【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第35話 地下水道に蠢く魔物の第一撃

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 地下水道に足を踏み入れた瞬間、リュークは鼻を突く強烈な悪臭に顔をしかめた。

 湿気を含んだ空気が肌にまとわりつき、壁に生えた苔が濁った光を鈍く反射する。

「……何だ、この臭い……?」

 シャドウファングが喉の奥で低く唸り、耳を伏せながら前足を一歩踏み出す。

「気をつけろ、何かいるかもしれない。」

 リュークは声を潜め、短剣をしっかりと握る。
 足元の水面に、小さな波紋が広がった――

 何かが動いている。それも、複数。

「グルルル……」

 シャドウファングの視線の先、暗がりの奥から、ぬるりと影が姿を現した。
 赤黒い粘液にまみれた球状の塊――スライムだ。

 ただのスライムではない。
 皮膚が焼けただれたような見た目と、腐臭を帯びた蒸気を放ちながら、鈍く蠢いている。

「腐食スライムか……厄介だな。」

 リュークは即座に爆裂玉に手を伸ばすも、狭い通路では爆発の反動が自分たちにも及ぶ。

「シャドウファング、回り込んで注意を引け!」
「ガルゥッ!」

 シャドウファングは吠え声と共に水面を跳ね、スライムの側面に回り込んだ。

 ザバッ! バシャァッ――!

 水飛沫を蹴り上げる動きはまさに野性の狩人。

 リュークはその隙を逃さず脇道に身を躍らせる。
 冷たい汚水がブーツに染み、じわりと嫌な感触が這い上がった。

「こいつでどうだ!」

 リュークは油袋を取り出し、狙いすましてスライムの頭上に投げつける。

 バシャッ! 破裂音と共に、ねばついた油がスライムの表面にべったりと張り付く。

 火打石を擦る――カチ、カチ――ボッ!!
 火花が油に飛び、スライムの身体が一気に炎に包まれた。

 ズズッ……パチパチ……!

 粘液が焼け弾け、黒煙が狭い通路に充満していく。
 うねるスライムがのたうちまわり、焼け爛れた皮膜が崩れ落ちた。

 だが――
 奥の暗がりから、さらに三体のスライムが、ぬる……と這い出してくる。

 ズゥン……ズリュ……。

 重たい音と共に水面が揺れ、その質量が通路を圧迫するかのように広がっていく。

「数が多い……くそっ!」

 リュークは短剣を構え、後退しながら隙をうかがう。

 そのとき、シャドウファングが一直線に飛びかかり、一体のスライムに食らいついた。

 グシュッ! グジュリ――!

 牙が腐敗した粘液に突き刺さり、内部を抉るように肉を引き裂く。

 だが――

「ッ……! シャドウファング、下がれ!」

 リュークが叫ぶや否や、シャドウファングはすぐさま身を翻し、後方へと跳び退いた。

 だが、その牙からはジュゥ……という嫌な音が立ち上り、白く薄い煙が漂っていた。

「くそ……牙が、溶かされかけてる……!」

 リュークはすぐに水筒を取り出し、シャドウファングの口元へ流し込む。

 流れる水が腐食液を洗い流し、赤黒く変色した牙元からジュリ……と湯気が立ちのぼる。
(油断すれば、ファングとて無事では済まない……)

「……くそ、やるしかないな……!」

 リュークはポーチから爆裂玉を掴み取り、シャドウファングに素早く手信号を送った。

 黒狼は即座に反応し、リュークの背後へと滑り込むように退避する。

 リュークは一瞬で間合いを見極め、スライムたちの密集する中央へ爆裂玉を放り投げた。

 ――ドォン!!!

 爆発音が地下水道に轟き、鈍い振動が地面を揺らす。

 ズガガッ!! 岩壁が激しく軋み、散弾のように飛び散った粘液が天井まで跳ね上がる。

 水面が激しく波打ち、黒煙が一帯を包み込む。

 シュウゥゥ……ジュワ……と粘液が焼ける不快な音が、ゆっくりと静寂へと変わっていく。

 煙が晴れると、半ば崩れたスライムの残骸が水面に浮かび、じわじわと溶けていく音が残った。

 リュークは肩で息をしながら、短剣を握り直した。

「……ふぅ、何とかなったか。」

 だが――心の奥に、妙なざわめきが残る。
(……まだ終わっていない。今ので、騒ぎすぎたか?)

 爆発の音が通路の奥へと反響し、耳に届くよりも早く、“気配”が背筋を撫でた。
 次の波が、静かに牙を剥こうとしている。

 リュークは静かに息を吸い、すぐそばにいる黒狼を見やる。

「行こう、シャドウファング。まだ……何かが潜んでる。」

 ファングは低く唸り、応えるように隣を並んで歩き出す。
 二人の影は、濃密な闇の奥へと静かに溶けていった――。

 次回:黒い影との戦闘
 予告:影が迫る、牙も刃も届かない
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