続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

旅路〜ルーシュピケ〜

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　コーラルも当初から“火の国・グランヌス”に渡った訳ではない。


　ミズガルドの大貴族ルッツ・ヴァハマン侯爵。

　彼の手によって、獣人やエルフ、そして弱き人族達は奴隷として詐取され続けてきた。
　奴隷たちの中でもリルラやラックといった、諜報活動を担ってきた暗殺集団も存在し、ルッツ・ヴァハマンが勢力を拡大させるのに利用された人達もいる。

　それとは別に、身売りとして人身売買の被害あった者達もいた。
　美しいエルフは鑑賞用に、逞しい獣人は労働にと様々な客に売られて行ったのだ。
　コーラルは、その内の1人である。

　ミズガルドの貴族に売り払われたコーラルは、厳しい教育を受けた後に、その貴族と共に海を渡り“火の国・グランヌス”に足を踏み入れる事となった。

　ルッツ・ヴァハマンの意向を得た、その貴族は大使として“グランヌス”と友好もとい、調略の為に派遣されたのだ。

　奴隷メイドとして、人族のメイドよりも格下のコーラルは、様々な嫌がらせを受けながら必死に生きた。
　ウサギの獣人であるコーラルは少女と言えど、美しかった。
　主人であった貴族が気に入り、側に置かれた事にもやっかみが増長した原因だった。
　コーラルとて、好きで気に入られた訳ではない。
　
　父親と同じ歳ほどの男に、欲望に満ちた目で見つめられる気持ち悪さに耐え凌ぐ日々。
　
　そんなある日に事件が起こった。

　本国ミズガルドにおけるルッツ・ヴァハマンの失脚である。

　失脚どころではない、国を乗っ取ろうとした最悪の反逆者として捕えられたのだ。

　その際に錯乱状態になり王位を返上したイヴァンに変わり新国王となったトーレチカの判断は早かった。
　ルッツ・ヴァハマンに準じていた貴族達を軒並み粛清していったのだ。

　その中にはコーラルの主人も含まれていた。
　
　慌てた主人は国に帰れば命が危ないと帰国を拒否した。
　“グランヌス”に亡命を願い出たのだ。
　
　それには大金が必要だった主人は、持っていた家財道具を全て売り払った。
　・・・奴隷達も道具だった。

　気に入っていたコーラルを含めて数人程を手放すのを惜しんだ主人であったが、身の安全を考えれば“グランヌス”の貴族達の言いなりになるしかなかった。
　そうして、コーラルは再び売り払われたのだった。

　男の欲望に満ち溢れた主人に、いつ襲われるかもしれない恐怖と戦っていたコーラルは、男の元を離れる事が出来た事が嬉しかった。

　次にコーラルの主人になったのは妙齢な女性だった。

　グランヌスで特徴的な不思議な髪型をして、風変わりなドレスにコーラルは戸惑った。

「新しく来たのはお前ね。」

　初めて会った女主人に怯えていたコーラルであったが、淡々と教えられる仕事を覚えるのに必死になった。
　優しくもないが、今までよりも居心地は悪くない職場にコーラルは安堵したのだった。