続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ〜

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 少女は花畑にいた。

 花に囲まれ中がら、柔らかい笑顔で空を見上げている彼女は何を見ているのだろう。

 近くの木陰では男性が1人本を読んでいた。

「私の旦那さんなの。
 歴史の学者なのよ。」

 キキ医師がイオリに教えてくれた。

 アズロとの騒動が終わり、フェンバインを連れてキキ医師の元に向かったイオリとラックはウサギの少女について話し合いを続けた。

 キキ医師の許可を得てやってきたのは花畑。

 そこでウサギの少女は陽が暮れるまでいるのだそうだ。

「特別、夫と話すわけじゃないの。
 他の人と違って夫が余計な事を言わないのが心地良いのじゃないかしら。」

 仲間意識の強い獣人達は、面倒見が良い反面、お節介という側面がある。

 キキ医師の夫であるグリーズがイオリ達に気づき、本を閉じた。

 妻と同じリスの獣人であるが、どちらかと言うとスラッと背が高い。
 キキ医師が近づいて行くと眼鏡を外してニコニコとしている。

 夫婦が何を話し、イオリ達を手招きした。

「ゼン、あの子を怖がらせちゃダメだよ。」

 イオリは相棒の背を撫でた。

《うん。分かった。》

 ゼンはイオリに擦り付いて肯定の意思を見せた。

 イオリはグリーズに挨拶をするとウサギの少女に視線を向けた。

 明らかに彼女は目に映る物を見ていない。
 ラックは寂しそうに耳を垂れた。


 ーーー花畑に来る前のキキ医師の診療所にて

「人族の俺の事、怯えるでしょうか?」

「まぁ、怯えるでしょうね。
 ・・・でも、いつかは前を向いて生きていかなければならないもの。
 うん。
 会うのを許可するわ。」

 覚悟を決めたようなキキ医師にラックは安堵した。
 信頼しているイオリが最後の希望なのだとラックは心底信じていた。

「キキ医師、ありがとう!」

 思わず立ち上がったラックをイオリは止めた。
 
「ちょっと待って。ラック。
 もう少し、話を聞きたいんだ。」

 大人しく席についたラックの頭をイオリは優しく撫でた。

「なんでぃ。
 あの可哀想な子の事は、オイラ達も詳しくは分かっちゃいねーぜ?」

「私達とも、あまり会話をしてくれないからね。
 それで、何かしら?」

 キキ医師は真剣な顔でイオリの話を聞いてくれた。

「ウサギの女の子の体には何か問題があるのですか?」

「見た目はないわね。
 それこそ、救い出された時にポーションと治癒魔法で治されていたもの。
 けれど、心についた傷は別。
 彼女が向き合わないといけない戦いよ。
 私達は見守る事しかできない。」

「改善の兆しは?」

「暴れたりする事は、最初からなかったわ。
 どちらかというと《心ここにあらず》って感じね。
 最近になって、ようやく時折ポツポツと話すようになったのよ。
 ラックの事も最初は分からなかったくらい。
 改善と言っていいは分からないわね。」

 悲しそうなラックを気遣うキキ医師にイオリは頷いた。

「同じ時期に解放された人はいないんですか?」

「ウサギの嬢ちゃんの他には5人が一緒に解放されたゾウ。」

 今度はフェンバインが答えた。

「それじゃ、他の人たちも同じような反応なのでしょうか?」

「いいや、ちと違うな。
 その内の2人はアースガイルの隠れ里で回復に努め、準備ができたら旅団に加わると聞いている。
 他の3人はルーシュピケにいるゾウ。
 その内のエルフの2人は、エルフの集落で暮らしている。
 もう1人はイタチの獣人の人で、こっちで手習いを始めたんだ。
 あぁ、お前さんとこの嬢ちゃんを見て悲鳴を上げたのが、その子だ。
 許してやってくれ。
 皆、傷つき疲弊していたが、殻に篭るって事はしなかった。」

 ウサギの少女だけが回復していない。
 イオリは、それがとても気になっていた。
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