【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第48話 静寂の街で誓う決意

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 ギルドを後にしたリュークたちは、夜の静けさに包まれた街を歩いていた。

 夜空には雲がかかり、月明かりはほとんど差し込まない。
 石畳を踏みしめる靴音だけが、ひっそりと響いている。

 通りの脇では、小さな屋台がまだ営業を続けていた。
 焼き栗の香ばしい匂いが漂い、通りかかった子供たちがはしゃぎながら駆けていく。

「……今日は、本当にお疲れさま」

 リーナがほっとしたように呟く。彼女の顔には疲労が色濃く浮かんでいた。

「ああ……まったくだ。生きて帰れて良かったぜ」

 ガルドは肩を回しながら深く息を吐く。その隣でザックは静かに歩き、いつものように言葉は少ない。

 リュークは無言のまま夜道を歩き続けた。

 シャドウファングが寄り添いながら、静かに歩調を合わせている。

 途中、街角のベンチで旅芸人らしき者が、静かにリュートを奏でていた。
 柔らかな音色が夜の空気に溶け、わずかに疲れた心を和らげる。

(俺にできることは……何だ?)
 影との戦いを思い返すたび、己の無力さが胸を突き刺した。

 確かに封印術を使って影を封じたが、それもギリギリの勝利。何度も死を覚悟した瞬間があった。

 もっと強くならなければならない。これから先、何が待ち受けているか分からないのだから。

「リューク?」

 ふと、リーナが声をかけた。彼女は心配そうな表情を浮かべている。

「大丈夫よ。あなたは十分に頑張ったわ」

「ありがとう、リーナ。でも、まだ足りない。あの影を封じたってだけで、またいつか現れるかもしれない。俺は、もっと力をつけないと……」

 その言葉に、ガルドが立ち止まった。

「焦るなよ、リューク」
「ガルドさん……」

「お前がいなけりゃ、俺たちは地下水道で全滅してた。少なくとも、今のお前は俺たちの仲間だ。そのことを忘れるな」

 リュークは驚き、ガルドを見つめる。
 その言葉が、少しだけ心に温かさを灯してくれた。

「……ありがとう」

 遠くで鐘の音が響く。
 街の教会が、深夜の時刻を告げていた。

 静寂が再び訪れ、仲間たちはそれぞれ思い思いの表情で歩き出した。

 リュークは、シャドウファングの頭を軽く撫でると、顔を上げた。
(……負けない。必ず、前へ進む)

 夜風が静かに吹き抜ける中、彼らは宿へと戻っていった。
 ──新たな朝が来ることを信じて。

 ◆夜明け前:一人の鍛錬
 部屋に戻ったリュークは、ベッドに横たわることなく、再び外へ出た。シャドウファングだけが彼の後を静かに追う。

 薄暗い夜道を抜け、街外れの小さな訓練場に立つ。ここは冒険者ギルドが提供している場所で、夜は誰も使っていない。

 リュークは短剣を構えた。

「……もっと強くならないと」

 彼は空を斬るように短剣を振る。何度も、何度も。
 ——影の触手が襲いかかってくる感覚。
 ——凍えるような冷気。
 ——仲間たちが傷つく光景。

 そのすべてを振り払うように、リュークは剣を振り続けた。

「ハァッ!」

 一閃。短剣が夜空を切り裂く。しかし、何かが足りない。自分はまだ何も掴めていない。

「何をしている?」

 突然、声がした。振り向くと、ガルドがそこに立っていた。

「ガルドさん……」
「夜中にこんな場所で鍛錬か? 寝てた方がマシだぞ」

「……それでも、やらなきゃいけないんです。もっと強くならないと、みんなを守れない」

 ガルドはため息をつき、リュークの隣に立った。

「なら、付き合ってやるよ」

 ガルドは剣を抜き、構える。その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。

「いくぞ、リューク!」

 二人の剣が交わり、夜明け前の静寂を切り裂いた。
 シャドウファングはその様子を見守りながら、静かに夜の風を感じていた。

 リュークの旅は、まだ始まったばかりだ。


 ◆闇の会合
 暗闇の中、僅かな燭光が揺れ、長い影を壁に映し出していた。

 重厚な石造りの部屋。そこに佇むのは、黒きローブを纏う数人の男たち。彼らの中央には、巨大な影が蠢いていた。

 それは人の形をしていたが、輪郭はぼやけ、まるで闇そのものが具現化したような異質な存在だった。

「……深淵の眷属が、討たれました」
 低く、震える声が報告を告げる。

 その瞬間、影がゆっくりと広がり、部屋の温度が一気に下がった。壁に刻まれた古代文字が、まるでそれに呼応するかのように妖しく脈動する。

「……誰がやった?」

 重く、ねっとりとした声が響いた。それは尋ねるというよりも、事実を確認するような冷酷な響きを帯びていた。

「ベルハイムの近くの冒険者パーティーです。詳細は不明ですが、術式の残滓から――量子干渉型魔法の痕跡が微かに検出されました」

 その言葉に、影の輪郭がわずかに揺れ、室内の空気が張り詰める。

「……観測と干渉を両立する異端の術――」
「かつての《アストラム干渉理論》が、現実に顕れたとでもいうのか」

 誰かが呟いた声は、明確な恐れと警戒を滲ませていた。

「それは、封印されたはずの禁忌。存在そのものが、理を揺るがす」
「もし奴が“完全に目覚めた”のなら……均衡は崩れる」

「ベルハイムの近くの冒険者パーティーです。詳細は不明ですが、単独で影を討った模様……ただ、異常があります」

「異常?」

 影が蠢き、部屋全体がわずかに揺れた。

「討伐後、封印が解除されました」

 沈黙が落ちる。

 次の瞬間——

 バキィッ!

 何かが砕ける音が響いた。影の一部が床に伸び、報告した男の首を掴んで持ち上げた。

「それは……どういうことだ?」
「ぐっ……申し訳ありません……我々も……詳細を……っ」

 影がさらに強く締め付ける。男は苦しげに身を捩るが、もはや無駄だった。

「封印は簡単に解けるものではない。何かが……"目覚めた" のか?」

 影が考え込むように動きを止める。
 やがて、興味深げにくぐもった笑い声を漏らした。

「……面白い」

 影が男を解放すると、床に崩れ落ちた彼は、荒い息を吐きながら震えていた。

「動け」
「……はっ」

「ベルハイムの動きを監視しろ。特に、討伐した冒険者……そいつが封印解除に関与しているのなら、我々の計画を狂わせるかもしれん」

 影は、じわりと広がり、部屋の隅へと流れるように消えていった。

「次の"駒"を送れ。遊びはここからだ……」

 燭光が一瞬揺らぎ、部屋の温度が元に戻った。しかし、そこにいた者たちは、誰一人として息を吐くことすらできなかった。

 次回:昇格と報酬──浮かび上がる盗賊団の残火
 予告:一夜の安らぎ。だが心は、次の戦いを見据えていた。
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