【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第2章

第23話  初陣の一閃と、潜む巣の気配

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 ゴブリンが牙をむき、リュークに襲い掛かってくる。
 普通の冒険者ならば、正面からの戦闘になるだろう。

 だが――

(ゴブリンの動きは単調だ――)

 リュークは、目の前のゴブリンの踏み込みに合わせて身体をひねった。

 ヒュッ!

 短剣の刃先が、紙一重で耳元をかすめる。

 だが、それでいい。わざと当たらないギリギリの間合いを取った。

(間合いが近い。今なら――)

 一瞬にして、相手の腕の角度と重心の位置を見極める。
 掴んだ。

「っ!」

 リュークはゴブリンの腕を掴み、肘の下から勢いごと引き込んだ。

 ゴギッ!

 関節が悲鳴を上げるような不快な音が響き、敵の体が宙に浮く。

 ――ドシャァッ!

 鈍く重い音を立てて、背中から地面に叩きつけられたゴブリンが激しく悶えた。

「ギギィ……ッ!」

 喉の奥からくぐもった声を漏らし、土を掴むように手足をばたつかせる。
 口端から泡混じりの血が滲み、苦しげな喘ぎが荒く漏れた。
 指先で地面を引っかきながら、じりじりと後退しようとするが――それ以上動けない。

 だが、そのすぐ横から、もう一体のゴブリンが勢いよく突進してくる。
 リュークの動きが一瞬止まった、その隙を狙って――

「グルルル……!」

 シャドウファングがリュークの前へ素早く飛び出し、低く唸った。
 **ゴゥッ――!**と腹の底から響く咆哮に、空気が震える。

「ギ、ギィ……!」

 ゴブリンは思わず足を止め、その場でビクッと体をすくませた。
 赤い瞳に、怯えと戸惑いが滲む。

「……ヒ、ヒギィ……!」

 その“間”を逃さず、リュークが動いた。
 素早く膝で敵の右腕を押さえつけ、逆手に握った短剣を――
 迷いなく、喉元へ突き立てる。

 ザシュッ!!

 刃が肉を裂く確かな手応え。
 粘る感触の奥で、硬い何か――喉骨を断つ手応えが伝わってくる。

「ギィ……ッギャアア……!」

 断末魔が喉で泡立ち、口から血混じりの唾液が飛び散る。
 全身を痙攣させ、爪を地面に立て、足掻き――

 やがて、ガクンと肩が落ち、力尽きて静かに動かなくなった。
 リュークは少しだけ荒い呼吸を整えながら、低く呟いた。

「……1体」

 短剣を振り払い、ピシャッと返り血を地面へ散らす。
 そして、血の滴る刃を再び構え直すと、無言のまま次のゴブリンに向き直った。

「コイツ……ただの新人じゃねぇな」

 ガルドが低く呟いた。

「普通、あんな動き、初陣の冒険者ができる?」

 リーナも驚きの表情を浮かべた。

 しかし、リュークにとっては、それが“当然の動き”に思えた。
 経験があるはずもない。

 けれど――身体が、勝手に動いていた。
 考えが、驚くほど澄み渡っていく。

(……これも、“スキルクリスタ”の効果……?)

 そう思う間もなく、回復したゴブリンが咆哮を上げて突進してきた。

「チッ……勢いだけなら悪くないな」

 リュークはすばやく腰元に手を伸ばし、小型のスモークボムを抜き取る。
 そして、地面へと叩きつけた――!

 パァンッ!!

 乾いた破裂音と共に、白煙が爆ぜるように広がり、周囲の視界を一瞬で覆い尽くした。

「っ!? 何だ、この煙は……っ!」

 ザックが咄嗟に声を上げる。

 その混乱の中、リュークは煙に身を沈めた。
 足音を殺し、重心を低く、草を掠めるような動きで滑り込む。

(……見えていなくても、“いる場所”が分かる)

 耳が、足音の角度と重さを拾っていた。
 視界は遮られていても、どこに“敵がいるか”は――聞こえてくる。

 ――その時。

「ギャッ!」

 気配に気づいたゴブリンが、反射的に腕を振り回してきた。

 ブゥン――!

 獣じみた粗雑な打撃。
 振られた空気が「ゴォッ」と重く唸り、リュークの頬をかすめる。

(危ない……!)

 リュークはすかさず身体を沈め、地面を「ザッ」と蹴って滑るように前転。
 頭上を風圧がなぎ払い、草が「ザザッ」と大きく揺れた。

「ギギィィ……!」

 空振りに苛立つように、ゴブリンが怒声を上げる。
 だが、その一瞬の隙――

 リュークは低く潜り込み、敵の背後を取った。

「……終わりだ」

 スパッ!!

 短剣が横一閃に走り、足首の腱と筋肉を断ち切る。

 バギッ!

 刃が骨を噛み砕くように刺さり、鈍く嫌な音が響いた。

「ギャアアアアアッ!!」

 悲鳴と共に巨体がバランスを崩し、膝から地面に崩れ落ちる。

(ここだ)

 リュークは身体を滑り込ませ、懐から自作のロープトラップを取り出した。
 脚を蹴り、腕を掴み、素早く縄を巻き付け――一気に締め上げる。

「ギ、ギギッ……ッ!」

 暴れようとするゴブリンの動きは、ロープによって完全に封じられた。

 軋む音と共に、関節が締め付けられていく。
 呻くような声と共に、拘束された四肢がガクガクと震え――

 腕が軋む音と、締め付けられた関節が悲鳴を上げる。

「お、おい!? なんで殺さないんだよ?」

 ザックの戸惑いの声が飛ぶ中、リュークは冷静にロープを締めながら次の動きを見据えていた。

 リュークは、縛り上げたゴブリンを見下ろしながら静かに言った。

「こいつを詳しく調べれば、縄張りや巣の位置が分かるかもしれない。今後の対策にもなると思う」

 ガルドが腕を組み、「ふむ……」と低く唸る。

「なるほどな。巣ごと潰せば、被害も減らせるってわけか」

 リーナも頷き、落ち着いた声で続ける。

「確かに。ただ倒すだけじゃ、根本的な解決にはならないものね」
 だが、ザックは苦笑しながら肩をすくめた。

「いやいや、待てって。こいつら言葉通じねえぞ? どうやって縄張りを聞き出す気だよ」

 リュークは小さく息を吐き、視線をゴブリンから外さずに答えた。

「直接は無理でも、行動パターンや痕跡を追えば、手がかりは得られるはずだ」

 簡潔に、しかし確信を帯びた声だった。
 その返答に、ガルドがリュークをじっと見やり、口元をわずかに歪める。

「……ふっ。やっぱり、ただの新人ってわけじゃなさそうだな」

 リーナも横でふっと微笑みを浮かべた。

「なら、少し観察してみましょう。情報が得られるなら、それに越したことはないわ」

 一行は互いに顔を見合わせ、小さく頷き合う。
 慎重に周囲を探りながら、ゴブリンの巣の手がかりを求めて動き始めた。

 次回: ゴブリンの巣を追え!
 予告: ゴブリンの動きと、地面に残された痕跡


――――――――――――――――――――――――――――――――
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