【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第36話 黒い影との戦闘

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 地下水道の奥へ進むにつれ、空気は次第に冷たく、重苦しい湿り気を帯びていく。

 リュークの足音がチャプ……チャプ……と水面に広がり、石壁に反響して圧し掛かってくるようだった。

 やがて、わずかに開けた空間へと出る。
 シャドウファングは鼻を鳴らしながら先導し、時折グゥ……と低く唸って警戒を促していた。

「……何かいるな」

 リュークは短剣の柄を握り直し、薄闇の先に目を凝らす。
 ぼんやりと波打つ水面。その奥、何かが――蠢いている。

「グルル……!」

 シャドウファングが身を低く構えた――その直後。


 ズズッ……ズチャ……ッ
 粘液質の音を引きずるように、暗闇の奥から小さな影が這い出してきた。

「スライムか!」

 青黒い粘体がぬるぬると通路を埋め尽くし、どろりとした肉塊のように押し寄せてくる。

 その数は五体以上。しかし、リュークの視線は、群れの中の“異質な存在”に釘付けになった。

「……なんだ、あれ……?」

 スライムたちの合間から、それはにじみ出るように姿を現す。
 黒い靄を纏い、水面から這い上がるように現れた異形の“影”。

 輪郭は不安定に揺れ、その中心――人の顔にも似た“何か”が、無表情のまま、リュークを静かに見返していた。

(……この感覚……あの“影”に似ている。でも、あの時より――ずっと冷たい)

 ぞわり、と背筋に氷のような冷気が這い上がる。
 すぐさま短剣を構え、低く声を放つ。

「シャドウファング、後ろを頼む!」
「グルルッ!」

 黒狼が咆哮し、スライムの群れへと躍りかかる。

 ガギッ!――ズグッ!

 鋭い爪が粘液を裂き、重たく肉厚な体を踏み砕く。スライムが弾け、シュゥ……ッと焼けるような音と共に腐臭が広がる。

 だが――異形の“影”は、微動だにしない。
 ただ、リュークだけを凝視し続けていた。

「来い……!」

 リュークは腰の小瓶を掴み、迷いなく影に向かって投げつける。

 カシャッ!――バァン!

 ガラスが砕け、閃光が激しく弾ける。
 水面が白く染まり、スライムたちは**ギャルルッ……!**と悶え、のたうった。

 だがその中央――
“影”だけは、閃光の中にありながら一歩も動かず、目も閉じず、そこにただ在り続けていた。

「……やっぱり効かないか!」

 リュークの歯が噛み合わさる音が、水の跳ねる音に溶けた。

 即座にリュークは踏み込み、短剣を振るう。

 ザシュ……ッ!

 影の身体は空気ごと裂けるように霧散し、ただ鋭い風切り音だけが残った。

「クソッ、どうすれば……!」

 焦燥が喉を焼く中――
 影が、無音のまま滑るように動いた。

 ぬるり、と重力を無視するかのように距離を詰め――

 ブォン!

 黒く伸びた爪が空間をえぐるように振り下ろされる。

「っ……!」

 リュークは咄嗟に身を逸らすも、

 ズバッ――ビリィッ!!

 右腕を裂く鋭い感触と同時に、焼けるような激痛が走った。

「ぐっ……!」

 思わず呻きが漏れ、

 **ピチャッ、ピチャ……**と赤い滴が水面に弾け、静かな波紋を生んでいく。

 リュークは歯を食いしばり、左手で傷口を押さえながら後退した。

(……物理攻撃が通らない……なら――)

 素早く周囲を見渡す。

 通路の上部、崩れた階段の名残か、岩棚のように張り出した足場が視界に入る。
(あそこなら――!)

 即座に足場へ跳躍――

 ザリッ! ガキンッ!

 瓦礫を蹴って軌道をずらし、爪の射線を切ると同時に高所へと駆け上がる。

 有利な位置を取ったその瞬間、リュークは即座に手を振り、下のシャドウファングへ非言語で合図を送った。

「グルルッ!」

 シャドウファングは唸りを上げ、水面を裂くように疾走。

 バシュッ、バシャァッ――!

 跳ねる飛沫と共に影へ肉薄し、その巨体で鋭く周囲を旋回する。

(……いいぞ、注意を引いてくれている……!)

「――今しかない!」

 リュークは迷わず爆裂玉を構え、視線を定める。

「これでどうだっ!」

 ビュッ!

 投擲された爆裂玉が闇を切り裂き、影の真下に着弾――

 ドォォンッ!!!
 地響きのような爆音が洞窟を揺らし、

 ズガガン! ズン――!!

 破片が飛び散り、水柱が上がる。衝撃波が周囲の粘液や瓦礫を巻き込み、爆煙が立ちこめた。

 影の身体は、グラリ……ッとよろめき、黒い靄が剥がれ落ちて宙を漂う。

(やった……! シャドウファングの撹乱と、俺の狙撃が噛み合った!)

 緻密な「囮」と「狙撃」の連携。

 一瞬の戦術判断が、確かな成果を生み出していた。
(今しかない――!)


 リュークは短剣を強く握り、魔力を一点に集中させる。
 ビリビリ……ッ!

 刃先が淡く発光し、手元に伝わる熱量が、決意と覚悟を呼び起こす。

「喰らえッ!」

 ズバァッ!

 光の刃が闇を裂き、影の中心――あの“顔”を正確に貫いた。

 その瞬間、空気そのものが凍りつくような緊張が走る。

「……ギ……ィ……!」

 ギギ……ッ、ガクン……!

 声とも音ともつかない呻きと共に、影の身体がガクガクと痙攣し、
 中心から**ビキ……ビキィッ!**と黒い靄がひび割れていく。


 そして、崩壊の兆しとともに――
 ジュゥ……ッ……

 霧のように影が霧散し、残るのは水たまりの中央に焼きついたような黒い輪――
 静かに波打つ、“死の痕跡”だけだった。

(……倒した……!)

 リュークの胸に一瞬、安堵が広がりかけたその時――

「グルルッ……!」

 シャドウファングの低い警告の唸り。
 視線の先、主を失ったスライムたちが暴走するように這い寄ってくる。

 粘液がずるりと引き伸ばされ、**ズズッ……グチャッ……**という不快な音が近づいてくる。

「終わらせる……!」

 リュークは即座に態勢を取り直し、シャドウファングも間髪入れず通路脇を駆け、
 側面からの包囲に動く。

(今のうちに……!)

 リュークは懐から小型の油袋と火打石を取り出し、密集するスライムの中央に放り込んだ。

 ビシャッ!――パシュッ!

 油が飛び散り、続けざまに火花が閃光を伴って引火。

 ボワッ!!

 濁った光とともに炎がスライムの粘膜に燃え広がる。

 ジュルッ……ジリジリ……!

 焼ける粘液の臭気が鼻を突き、スライムたちが悶えるように蠢く。

「今だッ!」

 リュークは短剣を抜き、全身の力を込めて駆け込む。

 ズシャッ! ズブッ! ベチャッ!

 斬りつけるたび、ぬめりとともに粘液が飛散し、

 苦しむようにスライムたちが潰れ、崩れ、溶けていく。
 最後の一体――

 シャドウファングが跳びかかり、勢いそのままに

 ズバッ!!

 鋭い爪が粘体を二つに裂き、黒い液体を飛び散らせながら、その命を絶った。

「……これで、全部か」

 リュークは短剣を下ろし、**ゼェ……ゼェ……**と荒く息を吐く。

 肩にかかる湿気と汗が、ようやく終わった戦いの余韻を教えていた。

 シャドウファングも彼の元へと戻り、
 **トン……**と静かに隣に並んで座る。

「グルル……」

 その一声に、リュークは思わず頬を緩め、膝をついた。

 疲労と安堵が入り混じったまま、心だけがまだ張り詰めている。

(……シャドウファング。お前がいなければ、この勝ちはなかった)

 口には出さなかったが、
 リュークは静かにその横顔を見つめながら、感謝を伝えた。

 シャドウファングも応えるように、そっと尾を揺らした。
 ふと、リュークの視界の隅に淡く青い文字が浮かび上がる――。

 ――【レベルが上がりました】――
【リューク】

 レベル:4
 HP:100/100
 MP:35/35
 筋力:12
 敏捷性:12
 耐久力:11
 魔力:9

 スキル:メモリーバンク(開放条件未達成)
 スキル開放条件:(LV.1)金貨小1枚:(LV.2)金貨小5枚

 レベルが上がった。だが、今は浮かれている場合ではない。
(……けど)

 体の内側からじわりと力が湧く感覚があった。

 一瞬、全身を風が抜けたように軽くなり、筋肉の動きが鋭く研ぎ澄まされていく。

 ――まるで、戦いの最中に感じた敵の動きが、今ならはっきり“読める”ような気がする。

「……これが、レベルアップの効果か」

 息を整えながら周囲を見渡す。蒸気の混じる地下水道の空気が、わずかに静まり返っていた。

 **チャプ……チャプ……**と足元の水面が、余韻のように波紋を広げている。

 タッ、タッ――

 シャドウファングが水飛沫を跳ね上げて駆け寄ってくる。
 その瞳には鋭さと、どこか誇らしげな光が宿っていた。

 リュークは軽く頷き、傷口を押さえて立ち上がる。
 掌ににじむ血の感触――ズキリと熱が走るが、それでも前へ進むことに迷いはない。

「よし、先へ進もう」

 刃を収め、闇の奥を睨む。
 そこにはまだ“終わり”の気配はない。

 ――新たな脅威か、それとも、
 忘れていた“何か”が待つ場所か。
 湿った空気の中、ふたりの影が再び歩き出した。

 次回:錯する爪と封印の術式
 予告:音と共鳴し、輝く紋章。封印が、微かに脈打つ
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