと《オケアノス》に向かって流れていた。

「……観測者だ」

 蓮は直感した。

 光点は《オケアノス》の前方で静止すると――
 誰にも見えない言語で、ただ“蓮”だけに語りかけてきた。

 『――恐れるな。
  おまえたちに問いたい。
  なぜ撃った?
  ……おまえたちは、“また”か。』

 蓮の呼吸が止まる。

 「……“また”って、どういう意味だ……?
  人類は……以前にも……?」

 答えは返ってこない。
 だが光の影が静かに瞬くたびに、何かが伝わってくる。

 それは怒りではなく、“傷ついた記憶”。
 あの存在は、人類と出会うのが二度目――あるいはもっと前から、地球を見ていたのかもしれない。

 解析結果:彼らの正体の一端

 解析班が光点が残した残留データを調べた。

「……これ、人類の通信技術に近い。だけど……進化スピードが桁違いだ」

「模倣……している?」
 蓮が訊く。

「おそらく。観測者は人類の言語体系を“数分”で学習している。
 学習速度は人類の百倍以上だ」

「つまり……」

「――敵意じゃない。“観察”だよ」

 真壁の言葉は、艦橋全体に重く響いた。

 レイナの秘密と、アルカディア計画の真実

 最後に、レイナの端末から文字データが一つだけ復元された。

 『アルカディア計画の目的は、
  “新天地の確保”ではない。
  “観測者との協定の履行”である。』

「協定……?」
「地球政府は、俺たちに何を隠していたんだ……?」

 蓮の喉が乾いたように震えた。

 星の海は静かだ。
 だがその奥に、確かに“視線”がある。

 観測者は人類を見ている。
 期待か、警戒か。
 それとも――“過去への怒り”か。

 蓮は拳を握りしめた。

「俺は……知りたい。
 彼らが何者で、人類が何をしたのか。
 そして、未来のために何を選ぶべきなのか……」

 光点は消えた。
 しかし、その問いは残されたまま、船団の運命を重く覆っていた。

 第7話「観測者」 完
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