【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第2章

第20話 商業都市ベルハイム

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 ベルハイム――大陸屈指の商業都市。
 巨大な城壁に囲まれたその姿は、遠目に見ただけでも圧倒されるほどで、まさに交易の中心地としての威容を誇っていた。

「……これが、ベルハイムか」

 街の入り口に立ったリュークは、そびえ立つ石壁を仰ぎ見て思わず息を呑む。
 長い旅路の果てに辿り着いた光景は、言葉にできない静かな感慨を胸に刻んでいった。
 門前には荷馬車が列をなし、警備兵が一台ずつ荷を検めている。

「ギィ……ガタン」

 と木車が軋む音、商人たちの呼び声、家畜の鳴き声――そのすべてが都市の喧騒を象徴していた。

 ふと空を仰げば、雲は薄く流れ、透き通る青が視界を満たしている。

(……ようやく、ここまで来た)

 胸の奥で張りつめていたものが、ほんの少しだけ解けていく。

「入城税は銀貨小一枚だ」

 門番の声に現実へと引き戻され、リュークは財布を確かめた。
 銀貨は――足りる。だが、不意に心のどこかで不安がよぎる。

「シャドウファングは……?」

 視線を横へ向けると、黒狼は無言のままリュークの隣に立っていた。
 尻尾をひと振りし、まるで「心配するな」とでも言うように。
 その仕草に、自然と口元が緩む。

(……そうだ。まだ余裕はある。大丈夫だ)

 小さく息を吐き、リュークは足を進めた。
 大型の狼を連れていることで咎められるかと思ったが、兵士たちは一瞥をくれるだけで、それ以上は何も言わなかった。

「珍しい狼だな……使い魔か?」

「まあ、そんなところだ」

 そう言って軽く受け流しながら、銀貨小を手渡す。
 チャリン―と澄んだ音が響き、門番が頷いた。

「よし、通れ」

 門を抜けた瞬間――視界が一気に開ける。

 そこには活気に満ちた商業都市の光景が広がっていた。
 石畳の広場には、色とりどりの布を張った露店がずらりと並び、香辛料の濃い香りが鼻を突く。
 鉄を打つ金槌の音、値切り交渉の声、子供の笑い声……。
 雑多な響きが入り混じり、ひとつの巨大な“生命”が鼓動しているかのようだった。
 一歩踏み出すだけで、まるで別世界に呑み込まれるような感覚が押し寄せてくる。

「ふぅ……とりあえず、宿を探すか」

 思わず漏れた声には、安堵と疲労が混じっていた。
 ようやくたどり着いたという実感が、じわじわと胸に広がっていく。
 長旅の疲労は骨の奥にまで染みていたが、今は休息が必要だ。
 そのうえで――資金をどう稼ぐかを考えねばならない。

 ◆情報収集と今後の方針
 リュークは大通りを歩きながら、周囲に耳を澄ませる。
 商人の張り上げる声、路地裏での小さな取引、遠くで響く荷馬車の「ガタン」という音――
 それらが折り重なり、都市という巨大な器の“脈動”を作り出していた。

「まずは、情報収集だ」

 小さく呟いた言葉は雑踏に消えたが、その瞳は確かな意志を宿していた。

「このベルハイムで、きっと何かを掴める。

 目に映るもの、耳に届く言葉……拾えるものは全部拾ってみる価値がある」
 活気に満ちた通りを進みながら、リュークは一つひとつの光景を丹念に観察した。
 都市で生き抜くには、どこに何があり、誰が何を動かしているのかを把握する必要がある。

(ここは商業都市だ。金を稼ぐ手段はいくらでもあるはずだ)

 胸の内でそう言い聞かせながら、彼は人波の中へと歩を進めた。

 だが、問題は「どうやって」稼ぐか――その選択だ。
 戦いで得るのか、商いで積むのか。
 その生き方を問う場面は、もう目の前に迫っていた。

「……まずは、ギルドだな」

 少し考えただけで、自然にその答えが口をついた。
 冒険者ギルドなら、依頼をこなせば即金を得られる。
 何より、スキル開放に必要な“金貨”を稼ぐには、最も確実な道だ。

(それと……自分の知識を活かせる場面を探すか)

 視線がふと通りの道具屋に止まる。
 保存食の工夫、携帯道具の改良――ほんの小さな工夫でも資金になる。
 積み重ねていけば、確かに前へと進めるはずだ。

 そしてもう一つ。
 雑踏の中で耳にした噂が、脳裏に甦る。

『西の高地に、“封印の石碑”があるらしい。そこには、失われた記憶にまつわる情報が眠っているとか……』

 確証はない。だが、その響きには抗いがたい引力があった。
 胸の奥に熱がざわりと走り、抑え込んでいた渇望が静かに脈打つ。

(……噂の域を出ないが、本当なら必ず行く価値がある)

 リュークは深く息を吐き、歩みを止めることなく決意を固めた。

「まずは、ここで金貨を稼ぐ。情報を集め……いずれ“そこ”に辿り着くためにも」

 その瞬間、瞳に宿る光がわずかに強くなる。
 過去を探る旅の第一歩――その始まりに、確かな意味を刻むために。
 リュークは心の中で静かに区切りをつけ、雑踏の中をまっすぐに歩き出した。

 ◆宿での休息
 しばらく街を歩き回った後、リュークは一軒の宿に足を止めた。
 看板には【銀の杯亭】と刻まれている。
 木造の外観は年季が入っていたが、手入れが行き届き、古さよりも温かさを感じさせた。

「一泊いくらだ?」

「銀貨小三枚だ。食事をつけるなら追加で銅貨大七枚」
 朗らかな声を響かせたのは、中年の店主だった。
 リュークは銀貨を確かめ、静かに頷く。

「食事付きで頼む」

「毎度! 部屋は二階の奥だ」

 鍵が「カチャリ」と手の中で鳴る。
 シャドウファングと共に階段を上ると、「ギシ……」と木の軋む音が、どこか懐かしい安心感を与えてくれた。

 部屋に入ると、しっかりしたベッドが一つ。
 窓の外からは広場の喧騒と、笛の音がかすかに流れ込んでくる。
 木の香りがほのかに漂い、長旅の疲れを迎え入れてくれるようだった。
 リュークは荷を肩から下ろし、深く息を吐いた。

「……やっと、一息つける」

 全身から力が抜けていく。肩を回すと「ゴキリ」と関節が鳴り、それすらも旅を乗り越えた証のように感じられた。
 床に伏せたシャドウファングが静かに瞬きをし、こちらを一瞥する。
 その穏やかな仕草に、リュークの胸の緊張もようやく解けていった。

 「まずは腹ごしらえたな」

 一階の食堂で出されたのは、湯気を立てるスープと、焼きたてのパンだった。
 スープの表面を漂う香草の香りが鼻をくすぐり、パンを裂けば「パリッ」と小気味よい音が響く。
 レンゲを口に運び、「スス……」と啜った瞬間、温かな滋味が喉を通り抜け、冷えた身体の奥へ染みわたっていく。

「……うまい」

 心からの言葉が、思わず口をついて出た。
 胃が落ち着いていく感覚と共に、緊張が一枚ずつ剥がれていく。
 腹を満たしたリュークは再び部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。

 シャドウファングは足元に伏せ、尾を一度だけ揺らして息を吐いた。
 その仕草は、まるで「もう安心しろ」と告げているかのようだ。
 目を閉じれば、旅の疲労がじわじわと押し寄せてくる。
 だが、それは消耗ではなく――明日へ備えるための静かな再起の時間だった。

(……明日からが本番だ)

 ギルドで依頼を受け、金貨を稼ぐ。
 スキルを開放し、そして――記憶へと近づくための手掛かりを探す。

(それと……あの噂だ)

 西の高地にあるという石碑。
 “記憶”や“スキル”にまつわる何かが眠っていると囁かれていた。
 確証はない。だが、その言葉はしつこくざわめき続けている。

「まずは、情報と金貨。西の高地は、その先だ」

 ぽつりと呟くと、シャドウファングも静かに目を閉じた。
 その穏やかな寝息が、リュークの心にまで安堵をもたらす。
 毛布を肩まで引き寄せると、体がじんわりと温まり、まぶたが重くなっていく。
 こうして、商業都市ベルハイムでの新たな挑戦が、静かに幕を開けた――。

 次回: 冒険者ギルドと依頼!
 予告: 世界は広がる。新人冒険者
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