拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

文字の大きさ
346 / 389
束の間のポーレット

508

しおりを挟む
 イオリは残りのシチューを口に入れるとカッチェに聞いた。

「どんな食べ方してるんですか?」

「チーズを薄切りにしても出すんだけど、やっぱり前に教えてもらったチーズフォンデュが人気かな。
 シチューセットにもつけているけど、柔らかいパンをつけるから人気なんです。」

 イオリは少し考えると、ニコッとした。

「燻製・・・スモークチーズなんてどうですか?」

「スモークチーズ?何だいそりゃ。」

「燻すんですよ。」

 イオリの言葉に首を傾げるカッチェの代わりにバートが口を挟んだ。

「燻すとは殺菌とかのアレですか?」

「そうです!そうです!
 虫の駆除とかにも使われる技法ですけどね。
 料理の場合は煙を食材にまとわすんです。
 香りをつける事で一味違う物になりますよ。
 簡単な方法があるのでお教えしましょう。」

 早速、イオリは店の裏手を借りると使わない鍋を借りた。

「燻製は説明した通り、香りが充満するので外がいいですね。
 それに鍋にも香りがつくので専用のを選んだほうがいいですよ。」

 説明しながらもイオリは大きな葉の上に木のチップを乗せて、簡易コンロの上に置いた。
 鍋に石を置き網を引き、チーズを並べて蓋をする。

「この状態で最初は中火で煙が出たら弱火にします。火が強すぎるとチーズは溶けますからね。
 木のチップはお好みによります。今回はクルミの木を使います。木は適度に細かくするといいですよ。
 燻すぎると品物が乾燥して食べにくいので、最適を見つける事が必要です。
 チーズだったら、お湯が沸くくらいの時間より少し長めですかね。」

 カッチェだけでなく全員がイオリの作業を覗く中、鍋から煙が漏れ出して何とも言えない芳しい香りがしてきた。

「この香りをチーズに纏わせるのですね?」

「はい。
 料理は味だけでなく香りが大切です。
 いつもの食べ物が香り1つで変化するんです。
 チーズだけじゃありません。ゆで卵やお肉だって美味しいですよ。」

 料理には香りが大切と言うイオリにバートは微笑んだ。
 どんなに忙しくなってもイオリの知っている事を魅力的に思うのは変わらない。
 燻製のレクチャーを受けながらも時間はすぐに過ぎていく。

 ゼンやアウラは『臭いの無理』と店の中に逃げ込んでしまった。
 嗅覚の強い彼らには苦手な匂いのようだ。

「もういいかな・・・。」

 イオリが蓋を開けると、鍋の中で充満していた煙が飛び出て香りの大砲が撃たれた。

「「いい香りー!・・・ゴホッ!ゴホッ!」」

 双子は煙を吸おうと前屈みになるがむせてしまった。
 
「ふふふ。気をつけて。湯気じゃなくて、煙だからね。
 ほら出来たよ。」

 チーズの塊が白から茶色に変色しているのにカッチェは驚いた。

「こ・・これ食べられるんですか?」

「勿論ですよ。」

 イオリはそう言いながら、ひとつまみして口に入れた。

「ぅーん!美味しい!!
 常温に冷やして香りを定着させる方が良いですけど、出来立ては美味しいですね。」

 イオリの味見を信じている子供達は我先にと手を伸ばした。

「「何これ!いつものチーズと違う。」」

「ナギは好き。」

「ニナはくさーい。」

 一番小さなニナには、どうやら早かったようだ。
 それでも双子とナギは美味しそうしていた。

「うん。うまいよ。
 俺は普通のチーズよりこっちが食べやすい。」

 満足気なヒューゴはニナが残したスモークチーズもペロリと食べてしまった。

「俺にも食わせてくれ!」

「私も下さい!」

 カッチェとバートを始め大人達がスモークチーズの味を試す。

!!!!!

「全く違うじゃないか!」

「香ばしいとはコレのことか!」

「これなら酒に合いますよ!!」

「美味しい・・・。」

 ハンスやメルロス、店の従業員にも好評なスモークチーズにカッチェはしばし黙り込んでいた。
 何度も匂いを嗅ぎ、味見をする。

「これはすごいもんだ。
 冷やしてもいいんですか?」

「本来は保存食なんですよ。
 魚や豚も燻製にすると日持ちするんです。
 今は出来立て食べましたけど、一度に多く作って店で出すのも良いですね。」

 カッチェはウンウンと頷きバートの判断を待っている。

「私もいいと思います。
 美味です。
 製造に匂いの問題があるのなら、牧場や工場での生産はどうでしょう。
 冷えてもいいのなら、流通もしますしね。」

 バートは早速、カッチェやメルロスと仕事の話に取り掛かった。

 夜になって客に出せば、瞬く間に人気になり夜の時間にも人が増えた。
 特にチーズは女性に人気で、産業の消費に貢献している。
 
 恵みとは言ったもので、一つの材料から様々な食材が出来る事から、ポーレットに限らず他領でも牛の乳への注目度が高いのだとか。
 ポーレットの片隅の露店で売りに出されていた牛の乳の変貌は、この後も続くのだろう。


「うん。燻製うまい!
 ベーコンとか卵とか試してみよう。」

 イオリは1人、産業など考えずに単純にスモークチーズを楽しんでいるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したけど、ボクは何をすればいい?まずは生活を快適にすることから始めようか?!〜塩味だけの世界に前世の知識で美味い料理作ってく〜

あんり
ファンタジー
下門快斗は20歳で事故に遭い、ちょっぴり残念な女神様に異世界転生のチャンスをもらった。 新たな名はカイト・ブラウン・マーシュ。マーシュ辺境伯家の嫡男として生まれ変わるが、待っていたのは「塩味だけの料理」しかない世界!? 「そんなの耐えられない!ボクが美味しいご飯を作る!」 前世の知識で和食や沖縄料理を振る舞えば、パパ、ママたち異世界人は驚き、感動に打ち震え、夢中になる。 さらに女神様からは、全属性魔法+新たな魔法を作れる“創造魔法”の祝福を授かり、どんな傷も癒す聖水に変わる魔法のペットボトルを手にし、ついには女神の使いである幻獣・白虎と契約してしまう! 美味しいご飯と不思議な魔法、そして仲間たちに愛されて。 笑いあり、クスッとありの“グルメ&ファンタジーライフ”が、今ここに始まる!

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界日帰りごはん 料理で王国の胃袋を掴みます!

ちっき
ファンタジー
【書籍出ました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。