【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第2章

第19話 盗賊のアジトとベルハイムへの通報!

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 リュークは黒き相棒――シャドウファングと並び、木々の影に身を潜めたまま小屋を凝視していた。
 街道から外れた細道の奥、森に隠れるように建つ古びた建物。
 苔むした壁板が斜めに傾き、風に合わせて「ギィ……」とわずかに軋む。

「……ここが、盗賊の根城か」

 低く呟き、視線を巡らせる。
 半開きの扉からは、かすかな灯火とともに、くぐもった男たちの声が漏れ出ていた。

(まだ中に複数いる……倒した奴らの仲間か、それとも別の連中か)

 迂闊に突っ込めば囲まれる。
 しかし、ここを見逃せば次の犠牲は無関係な旅人や商人になるだろう。
 数秒の沈黙の後、リュークは決断した。

「直接叩くより……まずはベルハイムの警備隊に報せる方が現実的か」

 都市の警備隊なら正式な権限も戦力もある。
 だがただの廃屋の報告では、動いてもらえる保証はない。
 必要なのは、動かぬ“証拠”。

「シャドウファング、周囲の警戒を」

 短い指示に、黒狼は喉を低く鳴らし、音もなく闇へと溶け込む。
 リューク自身も気配を抑え、草を踏む音さえ殺しながら小屋へと慎重に接近した。
 扉の隙間から覗く。

 室内には二人の男が椅子に腰を下ろし、テーブルを挟んで何やら話し込んでいた。
 片方が笑い、もう片方が酒瓶を揺らす。
 空気は気だるげだが、その背後――
 木箱や袋が、山のように積み上げられている。
 だが、盗品にしては妙に整然としていた。

(……あれは)

 リュークの視線が、ある木箱の印に止まる。
 刻まれていたのは、確かに見覚えのある紋章。

「ベルハイム交易商会」

 ――商流が持つ公式の商標だ。

(間違いない……街道で襲われた商人の荷だ)

 リュークの内心に、鋭い警鐘が鳴り響く。
 ――これは、ただの盗賊どもではない。

 その時、室内からぼそりと低い声が漏れた。

「……ベルハイム側の“潜り”は、うまくいってんのか?」

 わずかな一言だったが、リュークの呼吸が一瞬止まる。

(潜伏? 都市の中に仲間が……?)

 脳裏に最悪の光景が浮かぶ。
 交易商会や警備隊、あるいは役人の中にすでに“手”が伸びているのかもしれない。
 ただの山賊にしては動きが大きすぎる。街全体を揺さぶる企み――そんな不気味な匂いがした。

(思っていた以上に厄介な話だ。これ以上は危険だ。深入りすれば、俺まで消される)

 もう静観している余裕はない。
 この情報と盗品の証拠さえあれば、ベルハイムの警備隊も必ず動く。

「……やはり、早めに通報するしかないな」

 小さく息を吐き、気配を完全に殺す。

 リュークはそっと後退し、気配が闇へ溶けるように森の影へ身を引いた。
 わずかに揺れた草音に応じるように、シャドウファングが低い影となって足元へ戻ってくる。

「行くぞ。――ここから先は、俺たちの仕事じゃない」

 短く告げると、黒狼は静かに鼻先を鳴らした。
 アジトを振り返れば、灯火の向こうに潜む気配がまだ蠢いている。

(……正面から挑む相手じゃない。動かすべきは、都市の力だ)

 胸の内で判断を固め、リュークは森の外へ向けて歩を踏み出した。
 踏みしめる土の感触が、決意を確かなものに変えていく。


 ◆ベルハイムへの通報
 小屋を離れたリュークは、森を抜けて街道に戻る。
 歩幅は速いが、気配の確認は一切怠らない。
 風が枝を揺らすたび、背筋に薄い緊張が走る。

 やがて、大樹の根元が見えてきた。
 そこには先ほど気絶していた旅人の男が、木にもたれかかるようにしていた。
 顔色はまだ土のように青白いが、意識は戻っているようだ。

「大丈夫か?」

 リュークが歩み寄り声をかけると、男はゆっくりと瞼を上げた。
 焦点の定まらない視線がしばし宙をさまよい、やがてリュークの姿を捉える。

「……ああ……助かった……」

 しわがれた声で、男はかすかに笑った。

「お前が来てくれなかったら、俺はもう……」

「無理に動くな。しばらくここで休め」

 リュークはそう告げ、男の傍らにしゃがみ込み、森の奥へと視線を巡らせた。
 耳を澄ませるが、新たな気配は感じられない――主戦力はアジトにいた。
 ひとまず、ここは安全圏だ。

「俺はこれからベルハイムに向かって、警備隊に通報する。すぐに動いてくれるはずだ」

 男は感謝と安堵の入り混じった表情を浮かべ、ゆっくりと頷く。
 その目尻に、かすかな涙が光った。

「そうか……頼んだ……本当に……ありがとう……」

 リュークは静かに立ち上がり、黒き相棒――シャドウファングが足音もなく寄り添うのを感じた。
 狼の瞳は暗い森を鋭く射抜き、いつでも動ける気配を放っている。


 ◆捕らえた盗賊の護送
 街道脇に戻ると、先ほど倒した盗賊たちが木に縛り付けられているのを確認した。
 縄は幹に食い込み、「ギリ……」と締め付ける音を立てながら固定されている。
 盗賊たちはまだ気を失っていたが、長くはもたないだろう。
 放置すれば逃げられ、また誰かが被害に遭う。

「……このまま放ってはおけない。ベルハイムまで連れて行くか」

 通報だけでは不十分だ。実物を突き出した方が確実。
 証拠となる盗品もあるし、尋問次第では盗賊団の規模や潜伏先まで明らかになる可能性がある。

 リュークは縄をさらに引き絞り、「ガッ」と強く結び目を固めた。
 その反動で盗賊の一人が「ぐっ……」とうめき声を漏らし、まぶたをぴくりと震わせる。

「……起きろ」

 リュークは容赦なく肩を叩いた。
 盗賊はうめき声を漏らし、半ば目を覚ます。苦痛に顔を歪めたその視線の先――黒狼が低く「グルル……」と唸り、鋭い牙をわずかに覗かせていた。
 獣の殺気に気づいた瞬間、盗賊の瞳が恐怖で見開かれる。

 リュークは冷ややかな目を向け、静かに言い放った。

「大人しくしていろ。次に余計な真似をしたら……こいつが相手をする」

 黒狼の喉が再び鳴り、空気が一段と張り詰める。
 盗賊は震えながら、力なく視線を伏せた。

「……そうだ。そのまま大人しくしていろ」

 リュークは短く言い捨てると、隣の黒狼へと視線を移す。

「シャドウファング……力を貸してくれ」

 黒狼は理解したように鼻を鳴らし、縛られた盗賊の縄をためらいなくくわえて歩き出した。
 縄が「ズズッ……」と地面を擦り、重い音を響かせる。

「……助かる。これならベルハイムまで運べるな」

 リュークは小さく頷いた。頼れる相棒の姿に、胸の内で確かな安堵が広がっていた。


 ◆ベルハイム警備隊への通報
 街道を抜けると、やがて高い石壁が朝の光を浴びて姿を現した。
 巨大な門を守る兵士たちの姿が見えたとき、リュークは足を止めて声を張る。

「すまない。至急、警備隊の隊長を呼んでくれ。盗賊を捕えた」

 門番の兵士は一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐにリュークの背後に縛られた盗賊たちを見て目を見開いた。

「盗賊……!? わ、分かった! すぐに報告する!」

 兵士は「ダッ」と音を立てて駆け込み、数分後には甲冑の打ち鳴らす金属音と共に、隊長らしき男が数名の兵を引き連れて現れた。

「……お前が捕らえたのか?」

 鋭い眼光を放つ隊長が、縄に繋がれた盗賊たちを「ジロリ」と一瞥する。
 リュークは落ち着いた声で答えた。

「街道で旅人を襲っていた連中だ。アジトの場所も確認済みだ」
「ベルハイム交易商会の印のある木箱から、封を確認した」

 簡潔な説明を終えると、隊長は顎に手を添え、短く唸った。

「……なるほど。確かに見過ごせん事態だ」

 次の瞬間、声を張り上げる。

「盗賊どもを牢に連行しろ! アジトの調査も怠るな!」
「念のため現物を確認させろ」

「ハッ!」

 兵士たちの号令が重なり、縄を「ギチ……」と軋ませながら盗賊たちが引きずられていく。
 木箱も確認され、重い音を響かせた。

「……お前、名は?」

「リューク」

「リュークか。恩に着る。ベルハイムの治安維持に貢献した礼だ、受け取れ」

 隊長は懐から革袋を取り出し、「チャリ……」と小気味よい銀貨の音を響かせながら十数枚をリュークの掌へと押し渡した。

「……助かった」

「こちらこそだ。今後も何かあれば報せてくれ」

 リュークは無言で頷き、盗賊たちが連行されていく背をじっと見送った。
 やがて胸の奥に張り詰めていた糸が切れたように、深く息を吐き出す。

「……これで、ひとまず一件落着か」

 ベルハイムの石壁を見上げながら、リュークは不思議な疲労と同時に、小さな達成感を噛みしめていた。
 都市の門を越えたばかりだというのに、すでにひと仕事を終えた気分だった。


 次回: 商業都市ベルハイム
 予告: 都市の灯の先に、記録されぬ者の席はあるか。
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