Arthur Code ――円卓に導かれし軍師

Ilysiasnorm

文字の大きさ
2 / 13

第2話 円卓の王

しおりを挟む
――その都市は、荒廃と希望がせめぎ合うようにして立っていた。

高台に築かれた石の要塞都市《カメロット》。
かつての繁栄の名残を宿しながらも、今は堅牢な砦として民と騎士たちを守っている。
その城門が、星の瞬く深夜にゆっくりと開かれた。

馬車が軋む音。
その中で、青年・誠はまだ乾ききらぬ血の匂いを袖に感じながら、揺られるままに沈黙を保っていた。

「……お主、本当に戦に不慣れなのか?」

隣に座る老騎士・ベディヴィアが問いかけた。
白髪の髭を撫でながらも、その眼差しは真っ直ぐに誠を見つめている。

「戦場を見るのは、これが初めてじゃない。けど……僕は、剣を振れない」

誠は窓の外――闇の中に浮かぶ城のシルエットへと視線を投げた。
その言葉に、ベディヴィアは小さく頷いた。

「剣を振らずに敵を退けた男など、わしは初めて見たぞ。ましてや、あの数を、わずか一人で――」

脳裏に蘇る先ほどの光景。
敵の包囲網を逆手に取り、誠は崖の地形を使って追っ手を誘導し、戦うことなく敵を落とした。
あれが偶然ではなく、“導き”だったのだとすれば。

「……あの子は?」

「気を失ったままだが、命に別状はない。お主の応急処置が功を奏した。見事なものだった」

誠はようやく安堵の息を吐いた。
この世界が何なのか、どこなのか、まだ理解は追いついていない。
だが――救えた命があった。それだけは確かな実感として残っている。

馬車はやがて城門を抜け、中庭の石畳を静かに走った。


「……異邦の男が、ガウェイン卿を救ったと?」

アーサー王の目前に膝まずくベディヴィアは、慎重な面持ちで話を進める。

「……王よ。あの男は忽然と現れ、剣を振らず知によって追手を退ける術を知る者。
私の見立てでは、古より伝わりし“導かれし者”……外なる世界から来た者と見て、ほぼ間違いないかと」

「導かれし……か」

アーサーは瞼を閉じ、己の胸奥に残る“予兆”の震えを感じていた。
運命の歯車が、音もなく回り出したような感覚。
それが吉と出るか、凶と出るかは、明日の対面にかかっている――。

「夜が明け次第、その者を玉座へ」

アーサーの言葉に、玉座の間の空気が静かに引き締まった。


朝靄の立ち込めるカメロット城。
その中央にそびえる塔の上層にて、誠は無骨な寝台の上で目を覚ました。

「……ここは?」

石造りの天井。無機質な壁。重厚な扉と、窓の外に広がる霧の都。
軍事施設でも、病院でもない。だが、どこか似ている。異世界の軍事施設──そんな印象だった。

扉の外に気配を感じた瞬間、鉄扉が控えめに軋んだ。
現れたのは、昨夜の老騎士──ベディヴィア。

「目覚めたか、導かれし者よ。王が、お前と話したいと仰っておられる」

「……王、って」

誠はまだ頭が整理できないまま、それでもベディヴィアの真剣な眼差しに押されるように、立ち上がった。


玉座の間。
陽の光が高窓から差し込む中、若き王がひとり、誠を待っていた。

(……若い。けど、ただの若者じゃない)

金の髪、鋭い瞳、そしてどこか陰を宿した表情。
アーサー王。伝説の名は、今や目の前にいた。

「君が“誠”か」

アーサーは短く問う。誠は無言で頷いた。

「私はアーサー。王として、君に問う」

その声音は若さを残しつつも、確かに何かを背負っている響きだった。

「なぜ、ガウェインを助けた?」

その問いに、誠はしばし黙ったのち、答えた。

「……そこに命があった。それだけです」

「合理的だな。だが、それが“勇気”とも“義”とも呼ばれる行動であることを、我々は知っている」

アーサーは一歩、踏み出す。

「我が国は、崩壊の淵にある。円卓の騎士たちは散り、敵は国内にすら巣食っている。……だが、君には戦う剣も、忠誠も、理由すらない」

そこで、王は言葉を切った。
そして静かに続ける。

「だからこそ、私は君を見極めたい。
この世界に“導かれた”理由が、ただの偶然なのか──それとも」

誠はアーサーの視線を真正面から受け止めた。
緊張ではない。彼の目には、何かを“試す”意志が宿っていた。

「……見極めるって、まさか」

その問いの続きを、ベディヴィアが代わって口にする。

「王立演習場にて、“戦術試験”を行うのです」

「試験……?」

「あなたが何者なのか。剣も魔法も持たぬ異邦の者が、“知”によって戦えるのか。
それを、王自らが試されるのです」


そして、昼下がり。
王都の南、演習場には騎士団と王族、兵士たちが静かに集まりつつあった。

誠は未だ状況を飲み込めないまま、簡素な戦術盤の前に立たされていた。
王が告げる。

「誠。君は今日、我が軍の副指揮官として布陣を担当せよ。
条件は簡単。“防衛戦”。城門を五十騎で守り切れ。……敵は、我が軍だ」

「……なるほど」

誠の目に、光が戻る。

(本気だな。なら、こっちも“本気”で応える)

王が微かに笑ったように見えた。

──こうして、“導かれし軍師”の最初の試練が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...