地獄の沙汰も酒次第・・・街に愛された殺し屋達に会いたいのならBar Hopeへようこそ

ぽん

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男が指輪を手にした時

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「ちびっ子共!差し入れ持って来たぞ!!」

「「「「「わーい!!!」」」」」
 
「みんなの分あるから、分け合って食べてくださいね。」

「「「「「はーい!!」」」」」

 ここはダチュラの中心地より外れた海沿いのエリア。
 教会の側にある施設“ベルソー”は今日も子供達の笑い声が聞こえている。

 Bar  Hopeのボーイであるジェットとフリント、メイドのルースにバンドでピアノを担当しているスタンがそれぞれ大きな袋を抱えてやってきた。
 今ではBar Hopeの誰かが定期的に訪れ、子供達にお菓子を配っては様子を見に来るのが習慣となっている。

「いつもありがとうございます。」

 ニコニコとやって来たのは、神父として働くフレディ・ギボンで両手にカゴを抱えて現れた。

「こんにちわ。とても立派なジャガイモが出来ましたね。」

 ルースは微笑むと頭を下げた。

「えぇ、子供達と一緒に植えたんですよ。
 海沿いなんで育たないのではと心配してましたが、なんとか実をつけてくれました。」

「へー。それは子供達も収穫祭が楽しみだな。」

 スタンは寄ってきた大きめな少女に紙袋を渡すと頭を撫でながら微笑んだ。

「収穫祭ですか・・・もう少し種類が沢山作れるようになったら、やってみましょう。
 ジャガイモだけだと、ジャガイモ祭りになってしまいますから。」

 ギボン神父の言葉に笑う大人達を子供達は不思議そうに見ていた。

「時々、店の始まる前に顔を出してくれますがリトゥルはどうですか?」

 心配そうなギボン神父に4人が目を合わせた。

「うん。よくやってると思いますよ。」

「そうですね。気も聞くし、何事もそつが無いです。
 この間も電球を変えるのに手間取ってたら、すぐに手伝ってくれました。」

「まだ、気が張ってるところもあるけどお客さんの中にはアイツとの挨拶を楽しみにしてくれる人もいるらしい。」

「・・・頑張ってる。」

 珍しくフリントまでもが報告をすると、ギボン神父は嬉しそうに頷いた。

「そうですか・・・。何にせよ。仕事というのは一筋縄ではいきませんからね。
 鍛えてやって下さい。」

「「「それは、任せて!」」」
「・・・。」

 4人の柔かな表情に安堵したのかギボン神父は4人を施設に招いた。

「それよりもはどうだい?慣れたの?」

 スタンは走り回る子供達を器用に避けながらギボン神父に話しかけた。

「はい。お陰様で何とかやってます。
 ビーナ司祭様には大変お世話になっていますし、シスターの皆さんにも優しくしていただいています。
 モーリスも神父になる勉強をしながら施設の手伝いをしてくれているんですよ。」

 以前の街から一緒にやってきたモーリス・ゴアもダチュラにやって来てから神父になる修行を始めていた。

「それにしても良かったんですか?
 元いた“ミルキーウェイ”って名前をそのまま使って良いって領主様からの話を断って。」

 ルースは眉を下げて聞くとギボン神父は苦笑した。

「領主様が心を砕いてくださったのは大変ありがたい話だったのですが、“ミルキーウェイ”には嫌な思い出もありますから・・・。
 せっかく新しい地で子供達と過ごせるのですから、名前も心機一転とモーリスと話し合ったのです。
 ビーナ司祭が“ベルソー”という素敵な名前をつけてくださって嬉しいのです。
 何でもどこかの国の言葉で“ゆりかご”という意味があるのだそうで。
 辛い思いをしてきた子供達を優しく包む場所でありたいと切に思います。」
 
 そんなギボン神父の肩をフリントは叩くと深く頷いて見せた。

「フリント君もそう思ってくれますか。
 ありがとうございます。」

 そんなフリントの肩を組むとジェットは優しく微笑んだ。

♪~♪~~♪~

 施設の中を歩いて行くと、何処からかギターの音と子供達の歌声が聞こえてきてスタンが立ち止まった。

「あれは・・・?」

「あぁ、モーリスですよ。
 彼がギターを弾いていると子供達が寄ってきて一緒に歌うんです。」

 ギボン神父の案内で裏庭に出てみると花壇に腰をかけてリトゥル・バーニーの親友でもあるモーリスがギターを弾きながら子供達と一緒に歌を歌っていた。

「人には優しくしましょう~♪困ってる人には皆んなで助けましょう~♪
 知らない人が来たら直ぐに大人に伝えましょう♪」

 モーリスを囲みながら歌う子供達は実に楽しそうだ。

「何の歌ですかアレ?」

 不思議そうに首を傾げるジェットにギボン神父はクスクスと笑った。

「施設にいる時の注意事項の歌です。
 人に親切にしましょうと教えても、悪い大人は子供の親切心に漬け込んで連れ去ったりもします。
 だから困っている人がいたら1人ではなく大勢で助けてあげましょう。
 施設に知らない人が訪ねてきても一緒です。自分達で対処しないで大人に任せましょうと・・・。
 まぁ、言葉で覚えられない事も歌で教え込んでいるんです。」

「なるほどね~。確かに、ダチュラでは特に教えておいた方が良いかも。」

 ジェットは納得すると変テコな歌詞を楽しんでいた。

「他にも災害の時の避難の仕方の歌や喧嘩した友達と仲直りするための歌なんてのもあるんですよ。
 これ、実は以前の施設の時にリトゥルとモーリスが年下の子達に教える為に考えた歌なんです。」

 ギボン神父の話に4人が感心していると、気づいたモーリスが恥ずかしそうに立ち上がると会釈をした。

「皆さん。Bar  Hopeの皆さんがお菓子を持って来てくれましたよ。
 お部屋で配っていますから行ってごらん。」

「本当!?」
「「「わーーーい!!」」」

 それまで歌を歌っていた子供達が我一番と建物に駆け込んでいくのを大人達は笑って見ていた。

「こんにちわ。
 いつもありがとうございます。」

「良いんだ。今日はリトゥルじゃなくて悪かったな。」

 ジェットの言葉にモーリスは笑い出すと首を振った。

「良いんですよ。いつも会えなくても、元気なら良いんです。」

 そんなモーリスを観察するようにスタンはギターを指さした。

「上手いもんだ。ずっと、弾いてきたのかい?」

「あぁ・・・。そうですね。
 まぁ、食べる為に弾く事を覚えたってところです。」

 スタンが首を傾げるとモーリスは気まずそうに笑った。

「子供の頃のことはご存知ですよね?
 時々、屋敷に呼ばれてをさせられるだけじゃなくて色んな事を強要されるんです。
 楽器を弾けもその1つで・・・。
 叩かれない為に覚えたのに、今では子供達を喜ばせる事が出来ているんですから覚えておいて損はなかったです。」

 肩を竦めるモーリスの背をスタンはバシバシと叩いた。

「そんな子供の時から弾いてたのか。
 上手いはずだ。
 良いんだよ。理由が何であれ。
 さっきの子供達の笑顔、あれが正解なんだから。」

 モーリスは嬉しそうに頷いた。

「って事は、何か?
 ウチの子ウサギちゃんも何か楽器できるのか?」

「あれ?聞いてませんか?
 あいつヴァイオリンが弾けますよ。
 それこそ、子供の時は2人で演奏してたんです。
 もっぱら人に聞かせるのは貴族が求めるモノばかりでしたが、2人で練習するときは反抗の意味も込めて色んなジャンルを弾いてましたよ。」

 モーリスの言葉に4人は顔を見合わせてニヤリとした。

「それはそれは・・・アイツ、隠してやがるな。」

「私、聞きたいです。リトゥルのヴァイオリン。」

「楽しくなってきたんじゃないか?」

「・・・ワクワク。」

 4人の悪い顔にギボン神父とモーリスは苦笑するのだった。

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