【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

文字の大きさ
19 / 118
第2章

第18話 ベルハイムへの道と盗賊の脅威!

しおりを挟む
 森を抜けた瞬間、視界がひらけた。
 リュークとシャドウファングは、商業都市ベルハイムへと続く広い街道へ足を踏み入れる。

 しばらくは平坦な道が続いていたが、やがて小高い丘を越えたとき——
 遠くの地平線に、灰色の城壁がどっしりと姿を現した。

「……やっと、ベルハイムが見えたな」

 リュークは思わず息を吐いた。
 そのひと呼吸だけで、肩にまとわりついていた重圧がふっと軽くなる。

 隣を歩く黒狼に目をやる。
 シャドウファングは耳をぴんと立て、ただ前だけをまっすぐに見据えていた。

「街は初めてだろ……お前は」

 リュークは小さく呟き、そっと首筋へ手を伸ばす。
 厚い毛並みの奥から伝わる体温は、意外なほど穏やかで柔らかい。
 黒狼は驚きもせず、その瞳で真っすぐリュークを見上げた。

 そこには、不思議な安心と、揺るぎない信頼の色が宿っていた。

(……こいつも、俺と一緒にここまで歩いてきたんだな)

 胸の内側がじわりと温まる。
 ただ隣に誰かがいる――それだけのことが、これほど心強いとは思わなかった。

 ベルハイムに着けば、魔物の素材を売って資金を得られる。
 スキル開放に必要な金貨だって、手が届くかもしれない。

 リュークは大きく息を吸い込み、肺の奥まで新しい空気を満たした。
 風の匂いが変わっていた。
 土と草の香りにまじり、石畳や人の暮らしを思わせる気配が、かすかに鼻先をかすめる。

「……もう少しだな、シャドウファング」

 黒狼は静かにリュークを見上げ、一度だけコクリと頷くように首を動かした。
 まるで言葉を理解したかのような仕草に、自然と口元がゆるむ。

 だが、その矢先だった。

「……ん?」

 リュークは足を止め、眉をひそめる。
 街道の先――道端に、人影がひとつ倒れ伏していた。

 乾いた風が襤褸の布をあおり、バサ……ッと不気味な音を立てる。
 旅人のようにも見えるが、身じろぎひとつしない。

「……大丈夫か?」

 リュークは警戒を解かぬまま、一歩、慎重に距離を詰めた。

 慎重に近づくと、男がうっすらと目を開ける。
 顔色は土のように青白く、汗で濡れた額は触れずとも冷たさが伝わってきそうだった。

「……お、お願いだ……助けてくれ……」

「どうした?」

 かすれた声にリュークが問い返すと、男は途切れ途切れに息を継ぎながら言葉をつなぐ。

「盗賊に……襲われたんだ……」

 その一言に、リュークの表情がきゅっと引き締まった。

「この近くに盗賊が?」

「……ああ……奴らは、旅人や商人を狙い……物資を奪っている……」

 言い終えると同時に、男の身体から力が抜ける。
 ズサッ……と乾いた音を立てて、再び地面へ崩れ落ちた。

(盗賊か……)

 ベルハイムへ続くこの街道は、商人の往来も多い。
 そこを荒らす盗賊がいるとなれば――見て見ぬふりはできない。

「シャドウファング、警戒しろ」

 黒狼が「グルル……」と低く唸り、鼻先をひくつかせて周囲の匂いを探る。
 リュークは倒れた男の容態を確認した。命に別状はなさそうだが、皮膚は冷え切り、呼吸も浅い。

「……応急処置だな」

 水筒を傾け、男の唇に少しずつ水を流し込む。
 喉が「ゴク……ゴクッ」と弱々しく動き、やがて頬にわずかな血の気が戻っていく。
 重たげなまぶたがゆっくりと開いた。

「……ありがとう……助かった……」

「無理に喋るな。休んでいろ」

 リュークは男を街道脇の木陰まで引きずり、布で傷口を押さえながら手早く止血する。
 にじむ血が布に広がり、その重さと熱が掌へじわりと伝わった。
 ほっと胸をなでおろしかけた――そのとき。

 林の奥から、乾いた枝の踏み割れる音。
 気配はひとつではない。

(……やはり、見られていたか)

 リュークは反射的に一歩下がり、シャドウファングへ目配せする。
 黒狼は即座に耳を鋭く立て、地を這うように身を低く構えた。

 そして――

「おい、そこの旅人! 荷物を置いていけ!」

 森の奥から、怒鳴り声が響いた。

 茂みを押し分けるようにガサッ! と枝が折れ、数人の影が街道へ姿を現す。
 粗末な革鎧に汚れた剣や棍棒を握った、三人組の盗賊だ。

(……やはり、いたか)

 リュークは素早く周囲を見渡す。
 街道のど真ん中で長くやり合えば、林の中から増援に挟まれる危険がある。位置取りが鍵になる。

「逆に、俺から聞こう。お前たち……旅人を襲う盗賊で間違いないな?」

 淡々とした問いに、盗賊たちは一瞬だけ足を止めた。
 その目には、苛立ちと警戒が入り混じっている。

「チッ、頭の回る奴は嫌いだ……! さっさと荷物を置いて消えろ!」

「悪いが、そうはいかない」

 リュークは静かに短剣を抜き放つ。
 隣でシャドウファングが牙を剥き、低く「グルル……」と喉を鳴らした。

「……狼だと? はっ、たかが獣一匹で虚勢を張るか!」

 怒声と共に、一人の盗賊が棍棒を振りかぶり、地を蹴って突進してくる。

(直線で突っ込む……愚直だな)

 リュークは冷静に体を沈め、滑るように横へ回避した。
 棍棒が「ブオン!」と唸りを上げて空を裂き、虚しく空を切る。

 同時に、リュークの足が「ガッ」と音を立てて盗賊の膝裏を蹴り払った。

「ぐっ……!?」

 体勢を崩した盗賊に、黒い影が弾丸のように飛ぶ。
 ガブッ! と鋭い牙が腕へ突き立ち、肉が裂ける生々しい音と共に悲鳴が空気を震わせた。

「ぎゃあああっ!!」

 地に転がる盗賊の絶叫が響く。

「次は……俺だ」

 リュークはすでに二人目へ踏み込んでいた。
 短剣の刃は振るわず、あえて柄を強く握り込む。
 そして、全身の力を込めて顎を**ゴリッ!**と打ち上げた。

「ぐっ……!!」

 鈍い衝撃と共に、盗賊の首がのけぞり、目が白く揺らぐ。
 膝が折れ、その体は崩れ落ちるように地面へ沈んでいった。

「……残るは、あと一人」

 リュークの声は静かだが、その瞳には鋭い光が宿っていた。

 残った盗賊は、膝を震わせながら後ずさった。
 瞳には恐怖が宿り、もはや戦意のかけらもない。

「くっ……覚えてろッ!」

 怒鳴るように叫ぶと、枝を踏み砕き、茂みの奥へと無様に駆け込んでいった。

(まだ仲間が潜んでいる可能性が高いな)

 リュークは油断せず、街道と森の両方へと鋭く視線を走らせる。

「シャドウファング、追うぞ。……だがその前に、片付けておくことがある」

 倒れ込んだ二人の盗賊を木の根元まで引きずり、素早く縄で縛りつけた。
 縄が**ギリギリ……**と食い込む音を立て、盗賊の腕と足を幹にしっかり固定する。

「これで逃げ出せないはずだ」

 リュークは結び目を念入りに確認し、さらに二重に締め上げた。
 呻き声を上げる盗賊の顔に一瞥をくれると、淡々と呟く。

「あとはベルハイムの警備隊に突き出すだけだ」

 荷を整え、シャドウファングに目で合図を送る。黒狼は小さく「フッ」と鼻を鳴らし、森の奥へと視線を向けた。

「……行くぞ」

 二人と一匹は、逃げた盗賊の足跡を辿って森を進む。
 土に刻まれた深い靴跡、折れた枝、擦れた草。追跡は容易だった。

 やがて木々の合間に、粗末な板壁で囲まれた小屋のような建物が見えてくる。
 焚き火の煤が残る煙突、雑に積まれた木箱。

「盗賊のアジトか」

 リュークは茂みに身を潜め、息を整えながら周囲を観察する。
 数人の気配が中にいる。正面から突っ込めば、不意打ちを受けるのは自分の方だ。
(さて……どう動くべきか)
 彼の目が細く光を帯び、次の行動を冷静に思案していた。


 次回: 盗賊のアジトとベルハイムへの通報!
 予告: 盗賊の陰謀、証拠と共に都市へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」 ​あらすじ ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。 目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。 ​「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」 ​渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。 ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!? ​「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」 ​ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す! ​……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!? ​元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える! 異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...