【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第49話 昇格と報酬──浮かび上がる盗賊団の残火

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 リュークたちはギルドの扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。

 外の夜明け前の静けさとは裏腹に、内部は既に活気に包まれていた。依頼を受けようと集まった冒険者たちの声が、あちこちで飛び交っている。

 そんな中、カウンターの奥にいた受付嬢――エリナが、こちらに気付き、優しく微笑んだ。

「みなさん……お疲れ様でした」

 柔らかな声と共に、エリナは小さな袋を差し出してくる。

 リュークが受け取り、中を覗き込むと――金貨数枚と銀貨がいくつか、静かに輝いていた。

「おっ、これだけあれば少しは装備を整えられるな」

 隣で覗き込んだガルドが、満足そうに言葉を漏らす。

「次は何をする? 装備を新調するのもいいが……」

 ガルドが硬貨を弄びながら、軽い調子で尋ねた。

 しかし、エリナはまだ続きがあるようだった。

 彼女は柔らかな笑みを浮かべながら、小さな封筒とギルドカードを取り出し、リュークに差し出す。

「それと……こちらもお渡ししておきます。昇格通知です。おめでとうございます」
「……昇格?」

 リュークは訝しげに受け取ったカードを見下ろした。
 指先で角をなぞると、そこには確かに刻まれた“E”の文字があった。

「はい。FランクからEランクへの昇格です」

 エリナは誇らしげに頷く。

「うちのギルドでは、Fランクは“実力”だけでなく、“姿勢や行動”を見させてもらう期間でもあります」

「依頼への取り組み方、仲間との連携、報告の正確さ……そうした部分も、しっかり評価させてもらいました」

 その言葉に、ガルドがリュークの肩をガシッと叩き、笑い声をあげた。

「やるじゃねえか、リューク!」
「まあ、真面目にやってたからな」

 ザックもいつもの無愛想な顔に、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。
 リーナもにこやかに頷き、続ける。

「リュークさんって、無理に馴れ合おうとはしないけど……誰よりも冷静に、ちゃんと全体を見ているものね」

 リュークは一瞬、戸惑いながらも、自然と表情がほころんだ。

 確かに、以前のように孤独に戦っていた頃とは違う。今は、こうして肩を並べ、信頼し合える仲間たちがいる――それが、何よりも嬉しかった。

「報告書、ちゃんと自分の言葉で書いてる人、最近少ないですから」
「……へえ。真面目だと思われてるとはな」

 リュークは皮肉めいた笑みを浮かべたが、その表情の奥に、ほんの少しだけ満足げな色が滲んでいた。

「これで、少し高難度の依頼も受けられます」

 その背に、シャドウファングが静かに寄り添う。

「それでなんですけど……」

 さらに、エリナがもう一枚紙を取り出した。

「実は、新たな依頼が出されています。盗賊団『黒蛇の牙』の残党討伐依頼です。」
「盗賊団?」

 リュークが眉をひそめた。

「ええ。ギルドが討伐依頼を出して一度は壊滅したんですが……生き残りが数人、近くの森に潜伏しているようなんです。」

「また最近、街道での襲撃も相次いでいまして……もしよろしければ、調査と討伐をお願いできませんか?」

 エリナは少し不安げな表情でそう告げた。

 話を聞いたガルドは腕を組み、険しい面持ちで唸る。

「盗賊どもが……またのさばってやがるってわけか。放っておくわけにはいかねぇな」

 その言葉に、ザックが冷静な口調で続けた。

「盗賊団の残党か……。報酬も悪くないし、今の俺たちなら十分相手になるだろう」

 だが、油断は禁物だった。
 ガルドはザックを一瞥し、やや強めの口調で釘を刺した。

「いや、そう簡単にはいかねぇぞ。こいつらは命懸けで生き延びた連中だ。ただの雑魚じゃない。準備もなしに突っ込むなんざ、自殺行為だ」

 真剣な空気が一瞬その場を支配する。

 リュークはそんなやり取りを静かに聞きながら、思考を巡らせた。
(……確かに放置はできない。今後の旅路を考えても、ここで手を打つべきだ)

 迷いを断ち切るように、リュークは短剣の柄を握り締め、決意を込めて口を開いた。

「受けましょう。ここで片をつけるべきです」

 リュークの言葉に、リーナとザックも視線を交わし、静かに頷く。
 ガルドもやや厳しい表情を緩め、了承の意を示した。

「いいだろう」
「ありがとうございます!」

 エリナは安堵したように、討伐依頼書を手渡してくる。

「それで……報酬は?」

 ザックが相変わらず無表情のまま、淡々と尋ねた。

「残党を全滅させれば金貨小5枚、さらに頭目を討ち取れば追加で5枚です」
「……悪くない」

 ザックは小さく頷き、満足げにその場を収めた。
 ガルドは再びリュークに向き直り、手で軽く肩を叩く。

「盗賊相手は魔物とは勝手が違う。しっかり準備しておけよ」
「……もちろんです」

 リュークは真剣な表情で応えた。

 その後、一行はギルドを後にし、街の商店を回って装備を整えることにした。

 リュークは短剣の刃を念入りに研ぎ、ガルドは鎧の補強を入念に行う。
 リーナは魔法触媒を補充し、ザックは新たな短剣を手に入れた。

 そして――
 いつも通り、シャドウファングは静かにリュークの隣に寄り添い、決戦の時を待つかのようにじっとしていた。

 準備を整えたリュークたちは、一度広場近くの宿に立ち寄り、最後の確認を行った。

 リーナは携帯用の魔法薬を詰め直し、ザックは短剣の刃を慎重に点検する。
 ガルドは腕組みをしながら、リュークたちを静かに見守っていた。

「これで、全員準備完了か」

 ガルドが声をかけると、リーナとザックが頷き、リュークも静かに応じた。
 街道を抜ける前、彼らは宿の裏手にある小さな公園に立ち寄った。

 そこには風に揺れる大きな樹があり、月の光に照らされて銀色に輝いていた。

 リュークは短剣を腰に収めると、ふと夜空を見上げた。
 高く澄んだ空には、無数の星が瞬いている。

「……静かだな」

 誰ともなく、ガルドが呟いた。

 リーナは軽く笑いながら、シャドウファングの首筋を撫でた。
 黒狼は心地よさそうに目を細める。

「こんな時間も、悪くないわね」

 リーナのその言葉に、誰もが一瞬だけ、緊張を忘れた。
 束の間の穏やかな時間。

 だが、彼らは知っている。次に待つのは、生死を懸けた戦いだ。

「さあ、行くぞ。黒蛇の牙を根絶やしにしてやろう」

 ガルドが剣を担いで言う。

 リュークは仲間たちを見渡し、深く頷いた。

 仲間たちは頷き合い、夜の森へと歩みを進めた。

「奴らに、地下水道の影よりも恐ろしいものを見せてやろう。」


 次回:森の追跡戦──残党を追え
 予告:油断は死を招く。夜の森に潜む盗賊たち
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