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第2章
第21話 冒険者ギルドと依頼!
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宿でしばしの休息を取ったリュークは、早朝に目を覚ました。
窓から差し込む朝日が部屋を淡く照らし、ベルハイムの街がすでに活動を始めていることを感じさせた。
「さて……行くか」
静かに呟きながら立ち上がると、リュークは身支度を整え、シャドウファングの頭を軽く撫でた。
黒狼は目を細め、安心したようにしっぽを一度だけ振る。
リュークはわずかに笑みを浮かべ、共に宿を後にした。
◆冒険者ギルドへ
ベルハイムの冒険者ギルドは、街の中心部に構える堂々たる建物だった。
分厚い石造りの外壁が陽光を浴びて白く輝き、高く掲げられた紋章旗が風にたなびいている。
入り口では、多くの冒険者たちが慌ただしく出入りしていた。
ぶつかりそうな勢いで行き交う者たちの間から、怒声や笑い声が絶え間なく飛び交っている。
「……ここが、冒険者ギルドか」
リュークは小さく息を吐き、肩にかけた荷物を軽く持ち直した。
旅路の埃と森の匂いが染みついた自分の格好が、この賑やかで活力に満ちた場所にそぐわない気がして、わずかに気後れする。
それでも――足は止まらなかった。
リュークは決意を込めて、一歩を踏み出す。
重たい扉を押すと、鈍い軋み音が響き、中へと入った。
広いロビーには柔らかな喧騒が満ちていた。
天井は高く、光が差し込む窓からは風が流れ込み、閉塞感はまるでなかった。
奥のカウンターでは、数人の受付嬢が忙しなく依頼の処理を行っている。
その奥には酒場のようなスペースがあり、冒険者たちが談笑しながら食事をとっていた。
(……いろんな奴がいるな)
粗野な笑いを響かせる男たち。
朗らかに語り合う女の冒険者たち。
重厚な鎧をまとった戦士に、敏捷そうな軽装の探索者。
――この世界の広さと多様さ。
その現実に、リュークは小さく目を見張った。
まだ知らない世界が、ここから先に広がっている。
(まずは……登録だな)
胸の中で湧き上がる緊張を押し込めて、リュークはゆっくりとカウンターへと歩を進める。
すると、一人の受付嬢がふっと優しく微笑み、声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね?」
「はい。登録をお願いしたいんですが」
表情こそ変えないように努めていたが、声にはわずかに張り詰めた響きが混じっていた。
受付嬢は柔らかく頷き、カウンターの下から数枚の書類を取り出した。
「登録料として、銀貨小5枚を頂戴します。大丈夫でしょうか?」
「……銀貨小5枚」
リュークは手元の資金を確認しながら、無意識に喉を鳴らした。
思っていた以上の金額に、わずかな焦りがよぎる。
それでも――迷っている時間はない。
村で得た報酬、そして道中で盗賊を討伐した際に得た銀貨が、まだ残っている。
リュークは小さな袋から銀貨を取り出し、コインを指先で弾いた。
「カチン」――硬貨がかすかに鳴り、冷たい金属の感触が指先に残る。
そのわずかな重みが、これまでの歩みの証のように感じられた。
(これが……俺の“最初の一歩”か)
心の中で静かに、だが確かに覚悟を固めながら、リュークは銀貨を受付嬢へ差し出した。
「問題ありません」
その声には、緊張を抑えた静かな決意がこもっていた。
リュークは銀貨小5枚を差し出す。
受付嬢は微笑みながらそれを受け取り、すっと手元の書類に目を落とした。
動きに無駄がなく、手際の良さが漂っている。
「では、お名前をお願いします」
「リューク」
「かしこまりました。リューク様の冒険者登録を行いますね」
「カリカリ……」とペン先が紙を走る音が、広いカウンターに心地よく響く。
インクの香りと、ほんのりと漂う革の匂いが鼻先をかすめた。
木のカウンターに指先を添えたまま、リュークは周囲に目をやる。
ふと視線を向けた隣のカウンターでは、慣れた様子の冒険者たちが依頼書を受け取り、冗談を交わしながら笑っていた。
肩の力が抜けた自然な笑顔。迷いのない動作。
(……ああいうふうに、俺もなれるだろうか)
ほんのわずかに、焦りに似た感情が胸の奥をよぎる。
だがそれは、前へ進みたいという思いの裏返しでもあった。
「お待たせしました」
受付嬢の柔らかな声に我に返る。
彼女はにっこりと微笑み、小さな金属製のプレートを差し出してきた。
「これが、リューク様の冒険者カードになります」
リュークはそっと受け取り、そのひんやりとした感触を掌に感じた。
わずかに光を反射するプレートに、自分の名前が刻まれている。
そのとき、受付嬢がふっと目を細め、やわらかな声で言葉を添えた。
「最初は大変かもしれませんけど……きっと大丈夫です。がんばってくださいね」
その声色には、ただの業務的な励ましではない、ほんの少しの温かさがあった。
「……はい、ありがとうございます」
リュークは軽く頭を下げ、手の中のカードに視線を落とした。
【冒険者カード】
名前:リューク
ランク:F(新人)
ギルド所属:ベルハイム支部
(さて、どんな依頼があるか……)
胸の奥に、ほんのわずかな熱が灯る。
リュークは静かに息を整えながら、ギルド内の掲示板を見渡した。
◆換金所での取引
ギルドの一角には、魔物の素材や戦利品を換金する窓口が設けられていた。
リュークは、道中で手に入れた魔物の素材を持ってカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。素材の鑑定と換金をご希望ですね?」
「はい、お願いします」
リュークは小袋から魔物の素材を取り出し、カウンターの上にそっと並べた。
革の袋から小さな音を立てて現れた素材に、受付の鑑定士がすぐ目を走らせる。
•ホーンラビットの毛皮 × 2
•ホーンラビットの角 × 1
•アイアンボアの毛皮 × 1
•その他
鑑定士は手慣れた動作で素材を一つずつ持ち上げ、指先で感触を確かめながら状態を確認していく。
「ホーンラビットの毛皮は上質ですね。これは銀貨小2枚で買い取ります」
「角も状態が良いので、銀貨小2枚」
「他の素材などで……そうですね、銀貨小8枚ですね」
素材が並ぶたびに「コト」「サラッ」と柔らかな音が響く。
受付台に置かれた金属製の計量器がわずかに軋んだ。
リュークは提示された金額を確認した。
合計:銀貨小10枚
「この内容でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
受付嬢がトレイに銀貨を並べると、「チャリン……」と乾いた音がカウンターに響いた。
リュークはそれを静かに受け取り、小袋にしまい込む。
(これで多少の資金は確保できたな)
金属の冷たさが、確かな一歩を刻んだ証のように感じられた。
「まずは、依頼を受ける。そして実力を証明する。それが、この街で立つ道だ」
◆最初の依頼選び
換金を終えたリュークは、ギルドの掲示板へと足を運んだ。
そこには、様々な依頼が紙片として貼られている。
•薬草採取(報酬:銀貨小3枚)
•街の警備補助(報酬:銀貨小5枚)
•ゴブリン討伐(報酬:銀貨小10枚)
•迷宮探索補助(報酬:金貨小1枚)
•……
•……
(さて、どれを選ぶか……)
リュークは依頼内容を慎重に見定めながら、次の行動を考えていた。
ギルド内部は昼を迎え、さらに賑わいを増している。
掲示板の周囲では、冒険者たちが紙片を引き抜き、「バサッ」と鳴る紙の音が絶えず響いていた。
「じゃあ、これに決まりだな」
「おい、無茶はすんなよ?」
そんな声が飛び交い、誰かが笑い、誰かが真剣に相談している。
酒場スペースの方からは、香ばしく焼けたパンの匂いと、軽快な笑い声が微かに漂ってくる。
(……活気があるな)
リュークは周囲を一瞥し、ふと、自分がまだこの輪の中に完全には入りきれていないことを自覚した。
胸の内に、静かな孤独が少しだけ忍び込む。
だが、立ち止まるわけにはいかなかった。
目の前に広がる選択肢の中から、自分の一手を選ばなければならない。
依頼掲示板を眺めていると、端の方に貼られた古びた一枚が目に留まった。
『北方高地周辺にて、未記録の石碑と思しき遺構が発見された。危険生物の出没情報あり、調査依頼中』
(……石碑?)
その一言に、心がわずかにざわつく。
“石碑”という響きが、どこかで聞いたような感覚を呼び起こしていた。
(記憶の断片か、それとも……)
だが、今の自分には、そこへ向かう手段も理由もない。
リュークは小さく首を振り、目の前の掲示板へと意識を戻した。
(まずは、開放に必要な金貨を稼がないとな)
冷静に、だが内心では焦りを抑えながら、リュークは慎重に依頼を選ぶ。
金貨を得るには、ある程度のリスクを取らねばならない。
だが、いきなり高難度の依頼に飛びつくのは無謀に過ぎる。
彼の目に留まったのは、比較的手頃な『ゴブリン討伐』だった。
(ゴブリン討伐……戦闘経験を積むにはちょうどいいか?)
思案していると、隣で別の冒険者たちが同じ依頼を眺めていた。
「ゴブリン討伐か……手頃だけど、単独は危険だよな」
「だな。奴らは集団で動くからな」
(単独は危険……か)
彼らの言葉が、思った以上に重く響く。
リュークは依頼を受ける前に、一度ギルドの受付へ向かい、相談することにした。
カウンターへ向かう途中、ふと目に留まったのは、壁際で剣を研ぐ初老の冒険者の姿だった。
「シュッ……シュッ……」と砥石が刃を撫でるたび、かすかな金属音が空気を震わせる。
陽光を反射したその剣の刃は、無駄のない動きの中で確かに研がれていた。
(……ああやって、皆、それぞれの時間を生きているんだな)
その静かな姿に、言葉にならない敬意が芽生える。
リュークは小さく息を整え、受付嬢に声をかけた。
「ゴブリン討伐を検討しているのですが、やはり単独では厳しいでしょうか?」
受付嬢は数秒だけ考え、やがて穏やかに頷いた。
「ゴブリンは数で攻めてくるため、単独では危険です。ただ、今なら他の冒険者と合同で行う依頼もありますよ」
「合同……?」
「ええ。同じ依頼を受けた冒険者たちでパーティーを組み、安全に討伐を行うんです」
(パーティーか……)
ほんの少しだけ、言いようのない抵抗感が胸をよぎったが、理屈ではそれが最善だと理解していた。
リュークはわずかに目を伏せ、そして決めたように顔を上げた。
「分かりました、それでお願いします」
「承知しました。では、他の参加者の方とお会いください」
次回: 暁の剣――初任務の幕開け
予告: 暁の剣と共に、初の実戦に挑む。
窓から差し込む朝日が部屋を淡く照らし、ベルハイムの街がすでに活動を始めていることを感じさせた。
「さて……行くか」
静かに呟きながら立ち上がると、リュークは身支度を整え、シャドウファングの頭を軽く撫でた。
黒狼は目を細め、安心したようにしっぽを一度だけ振る。
リュークはわずかに笑みを浮かべ、共に宿を後にした。
◆冒険者ギルドへ
ベルハイムの冒険者ギルドは、街の中心部に構える堂々たる建物だった。
分厚い石造りの外壁が陽光を浴びて白く輝き、高く掲げられた紋章旗が風にたなびいている。
入り口では、多くの冒険者たちが慌ただしく出入りしていた。
ぶつかりそうな勢いで行き交う者たちの間から、怒声や笑い声が絶え間なく飛び交っている。
「……ここが、冒険者ギルドか」
リュークは小さく息を吐き、肩にかけた荷物を軽く持ち直した。
旅路の埃と森の匂いが染みついた自分の格好が、この賑やかで活力に満ちた場所にそぐわない気がして、わずかに気後れする。
それでも――足は止まらなかった。
リュークは決意を込めて、一歩を踏み出す。
重たい扉を押すと、鈍い軋み音が響き、中へと入った。
広いロビーには柔らかな喧騒が満ちていた。
天井は高く、光が差し込む窓からは風が流れ込み、閉塞感はまるでなかった。
奥のカウンターでは、数人の受付嬢が忙しなく依頼の処理を行っている。
その奥には酒場のようなスペースがあり、冒険者たちが談笑しながら食事をとっていた。
(……いろんな奴がいるな)
粗野な笑いを響かせる男たち。
朗らかに語り合う女の冒険者たち。
重厚な鎧をまとった戦士に、敏捷そうな軽装の探索者。
――この世界の広さと多様さ。
その現実に、リュークは小さく目を見張った。
まだ知らない世界が、ここから先に広がっている。
(まずは……登録だな)
胸の中で湧き上がる緊張を押し込めて、リュークはゆっくりとカウンターへと歩を進める。
すると、一人の受付嬢がふっと優しく微笑み、声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね?」
「はい。登録をお願いしたいんですが」
表情こそ変えないように努めていたが、声にはわずかに張り詰めた響きが混じっていた。
受付嬢は柔らかく頷き、カウンターの下から数枚の書類を取り出した。
「登録料として、銀貨小5枚を頂戴します。大丈夫でしょうか?」
「……銀貨小5枚」
リュークは手元の資金を確認しながら、無意識に喉を鳴らした。
思っていた以上の金額に、わずかな焦りがよぎる。
それでも――迷っている時間はない。
村で得た報酬、そして道中で盗賊を討伐した際に得た銀貨が、まだ残っている。
リュークは小さな袋から銀貨を取り出し、コインを指先で弾いた。
「カチン」――硬貨がかすかに鳴り、冷たい金属の感触が指先に残る。
そのわずかな重みが、これまでの歩みの証のように感じられた。
(これが……俺の“最初の一歩”か)
心の中で静かに、だが確かに覚悟を固めながら、リュークは銀貨を受付嬢へ差し出した。
「問題ありません」
その声には、緊張を抑えた静かな決意がこもっていた。
リュークは銀貨小5枚を差し出す。
受付嬢は微笑みながらそれを受け取り、すっと手元の書類に目を落とした。
動きに無駄がなく、手際の良さが漂っている。
「では、お名前をお願いします」
「リューク」
「かしこまりました。リューク様の冒険者登録を行いますね」
「カリカリ……」とペン先が紙を走る音が、広いカウンターに心地よく響く。
インクの香りと、ほんのりと漂う革の匂いが鼻先をかすめた。
木のカウンターに指先を添えたまま、リュークは周囲に目をやる。
ふと視線を向けた隣のカウンターでは、慣れた様子の冒険者たちが依頼書を受け取り、冗談を交わしながら笑っていた。
肩の力が抜けた自然な笑顔。迷いのない動作。
(……ああいうふうに、俺もなれるだろうか)
ほんのわずかに、焦りに似た感情が胸の奥をよぎる。
だがそれは、前へ進みたいという思いの裏返しでもあった。
「お待たせしました」
受付嬢の柔らかな声に我に返る。
彼女はにっこりと微笑み、小さな金属製のプレートを差し出してきた。
「これが、リューク様の冒険者カードになります」
リュークはそっと受け取り、そのひんやりとした感触を掌に感じた。
わずかに光を反射するプレートに、自分の名前が刻まれている。
そのとき、受付嬢がふっと目を細め、やわらかな声で言葉を添えた。
「最初は大変かもしれませんけど……きっと大丈夫です。がんばってくださいね」
その声色には、ただの業務的な励ましではない、ほんの少しの温かさがあった。
「……はい、ありがとうございます」
リュークは軽く頭を下げ、手の中のカードに視線を落とした。
【冒険者カード】
名前:リューク
ランク:F(新人)
ギルド所属:ベルハイム支部
(さて、どんな依頼があるか……)
胸の奥に、ほんのわずかな熱が灯る。
リュークは静かに息を整えながら、ギルド内の掲示板を見渡した。
◆換金所での取引
ギルドの一角には、魔物の素材や戦利品を換金する窓口が設けられていた。
リュークは、道中で手に入れた魔物の素材を持ってカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。素材の鑑定と換金をご希望ですね?」
「はい、お願いします」
リュークは小袋から魔物の素材を取り出し、カウンターの上にそっと並べた。
革の袋から小さな音を立てて現れた素材に、受付の鑑定士がすぐ目を走らせる。
•ホーンラビットの毛皮 × 2
•ホーンラビットの角 × 1
•アイアンボアの毛皮 × 1
•その他
鑑定士は手慣れた動作で素材を一つずつ持ち上げ、指先で感触を確かめながら状態を確認していく。
「ホーンラビットの毛皮は上質ですね。これは銀貨小2枚で買い取ります」
「角も状態が良いので、銀貨小2枚」
「他の素材などで……そうですね、銀貨小8枚ですね」
素材が並ぶたびに「コト」「サラッ」と柔らかな音が響く。
受付台に置かれた金属製の計量器がわずかに軋んだ。
リュークは提示された金額を確認した。
合計:銀貨小10枚
「この内容でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
受付嬢がトレイに銀貨を並べると、「チャリン……」と乾いた音がカウンターに響いた。
リュークはそれを静かに受け取り、小袋にしまい込む。
(これで多少の資金は確保できたな)
金属の冷たさが、確かな一歩を刻んだ証のように感じられた。
「まずは、依頼を受ける。そして実力を証明する。それが、この街で立つ道だ」
◆最初の依頼選び
換金を終えたリュークは、ギルドの掲示板へと足を運んだ。
そこには、様々な依頼が紙片として貼られている。
•薬草採取(報酬:銀貨小3枚)
•街の警備補助(報酬:銀貨小5枚)
•ゴブリン討伐(報酬:銀貨小10枚)
•迷宮探索補助(報酬:金貨小1枚)
•……
•……
(さて、どれを選ぶか……)
リュークは依頼内容を慎重に見定めながら、次の行動を考えていた。
ギルド内部は昼を迎え、さらに賑わいを増している。
掲示板の周囲では、冒険者たちが紙片を引き抜き、「バサッ」と鳴る紙の音が絶えず響いていた。
「じゃあ、これに決まりだな」
「おい、無茶はすんなよ?」
そんな声が飛び交い、誰かが笑い、誰かが真剣に相談している。
酒場スペースの方からは、香ばしく焼けたパンの匂いと、軽快な笑い声が微かに漂ってくる。
(……活気があるな)
リュークは周囲を一瞥し、ふと、自分がまだこの輪の中に完全には入りきれていないことを自覚した。
胸の内に、静かな孤独が少しだけ忍び込む。
だが、立ち止まるわけにはいかなかった。
目の前に広がる選択肢の中から、自分の一手を選ばなければならない。
依頼掲示板を眺めていると、端の方に貼られた古びた一枚が目に留まった。
『北方高地周辺にて、未記録の石碑と思しき遺構が発見された。危険生物の出没情報あり、調査依頼中』
(……石碑?)
その一言に、心がわずかにざわつく。
“石碑”という響きが、どこかで聞いたような感覚を呼び起こしていた。
(記憶の断片か、それとも……)
だが、今の自分には、そこへ向かう手段も理由もない。
リュークは小さく首を振り、目の前の掲示板へと意識を戻した。
(まずは、開放に必要な金貨を稼がないとな)
冷静に、だが内心では焦りを抑えながら、リュークは慎重に依頼を選ぶ。
金貨を得るには、ある程度のリスクを取らねばならない。
だが、いきなり高難度の依頼に飛びつくのは無謀に過ぎる。
彼の目に留まったのは、比較的手頃な『ゴブリン討伐』だった。
(ゴブリン討伐……戦闘経験を積むにはちょうどいいか?)
思案していると、隣で別の冒険者たちが同じ依頼を眺めていた。
「ゴブリン討伐か……手頃だけど、単独は危険だよな」
「だな。奴らは集団で動くからな」
(単独は危険……か)
彼らの言葉が、思った以上に重く響く。
リュークは依頼を受ける前に、一度ギルドの受付へ向かい、相談することにした。
カウンターへ向かう途中、ふと目に留まったのは、壁際で剣を研ぐ初老の冒険者の姿だった。
「シュッ……シュッ……」と砥石が刃を撫でるたび、かすかな金属音が空気を震わせる。
陽光を反射したその剣の刃は、無駄のない動きの中で確かに研がれていた。
(……ああやって、皆、それぞれの時間を生きているんだな)
その静かな姿に、言葉にならない敬意が芽生える。
リュークは小さく息を整え、受付嬢に声をかけた。
「ゴブリン討伐を検討しているのですが、やはり単独では厳しいでしょうか?」
受付嬢は数秒だけ考え、やがて穏やかに頷いた。
「ゴブリンは数で攻めてくるため、単独では危険です。ただ、今なら他の冒険者と合同で行う依頼もありますよ」
「合同……?」
「ええ。同じ依頼を受けた冒険者たちでパーティーを組み、安全に討伐を行うんです」
(パーティーか……)
ほんの少しだけ、言いようのない抵抗感が胸をよぎったが、理屈ではそれが最善だと理解していた。
リュークはわずかに目を伏せ、そして決めたように顔を上げた。
「分かりました、それでお願いします」
「承知しました。では、他の参加者の方とお会いください」
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