【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第46話 黒の再来、解析と対峙

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 奥へ進むにつれ、空気は次第に重くなり、ひんやりとした冷気が肌を刺した。

「嫌な感じだな……」

 ガルドが剣を構え、周囲を警戒する。リーナは杖を握りしめ、詠唱の準備を整えていた。ザックは無言で闇に溶け込むように影へ潜む。

「何か来る……!」

 リュークが気配を察した瞬間、水面が不気味に波打ち、漆黒の影が静かに這い出してきた。

「来たぞ!」

 黒い霧のような影は、音もなく触手を伸ばし、シャドウファングへと襲いかかる。
 その動きは、以前地下水道で見た“あの影”と酷似していた――いや、それ以上だ。

(……また、あの悪夢のような敵……!)

 一瞬、背中に冷たい悪寒が走る。あの時、全身を貫いた底知れぬ恐怖が脳裏に蘇る。
 だが――今回は違った。

 リュークの脳内に、まるで稲妻が走るような感覚が突き抜けた瞬間、視界が一気に鮮明になる。

(見える……?)

 黒い靄が再び形を成すと同時に、以前とは違う“解析された像”として、敵の動きが明確に捉えられた。

 触手を振る直前、水面にわずかな歪みが生じる。

 次の瞬間、リュークの体は考えるより早く自然に動いていた。

「これが……メモリーバンクの力……!」

 敵の禍々しさは今も変わらない。

 だが、恐怖は麻痺するように薄れている。むしろ、戦闘データが流れ込んでくるような感覚と共に、リュークの体は以前のような萎縮を見せなかった。

 剣を握る手に確かな手応えが宿る。

「……勝てる」

 そう確信するほどに、彼の動きは研ぎ澄まされていく。

 まるで何度もこの敵と相対してきたかのように、リュークは敵の癖とタイミングを読み、自然と回避と攻撃の手を動かしていた。

「シャドウファング、かわせ!」

 リュークは咄嗟に短く鋭い口笛を鳴らし、手を振って左へ誘導した。

「グルルッ!」

 黒き獣は瞬時に水面を蹴り、しなやかな跳躍で横へ飛び退く。

 反撃の爪が霧状の影を裂こうと閃くが、その直前に影はふっと形を崩し、煙のように拡散して空振りした。

「くそ……触れる寸前で、形が消える……!」

 リュークは低く唸る。
 影は再び形を構成し直し、今度はリーナを狙って揺れ動く。

 ズズズッ……

 触手が床を這い、圧倒的な質量感と共にリーナへと一直線に迫った。

「くっ……ファイアボルト!」

 リーナの詠唱が終わり、杖から放たれた炎の矢が鋭く影を貫く――はずだった。

 だが、赤い光は吸い込まれるように影の中へ沈み込み、わずかに霧を震わせただけで消えた。

「魔法も通らない……!?」

 リュークは状況を瞬時に分析する。
(魔力干渉……やはり音が弱点だ。前回も、爆竹と吠え声に反応した……なら!)

「シャドウファング、威嚇しろ!」

 リュークは手をパッと開いて斜めに振る。

「ガウウウッ!」

 シャドウファングが咆哮し、影の動きがわずかに鈍る。
 その隙をつき、ザックが影の背後に忍び寄る。

「ザック、待て――!」

 リュークの叫びも間に合わず、刃が影を断ち切った。
 だが――

「すり抜けた!?」

 ザックは跳び退き、苛立ったように舌打ちする。

「感触がねぇ……まるで……影を斬った気にさせるだけだ……!」

 影がリュークへ飛びかかろうとした瞬間――

 ズンッ!

 その攻撃は明らかに霧ではなく質量を持ち、リュークの肩をかすめただけで激しく押し込んできた。

「くっ……!」

 冷たさと共にビリビリとした痺れが腕を襲う。
(……ただの霧じゃない。これは空間そのものを歪める“圧”だ)

 影が止めを刺す前に、鋼の閃きが飛び込んだ。

「リューク、下がれ!」

 ガルドの斬撃が影の触手を弾き飛ばす。

「リーナ、光魔法!」
「任せて!」

 リーナの詠唱と共に発せられた光が影を照らし、わずかに怯ませる。

「今だ、後ろを取るぞ!」

 ザックが飛び込もうとするが、影は霧散し、視界の外へ逃げた。

「リューク、チャンスは今しかないぞ!」

 ガルドの叫びに、リュークは決意を固める。
(……この動き、知っている。……ならば、いける!)

 リュークは懐から《魔物核》を取り出し、手に力を込める。

「シャドウファング、止めろ!」

 口笛と手で進路指示を送ると、

「ガルルアァッ!」

 黒き獣が低く吠え、影の進路を塞ぐように飛びかかった。
 鋭い爪と牙が影を捕らえようとし――

 その瞬間に合わせ、リュークは震える手で魔物核を高く掲げ、深く息を吸い込んだ。

 そして、リュークは迷いなく詠唱を始めた。

「漆黒の闇を裂き、虚無に抗う光よ――
 我が名の下に契約を交わし、その鎖を顕現せよ!
 影を縛る鎖よ、今ここに!」

 魔物核が紫に輝き、水面に映る光が波紋となって揺らめく。

 その瞬間――リュークの首元で、**カラン……**と鈍い音が響いた。
 くすんだ金属片の首飾りが、自身の意思を持つように微かに震え、核の輝きに共鳴して淡い光を放つ。

(……共鳴している? まるで核と……俺の魔力と……)

 直後、**ビキビキッ……!**という音と共に、紫の鎖が空間に現れ、うねる影を絡め取った。

「……やったか!?」

 影は苦悶のうねりと共にその身を捩らせた。

 不規則に揺れる霧が何度も形を変え、**ガリガリ……ギチギチ……**とノイズのような音を立てて抵抗する。

「動きが鈍った……!」

 リュークは前回の戦いで経験を活かす。

「シャドウファング、吠えろ! 音をぶつけて隙を作るんだ!」
「ガルルルアァッ!」

 シャドウファングの咆哮が水路全体に響く。

 だがそれはただの咆哮ではなかった。
 音に混ざるように、微細な魔素の振動――空気を震わせるような共鳴波が広がる。

 あの時に感じたときと似た“ゆらぎ”が、水路の空間そのものを揺らしていく。
 影の身体がわずかに**ザラ……**と歪み、霧のようにたゆたう輪郭が乱れた。

 途端に影の動きがビクッと止まり、まるで耳を塞ぐように触手を引き寄せる。
(やはり……音と魔素に反応する!)

 その好機を逃さず、リュークは叫ぶ。

「シャドウファング、決めろ!」
「グルルッ!」

 黒き獣が躊躇なく影に飛びかかり、鋭い牙と爪が霧の身体を**ザシュッ、ザシュッ!と裂く。
 裂かれるたび、影はギャアア……ッ!**と叫びにも似た呻きを上げ、形を保てなくなっていく。

 しかし、それでも完全には消えない。
 断末魔のような呻き声を上げつつ、影はなおも鎖の中でもがき続けた。

「リューク、今しかない!」

 ガルドの声が飛ぶ。
 リュークは迷いなく駆け出し、紫の鎖に縛られた影の“中心”へと飛び込む。

「終われ……!」

 短剣を握り直し、核の光を刃へと転じて、影の核心へ魔力を込めて突き立てた――その瞬間、
 ビキビキビキッ……バチィン!

 紫光が炸裂し、影の全身を走る赤黒い目がひとつ、またひとつと**ピキッ、ピキッ……と砕け散っていく。

 最後の目が割れると同時に、影全体がギャアアアア……ァ……**というか細い呻き声を上げ――

 **バラバラ……**とノイズ音を撒き散らしながら崩壊し、霧のように魔物核へと吸い込まれた。

 ただ静まり返った水音と、淡く揺れる光の残滓だけが、その場に残る。

 地下水道に――静寂が訪れた。
 誰もが息を詰めたまま、動けずにいた。

 リュークも、ガルドも、リーナも、ザックも、シャドウファングさえも。
 一瞬、全員が互いに無言で顔を見合わせる。

(……終わった、のか?)

 リュークは自問するように胸中で呟いた。

 だが、誰も口には出さない。ただ、鼓動だけが静かに耳に響く。

 やがて、ザックが大きく息を吐き、わずかに緊張がほどけた。
 それは、張り詰めた糸がふっと解かれるような音だった。

「これで……終わったのか……?」

 水面を見つめたまま、ザックが静かに呟く。

 その声には、ほんの少しだけ震えが混じっていた。
 安堵と、恐怖の残り香と、どこか虚脱に近い感情が滲んでいた。

 リュークは短剣を下ろし、シャドウファングの頭に手を置いた。
 黒き相棒は疲れたように目を細めながらも、静かに尾を振る。

「……多分な」

 短く返すと同時に、リュークの胸にも確かな実感があった。
 それは、激しい勝利の歓喜ではない。

 だが、骨の芯にまで染みるような“ほっとした喜び”だった。

 前回の戦い――ただ恐怖に呑まれ、逃げるしかなかったあの時とは、違った。
(……あの時は本当に、死ぬと思った)

 背中を冷たいものが這い、声も出せず、ただ怯えていた。
 その無力感が、どれほど悔しかったか。どれほど自分を責めたか。

(でも、今回は――)
 思い返す。

 仲間たちと共に連携し、隙を作り、チャンスを掴んだこと。
 シャドウファングと息を合わせ、全員が信じ合って戦った時間。

 メモリーバンクの力が、戦いの最中に自然と自分を導いてくれたこと。
(俺だけじゃない。ガルドたちがいたから……だから、前よりも怖くなかった)

 リュークの胸に、熱くこみ上げるものがあった。
 勝てたことの嬉しさではない。

「一人じゃなかった」

 ことへの、静かな喜び。

 それが、喉の奥を詰まらせた。
(確かに怖い。けれど――ただ怯えていたあの時とは、もう違う)

 リュークはそっと仲間たちを見回した。
 誰もが傷つき、泥にまみれ、疲弊している。

 けれど、その顔には確かな充足と、戦い抜いた誇りが刻まれていた。
 ――そうだ、これはただの勝利じゃない。

“あの恐怖”を超えて、生き延びた証だ。

「帰ろう、みんな……」

 その言葉は、誰にというわけでもなく、自然に場を包んだ。
 優しさと、静かな決意が混ざったその声に、皆が静かに頷いた。

 リーナがそっと目を伏せ、口元に微笑を浮かべる。
 ザックは照れ隠しのように肩をすくめ、

 ガルドは黙って大剣を背負い直し、前を向いた。
 その姿に、言葉よりも深い信頼があった。

 仲間たちは疲れた足取りで歩き出す。
 重く沈んだ空気が、少しずつ解きほぐされていく。

 静寂の中、リュークたちは地下水道を後にし、ギルドへの帰路についた。
 夜の空気が、どこかひんやりと優しかった。

 まるで、戦い抜いた者たちを労うように――。


 次回:ギルドへの帰還、報告
 予告:ギルドでの報告、本当に封じられたのか」

――――――――――――――――――――――――――――――――
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