Arthur Code ――円卓に導かれし軍師

Ilysiasnorm

文字の大きさ
3 / 13

第3話 試されし知略

しおりを挟む
――風が、草を揺らしていた。
 王都カメロット南方、石造りの演習場。そこには今、五十の兵と一人の異邦人がいた。

 「……彼が、指揮を?」

 「王直属の近衛が、相手だと聞いたが……それは無謀では?」

 集まった兵士たちの視線は一様に、不安と懐疑に満ちていた。
 その中心に立つ青年・誠もまた、戸惑いの中にいた。

 (五十人。地形は……遮蔽物少なめ。平地と、北に緩やかな丘。南に人工の壕か)

 冷静に、誠は視線を巡らせた。
 大学で学んだ軍事史の知識が、脳裏の引き出しから次々と浮かび上がってくる。

 (戦術は、理屈で成り立つ。けど……この世界では、通用するのか?)

 「誠よ」

 重厚な声が背後から響いた。
 振り向けば、アーサー王。白馬にまたがり、玉座ではなく、演習場に立つ“戦士の顔”だった。

 「君に任せたのは、この戦を“勝て”という意味ではない。――君の“見識”を、知りたい」

 誠は黙って頷いた。王の言葉は、信頼ではなく“観察”だった。
 だが、それでいい。彼はただ、自分の力を証明すればいいのだ。

 「まず全体配置を見直します。高地に斥候部隊を、壕に弓兵。中央は敢えて薄く。誘導用の布陣に使う」

 傍らの盤上に置かれた駒を取り、誠は指でそれをゆっくりと並び替えた。

「斥候、高地へ。弓兵は壕へ配置。中央は誘導用として、布陣を薄く保て!」

即座に誠は命じる。

兵士たちは半信半疑ながらも、その的確な指示と落ち着いた声に、徐々に耳を傾け始める。

 「敵は中央突破を狙うはずです。迎え撃つのではなく、逃げ道を“残す”。誘導し、壕へと落とす――」

 ベディヴィアが小さく目を細めた。

 (……まるで、戦を知っている者のようだ)

 「配置につけ! 三分以内に全員持ち場へ!」

 誠の声が、かすかに震えていた。けれど、その指揮に迷いはなかった。

 そして、陽が天頂を過ぎた頃――

 「突撃!」

 王軍の偵察部隊がまず動いた。中央突破を図る百の騎兵たちが、雲のように押し寄せる。
 だが、その動きは誠の予測通りだった。

 「弓兵、いま! 丘の斜面から一斉射!」

 矢の雨が斜めに打ちかかり、敵の進路を強引に東へ逸らす。
 逃げ場を探す敵が向かった先は――誠が意図的に開けていた壕の縁だった。

 「槍兵、退け! 敵を壕に誘導しろ!」

 追撃を試みた敵部隊は、次々と足を取られて壕に落ちた。
 その混乱の中、誠の布陣はそのまま敵の後衛へ包囲を仕掛ける。

 「……まさか」

 アーサー王の目が細められた。

 「布陣だけで、戦線を“崩した”だと……?」

 戦いが終わったのは、わずか十五分後。
 王軍の近衛たちは撤退を余儀なくされ、誠の五十騎は一人の負傷者も出さなかった。

 静まり返る演習場に、拍手が一つ、響く。

 「見事だ、誠」

 ベディヴィアがゆっくりと歩み寄り、誠の肩を叩いた。
 その瞳には、もはや疑念ではなく、驚きと敬意があった。

 「君は――“戦わずして勝つ”者だ」

 誠は答えなかった。
 ただ、静かに空を見上げた。

 (この世界でも……人の命は、重い)

 やがて、旗が振られた。
 演習終了の合図。

 全ての騎士たちがその場に膝をつき、アーサーのもとへ視線を向ける。
 誠は戦術盤の前に立ったまま、微動だにせずその光景を見守っていた。


「……私は誤っていたかもしれない」

 玉座の間で、アーサーは静かに口を開いた。

 誠は一歩後ろに下がりながら、慎重に王の言葉を待つ。

 「戦とは、剣を振るうこと。そう信じて疑わなかった。だが、今日、君の戦い方を見て――気づかされた」

 「……僕は、戦いたくて来たわけじゃありません。けど……避けられないなら、命を奪わない道を選びたい」

 その言葉に、アーサーの目がわずかに揺れた。

 「君は、円卓に相応しい“異端”だ」

 王は、立ち上がり、誠の前に歩み寄る。

 「誠。私は君に願いたい。我が“軍師”として、カメロットの未来に力を貸してほしい」

 その言葉を受けて、誠は深く息を吸い込んだ。

 (……これは、選ばされた運命か。いや、今は自分で選ぶ時だ)

 「分かりました。お受けします、王よ」

 その返答に、玉座の間は静かに沸いた。

 剣を振るわぬ異邦の青年。
 だが、その“知”は、剣にも勝る力を秘めていた。

 こうして、“導かれし軍師”誠は、王国の命運を左右する立場へと、その第一歩を踏み出した――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...