【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第2章

第25話 仲間未満の絆と準備

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 リュークたちは作戦を立てた後、罠や道具の準備に取り掛かった。
 この戦いは、単純な力勝負ではなく、戦術と工夫が鍵を握る。

 ◆罠や道具の準備――。

「まずは、遠距離攻撃用の道具を作ろう」

 リュークの言葉に、ザックが頷く。

 リュークはその一瞬、彼らの顔を順に見渡した。

(こいつらは俺を“仲間”とは言っていない。けれど今、俺はこの場に立っている)

 判断を誤れば、誰かが傷つくかもしれない。

 だが、疑い続けるより、信じて任せることの方が――今は必要だ。

「道具って……例えばどんなのを作るんだ?」

 ザックの問いに、リュークは地面にしゃがみ込み、木の枝で素早く図を描いた。
 手の動きに迷いはない。

「ゴブリンたちが洞窟から出てきたところを狙う。
 狭い入口に仕掛けをして戦闘を工夫すれば、一気に戦いやすくなるはずだ」

 図を見つめながら、リーナが腕を組んで考え込む。

「でも、そんな材料、どこにあるの?」

 その問いに、リュークはわずかに口元を緩めた。

「この森に落ちてるもので十分だ」

 乾いた空気の中に、ほのかに期待と緊張が混じった。
 誰も軽くは扱っていない。命が懸かっているのだ。

 ◆ 遠距離攻撃用の石つぶて

「まず、近接戦闘だけじゃなく、遠くからも攻撃できる手段が欲しい」

 リュークは周囲を見回し、小石をいくつか拾いながら簡易スリングを編み上げていく。
 蔓と破れ布を使った即席の道具。だが、彼の手は迷いなく、それを機能する形に整えていた。

「これで注意を引いたり、牽制に使える。
 タイミングさえ合えば、攻撃の起点にもなる」

 リーナがそれを手に取り、試すように軽く振る。
 蔓が風を切る音が、わずかに耳を打った。

「なるほど。魔法を使わずに戦場を動かせるのね」

 リュークはわずかに頷き、視線を彼女とザック、そしてガルドへと向け直した。

「いざというとき、俺とシャドウファングが裏から奇襲をかける。
 その間、これで支援してくれ」

 言いながらも、胸の奥にひとつの“感覚”が浮かぶ。

(この分担――以前にも似たような連携を……)

 リーナが笑みを浮かべて応じる。

「了解。任せて」

 その返答に、不思議と心が落ち着いた。
 かつての自分が、誰かとこうして“役割”を分け合っていた気がしてならない。

 ◆ 焦らせる煙玉

「それと、ゴブリンは暗闇に慣れてる。視界を奪う手段も用意したい」

 リュークはそう言いながら、枯れ葉と乾いた苔を丁寧に集めていく。
 それらを布の切れ端で包み、紐で強く括った。

「火を使えば一時的に煙幕が張れる。
 視界を封じれば、敵は戸惑い、攻撃の隙も生まれる」

 ガルドが腕を組み、ニッと笑った。

「お前、本当に戦術を考えるのが得意だな」

 リュークは肩をすくめた。

「戦闘経験がない分、考えるしかない。……そうして勝ってきた」

 そう答えながらも、胸の内には微かな違和感がくすぶっていた。

(……いや、俺は“知らない”はずなんだ。
 なのにどうして、手が勝手に動く? 頭が動く?)

 それは思考ではなく、“反射”に近い。

 まるで、すでに知っていたことをなぞるような手順。

(本当に……俺は誰なんだ?)

 言葉にならない疑問が胸を打つ。

 だが今は立ち止まってはいられない。


 ◆ 落とし穴

「つぎは、落とし穴だ」

 リュークは洞窟の入口近くの地面を指差しながら言った。

「ここに浅めの穴を掘る。深くなくていい。転ばせれば、十分だ」

 ザックが軽く眉を上げながら、スコップ代わりに剣を抜き、湿った土を手際よく削り始める。

 **ザクッ、ザクッ……**と土を裂く音が、静かな森に広がった。

「こんな感じか?」

「十分だ。枝と葉で覆って視界から隠す。
 足元の違和感を抑えれば、ゴブリンは気づかず踏み込むはずだ」

 土の匂いと静かな空気の中で、淡々と罠が組み上がっていく。

 だが、リュークの目はときおり、仲間たちの動きへと向けられていた。

(ここはもう巣の目と鼻の先。気を抜けば、気配を悟られる……)

 音を立てないように、掘る深さ、落ち葉を敷く角度、指先の動きまで慎重に整える。
 少しでも雑な動きがあれば、それだけで全てが水の泡になる可能性があった。

 それでも、誰一人として口には出さない。
 全員が、黙ってそれを理解していた。

(……彼らは何も言わずに手を動かしている。信じている、のか? それともただ任せているだけか)

 仲間であるという言葉は交わしていない。
 それでも今は――協力し、守り、託す関係が確かに存在している。

(……なら、今は信じて動く。それだけだ)

 ◆ 足止めトラップ(ロープ罠)
 リュークは森に生えている丈夫なツルや蔦を選び、手際よく編み始めた。

 葉を払いながら何本も引き抜き、編んで、締めて――
 蔦が鳴くような音を立て、徐々に形になっていく。

 その様子を、リーナがやや驚いたように見守る。

「慣れてるのね……そういうの」

「昔、似たような場面があっただけだ」

 そう答えつつ、リュークの中に蘇るのは、記憶ではなく、感覚だ。

 ――自分は何者だったのか。何をしていたのか。
 ロープを洞窟の入口付近に張りながら説明する。

「ゴブリンが勢いよく出てきたら、これで足を絡ませる」

 ガルドがロープを引き、ギシッと張力を確かめる。

「なるほど。単純だが、効果的だな」

 リュークはうなずきながら、罠の上に落ち葉をかぶせてカモフラージュしていく。
 その手つきは無駄がなく、しかし慎重だった。

「これで視認できなくなる。足元を取られれば、動きは確実に鈍る」

 シャドウファングがすぐ傍で地を嗅ぎながら、低く唸った。
 その気配に、リュークの目が細められる。

(何か、変だな……)

 ――あの洞窟、ただのゴブリンの巣じゃない。

 奥に、何か“違うもの”がいるかもしれない。

「……気を引き締めろ。こっちの準備は整えても、向こうが想定内とは限らない」

 その声に、空気が少し引き締まった。
 仲間たちの表情にも、わずかに緊張が走る。

(任せた。……そう思えるのなら、きっと、やれる)

「リーナ、ガルド、ザック――あとは、頼んだ」

 名を呼んで託した瞬間。
“仲間”という言葉の重みが、ほんの少しだけ近づいた気がした。

 リュークは最後に、ロープの端をきつく縛り、そっと立ち上がった。
 戦いは、目の前に迫っていた。

 すべての罠と道具が揃い、リュークたちは最終確認のために輪を作った。
 木々の間に広がる淡い夕光が、四人と一匹の影を長く落とす。

「よし、作戦はこうだ——」

 1.ゴブリンが洞窟から飛び出したら、足止めトラップと落とし穴で動きを封じる。
 2.俺とシャドウファングが裏手から回り、奇襲を仕掛ける。
 3.リーナが遠距離攻撃で撹乱、ザックが中衛を担当。
 4.ガルドが正面から戦い、リュークたちの動きをサポートする。
 5.煙玉を使い、ゴブリンをさらに混乱させる。

「準備は整ったな」

 ガルドが大剣を肩に担ぎ、静かに言った。その声には、緊張と覚悟がにじんでいる。

「ええ、これで仕留めるわよ」

 リーナが杖を握り直し、ちらりとリュークの方へ視線を送る。
 その目は鋭さと、どこか柔らかな関心を含んでいた。

「緊張してる? でも、初めてにしては、なかなか落ち着いてるわね」

 リュークは微かに笑い、肩をすくめる。

「……怖くないと言ったら嘘になる。でも、やるしかない」

 本当は、この中で自分が一番“素性が分からない存在”だ。
 仲間たちはどう思っているのだろうか――信じてくれているのか、それともただの戦力と見ているのか。

 だが今、この場で彼らと共にいるという事実だけが、唯一確かなものだった。
 その言葉に、ザックがふっと笑いを漏らす。

「いい根性してるな。初戦でその覚悟、悪くねぇ」

 リーナも微笑み、軽くリュークに頷いてみせた。
 その何気ない仕草に、リュークの中で何かがふとほぐれた気がした。

 彼らが完全に心を許しているとは思わない。だが――今この瞬間、自分を仲間として“輪の中”に置いてくれている。

 それだけで、十分だった。
 シャドウファングが低く唸り、リュークの横に寄り添う。

 鋭い瞳が、言葉の代わりに「準備はできている」と告げていた。

 リュークは仲間たちを順に見渡し、胸の内で深く息を吸い込む。

(俺は一人じゃない。そう思って、前に出ればいい)

「よし、それじゃあ――作戦開始だ!」

 ガルドの号令と共に、全員が一斉にそれぞれの持ち場へと散っていった。
 そして、残された森の空気に、ひとつだけ違和感が紛れ込む。

 ――空気が妙に重い。
 ただの戦闘前の緊張……それだけではない、何か静かに身を潜めているような。

「あの巣の奥には、何がある……?」

 リュークの背筋に、冷たい感覚が這い上がる。
 だがその答えを確かめるのは――、もうすぐだった。

 次回: 襲撃作戦、罠・連携・奇襲
 予告: 仕掛けた策が敵陣を貫く。
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