続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

文字の大きさ
113 / 784
旅路〜王都〜

121

しおりを挟む

 イルツクを出発して12日目、イオリ達の目の前に王城が聳え立つ大きな街。
 王都・マテオールが姿を現した。

「王都って、やっぱり大きいや。」

「アルいるかな?」

「きっと、お家にいるんじゃない?」

「ニナ、ご本のお姉さんにも会いたいなぁ。」

 子供達の会話は実に微笑ましいが、アルとは国王アルフレッド・アースガイルの事であり、彼の家は王城である。
 そしてご本のお姉さんとは第2王子ディビットの婚約者であるココ・クラーク伯爵令嬢の事を言っているのだ。
 聞く人が聞けば、驚くべき話であり、仲良しの知り合いにご挨拶では片付けられない内容であった。

 案の定、アレックスとロジャーは何とも言えない顔で苦笑していた。

「・・・思ったよりも、のんびりしてしまったな。」

 アレックスは腰バックを漁っていたイオリに声をかけた。

「そうですね。
 本来なら、もっと早く来れたんでしょうけどね。
 まぁ、全員無事に着きましたし、良いとしましょう。」

 アレックスの予想では10日程で着く予定だった。
 それが、イオリ達との旅が心地良すぎて休憩を取りすぎたのだ。
 朝昼晩とニヤける程の料理が出て、魔獣が飛び出してきても焦る事なく仕留められる。
 風呂とトイレが付き、雨の日でも広い空間で寛ぐ事ができるとは、Sランクといえども、こんなに優雅な旅をする事はないだろう。
 しかし、アレックスは知らない。
 タフで俊足であるバトルホースのアウラとナギの瞬間移動の力があれば、イルツクから王都まで5日で着いてしまうという事を・・・。
 一応、非常識と理解していたイオリはヒューゴや子供達と相談して、のんびりと進む事に決めたのだ。

「ぅあ~。
 イオリの馬車が快適とはいえ、流石に疲れたね。」

 ロジャーは伸びをするように両手を上げると大きな欠伸をした。

「とりあえず、冒険者ギルドに向かいましょうか。
 俺達は教会とグラトニー商会にも顔を出しますけど、御2人はどうします?」

 イオリが問いかけるとアレックスが自身の武器を撫でた。

「武器のメンテナンスに行ってくるよ。
 “深淵のダンジョン”を出た後にしたかったが、悪いがイルツクよりも王都の方が良い職人がいるからな。
 やれる時にやっておきたいんだ。」

「分かりました。
 とりあえず、ギルドですね。
 ・・・やっぱり、門から入るのに時間がかかりそうですね。
 気長に並びますか。」

 イオリの言葉に子供達も首を伸ばして王都へ入る人の列を見ていた。

「まぁ、王都だからな。
 それなりに人は集まるさ。
 でも、衛兵の数も多いからな。
 すぐに順番が回ってくるぞ。」

 アレックスの言う通りだった。
 馬車の中を片付けていると、すぐに順番が回ってきた。

「次の人!」

 衛兵に声をかけられ、アウラが前に出て行く。

「身分を証明するものはありますか?
 子供が多いですね?
 全員分ありますか?」

 馬車の中を確認した衛兵がヒューゴに声をかけた。

「全員、冒険者なんでギルドの証明書があります。
 お前ら、ギルドカード出せよ。」

「「「「はーい。」」」」

 衛兵は子供達も冒険者と聞いて驚き、カードを確認し高ランクが2人もいる事にも驚いた。

「・・・ありがとう。
 もう良いよ。
 それじゃ、大人の皆さんもお願いします。」

「はいはーい。俺のはこれ。
 アレックスも早く!」

「分かってるさ。」

 ロジャーが身を乗り出してカードを差し出すと衛兵は眉をピクリとさせた。

「Sランク・・・。」

「うん。俺達みんなそうだよ。」

 アレックスだけではなく、ヒューゴとイオリも自身のカードを差し出した。

「・・・はっ?
 Sランクが4人も一緒にいるなんて、何かありました?!」

 慌てる衛兵にアレックスは声を鎮めるように静かに説明する。

「落ち着いてくれ。
 問題はない。
 ただ、我々はイルツクの特別依頼で一緒になっただけだ。
 彼らは旅を続け、我々は自分達の街に帰るのに同行しているだけだよ。」
 
 納得いったのか衛兵は安心した様に頷くと全員のカードを返した。

「一度に、こんなに沢山のプラチナカードを見る事などありませんから、驚きました。
 イルツクの件は聞いています。
 お疲れ様でした。
 どうぞ、お通り下さい。」

「ありがとう。」

「「「「ありがとうー!」」」」

 アレックスがにこやかに礼を言うと、子供達が続いた。

「すごいな。アレックスさん。
 俺じゃ、すぐに騒ぎになってますよ。」

 感心するイオリにヒューゴは苦笑した。

「お前の場合、周りが騒々しくなるからな。」

 2人は笑いながら衛兵に手を振り、王都に足を踏み入れるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ボクは転生者!塩だけの世界で料理&領地開拓!

あんり
ファンタジー
20歳で事故に遭った下門快斗は、目を覚ますとなんと塩だけの世界に転生していた! そこで生まれたのは、前世の記憶を持ったカイト・ブラウン・マーシュ。 塩だけの世界に、少しずつ調味料を足して…沖縄風の料理を考えたり、仲間たちと領地を発展させたり、毎日が小さな冒険でいっぱい! でも、5歳の誕生日には王都でびっくりするような出来事が待っている。 300年前の“稀人”との出会い、王太子妃のちょっと怖い陰謀、森の魔獣たちとの出会い…ドキドキも、笑いも、ちょっぴり不思議な奇跡も、ぜんぶ一緒に味わえる異世界ローファンタジー! 家族や周りの人達に愛されながら育っていくカイト。そんなカイトの周りには、家族を中心に愛が溢れ、笑いあり、ほっこりあり、ちょっとワクワクする“グルメ&ファンタジーライフ”が今、始まる!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。 どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。 一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。 その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。 これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。 カクヨムにもサブタイ違いで載せています。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

処理中です...