【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第2章

第17話 シャドウファングとの狩り、魔物の素材!

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 ◆朝の狩り出発
 朝焼けが森の木々を淡く染め、霧の名残が細い筋となって漂っていた。

 リュークは焚き火を丁寧に踏み消すと、背を伸ばして冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。
 昨夜の夢の残滓はまだ頭の奥にまとわりついていたが、今は答えの出ない問いを押しやるしかなかった。

「まずは、食料と資金の確保だな……」

 ベルハイムまでの道のりは遠い。食料が尽きる前に狩りをして備える必要がある。
 魔物の素材を得られれば、それは金貨を得る手段にもなるだろう。

 小さな包みを開く。中には、村人たちが持たせてくれた乾いたパンと干し肉。
 **パリッ……**と乾いた音が口元に広がり、噛みしめるたびに素朴な味がじんわりと滲んでいく。

(……豪勢じゃない。でも、ありがたい)

 あの小さな村で、自分は確かに“何か”を受け取った。
 無骨な手でパンを差し出してくれた村人。
 笑顔で手を振った子供たち。

 そして――照れくさそうに花を握らせてくれたミーナ。

「次は……一緒にご飯、食べよう。わたし、もっと料理、がんばるから……!」

 幼いながらも精一杯の勇気と優しさが、その言葉には詰まっていた。
 最後まで黙って見送ってくれた村長の背中も、忘れられない。

(……俺にはもう“失うもの”なんてないと思ってた)

 だが違った。守りたいものは、確かにまだ残っている。

「シャドウファング、行くぞ」

 呼びかけに、黒狼は耳をぴくりと動かし、すぐに立ち上がった。
 その動きには、迷いも怯えもない。まるでリュークの言葉を理解しているかのようだ。

 リュークはふと小枝を拾い、軽く振ってみせる。
 シャドウファングの瞳がそれを追い、一瞬だけ尻尾が揺れた。

「……遊びたいって顔だな」

 リュークの口元に、ほんの僅かな笑みが浮かんだ。

 黒狼は鼻を鳴らし、リュークの周囲をゆるりと一周した。
 その足取りは獲物を追う者そのもので、踏みしめた草が ザッ、ザザッ と小さな音を立てる。

「……狩りの腕前を、見せてもらおうか」

 リュークは肩を軽く回し、筋肉を伸ばして身体を解した。
 森の木々の隙間から差し込む朝の光が葉を透かし、露の粒をキラキラと輝かせる。
 澄んだ空気を震わせる小鳥のさえずり。静寂の中に、確かに新しい一日の始まりがあった。


 ◆魔物の痕跡を探せ!
 リュークは膝を折り、湿った地面に視線を落とす。

「……これは、獣の足跡か」

 土に刻まれた蹄跡は深く、大型の動物のものに見えた。
 その形状と大きさからして、ただのイノシシではない。魔物化した亜種の可能性が高い。

「シャドウファング、追跡できるか?」

 黒狼は鼻をひくつかせ、匂いを確かめると、小さく喉を鳴らして前進する。
 その足取りには無駄がなく、風の流れにさえ溶けるような滑らかさがあった。
 リュークはその背中を追いながら、胸の奥に微かな高揚を覚える。

 やがて、茂みの隙間から視界に影が映った。
 ——それは、通常のイノシシよりもひと回り以上も大きな魔物だった。
 丸太のように太い脚、隆起した筋肉、硬質な光沢を帯びた外皮。
 ただの獣ではない。生きるために魔素を取り込み、進化した存在。

 リュークは慎重に腰のポーチへ手を伸ばし、小冊子を取り出した。
 革紐で綴じられたその手引きは、**旅立ちの朝に村長から託された“魔物図鑑”**だ。

(……野営と狩りの助けに、と言っていたな)

 ページをめくる指先に力が入る。
 視線の先で、魔猪は鼻息を荒くし、湿った地面を掻いている。

【魔獣:鉄角猪(アイアンボア)】
 ・体長:約二メートル
 ・鉄のように硬い外皮と鋭い牙を持つ
 ・突進力が強く、真正面からの交戦は極めて危険

「……やはり、正面突破は愚策だな」

 リュークは木陰に身を潜め、慎重に息を整えながら獣の動きを追った。
 額に汗が滲むのを拭いもせず、黒狼に小声で指示を飛ばす。

「シャドウファング、側面から回り込め」

 黒狼は一声も発さず、影のように森へと消えた。
 その背を見送ると同時に、リュークは地面に膝をつく。
 手早くロープを結び、枝をしならせる。
 **ギギィッ……**と木が悲鳴を上げるように軋む音が耳に残った。
 即席の拘束罠。狙いは獣の動きを奪い、狼の一撃を通すこと。

「よし……仕掛けは整った」

 小さく呟いた瞬間、草むらから風を裂く音が走った。

 ——ザシュッ!

 シャドウファングが疾風のごとく飛び出し、アイアンボアに襲いかかる。
 魔獣は驚愕の咆哮を上げ、**グォォォンッ!**と大地を震わせながら頭を振った。

「今だ……!」

 リュークは罠の縄を一気に引きしぼる。

 ――ガギィン!

 鋼のような蹄が締め上げられ、巨体がもつれるように前のめりに崩れ落ちた。
 その隙を逃さず、シャドウファングが黒い影となって背に躍りかかり、首元へ牙を突き立てる。

「グアァァァッ!」

 森に響く断末の叫び。
 アイアンボアは暴れ、地面を掘り返しながら最後の抵抗を見せる。土煙が舞い、枝がはじけ飛ぶ。

「ここしかない!」

 リュークは短剣を構え、重心を前へ滑らせる。
 地面を蹴った瞬間、余計な音も景色もすべて遠のき、獣の喉元だけがくっきりと浮かび上がった。

「これで終わりだ!」

 ――ブシュッ!

 鈍い手応え。刃が分厚い皮膚を貫き、喉奥へと届く。
 鉄臭い血が勢いよく噴き出し、リュークの手を温かく濡らした。
 アイアンボアの巨体が大きく痙攣し、最後に**ガクン……**と重い音を立てて大地に沈む。

 静寂。
 荒い呼吸の音だけが耳に残る。

 リュークは短剣を引き抜き、大きく息を吐いた。

「……っ、はぁ……やったぞ」

 振り返れば、シャドウファングも静かに息を整え、血の滴る牙を誇らしげに光らせていた。

 リュークは握り締めた短剣の柄を見下ろす。汗と血でじっとりと濡れている。
 耳の奥では、まだ心臓の鼓動がドクン、ドクンと力強く鳴り響いていた。

「クリスタルを使ってから……体が勝手に動く。頭も、妙に冴えている」

 震えの残る指先をひらひらと開いて見せながら、低く呟く。
 恐怖よりも先に込み上げてくるのは――「できた」という手応えだった。

(今の動き……知っている。どこかで、何度も繰り返した感覚だ)

 忘れていた戦いの型が、肉体の奥から浮かび上がってくる。
 それは不気味さよりも、むしろ“力を取り戻しつつある”という確信に近かった。

「……悪くない」

 リュークの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。

 ◆魔物の素材!

「……やったな、シャドウファング」

 声をかけると、黒狼は満足げに喉を鳴らした。
 リュークがそっと手を伸ばすと、黒い頭が一瞬だけぴくりと反応し――すぐに目を細めて身を預けてくる。

「へえ。撫でられるのも悪くないって顔だな」

 思わず笑いがこぼれる。
 だが、その視線はすぐに横たわる魔獣の死骸へと向かった。

【獲得素材】
 ・鉄角(鍛冶素材として高値で売れる)
 ・魔獣の皮(防具素材として有用)
 ・獣肉(食料として利用可能)

「……銀貨にはなるだろう。いや、もう少し上を狙えるかもしれないな」

 現実的な計算をしながら、リュークは無駄のない動きで解体に取りかかる。
 鉄角を引き抜く瞬間――ギギィッと鈍い金属音が響き、予想以上の重量が腕にずしりとのしかかった。

「重いな……さすが“鉄角”って名前だけある」

 魔獣の皮を剥ぐと、下から赤い筋肉が現れる。
 湿った皮をたたむと、冷えた空気と一緒に獣臭がふわりと鼻をかすめた。

 肉をナイフで切り分けるたび、筋が裂ける感触が指先を伝う。
 だが、さきほどまで命を賭けて暴れていた存在が、今は自分たちの“糧”へと変わっていく――その事実に、不思議な充足感があった。

(命を、もらったんだ)

 その思いが、ずしりと心の底へ沈んでいく。
 同時に、「無駄にはできない」という静かな決意が、芯のあたりにすっと灯る。

 素材を慎重に荷へ詰め込み終えると、リュークは長く息を吐いた。

「……よし、今日はこのくらいにしておくか」

 肩をぐるりと回すと、筋肉に心地よい張りが広がる。
 疲労は確かにある。だがそれ以上に、“一歩前へ進んだ”という実感が背筋を支えていた。

 ベルハイムへ向かう資金を得るには、まだ狩りを重ねる必要がある。
 それでも――確かに、自分たちは前に進んでいる。

 ふと顔を上げると――
 シャドウファングが、いつの間にか木の枝をくわえてこちらを振り返っていた。

 琥珀色の瞳がきらりと揺れ、まるで「次はどれを仕留める?」とでも言いたげに、わずかに尻尾が揺れる。

「はいはい、仕事熱心な相棒だな」

 リュークは苦笑しながら、無骨な背に荷を担ぎ直す。
 枝をくわえた黒狼の後ろ姿は、なぜか頼もしくて、見ているだけで少し気が軽くなった。

「行こう、シャドウファング。まだ、やれる」

 呼びかけに応えるように、黒狼が一声だけ鼻を鳴らす。
 こうして二つの影は並び立ち、軽やかな足取りで森の奥へと消えていった。
 朝の光が木々の隙間から差し込み、その背中を明るく照らしていた。

 次回: ベルハイムへの道と盗賊の脅威!
 予告: 相棒との連携が、孤独を砕く鍵になる。
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