続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜グランヌス〜

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 分厚い雲が空を覆い、美しい月を隠していた。
 余計に町を照らす赤い提灯が“グランヌス”の夜景に華を添えているようだ。

 それに比べて王宮は実に慎ましやかだった。
 篝火が点々と道を照らし、余計な灯りがない。
 そんな王宮において、たった1つだけ昼のように光り輝く場所があった。

「あそこが姫巫女に与えられた離宮ッス。」

 ロクが教えてくれるまでもなく、誰もが見ても異様な一角だった。

「成る程ね。
 なかなか禍々しいがしますね。
 後宮は何処ですか?」

 イオリが目を凝らしていると、ロクが指をさした。
 
「離宮と真反対のエリアです。
 我々が普段使うルートを使いますしょうか?」

 燦然と輝く離宮とは比べると、正妃や側室がいるにも関わらず、後宮は闇に包まれていた。

「やめておきましょう。
 何かの拍子にバレた時に、そのルートが使えなくなる。」

 人の作った道を使うのは慎重にしなければならない。
 猟師であった祖父の教えを守るイオリはジッと後宮を見つめた。

「それなら、我らにお任せください。」

 音もなく暗闇からリルラが姿を現した。

「リルラさん。
 ご無事で何よりです。」

「こちらこそ、お元気そうで安心してます。
 後宮に入りたいとか?」

「そうなんですよ。
 王妃様に会えるかなって思って。」

 無理難題を軽く言うイオリにリルラは楽しそうにクスクスと笑った。

「お任せください。」

 疑問をぶつける事なく請け負うリルラにロクが呆れたように溜息を吐いた。

「そんな簡単じゃないッスよ?
 大体、元々の警備だって厳しいのに、奴らの目だって掻い潜らなければいけないんスよ?」

 最上級に難しい潜入になる。
 ロクの言い分がもっともだった。
 それでも、リルラは楽しそうだった。

「隠れる必要あります?」

「はいっ?」

「堂々と入りましょうよ。
 ラック。」

 リルラが声をかけると、ラックがニコニコしながらイオリに手を振っていた。
 ご機嫌なのか耳をピコピコと動かしている。

 良く見れば、ラックの隣に2人の人影が見えた。
 エルフの男と犬獣人の女だった。

「仲間のケネスとシャロットです。
 彼らにも力を借ります。」

 イオリを前にして嬉しそうな2人をラックは誇らしげに見上げている。

「ちょっと・・・ちょっとちょっと。」

 ロクは驚いたように2人を指さした。

「そのは・・・。
 なんで、まかさっ!」

 2人は自分の姿にニヤリとした。

「割と動きやすい。」

「どう?似合ってる?」

 ケネスとシャロットの2人は“グランヌス”の衛兵の甲冑を身につけていたのだった。

「まだあるよ。
 いる?」

 シャロットがイベントリから甲冑を取り出すのを唖然として見つめる事しか出来ないロクだった。

「あっ、しまった。
 ナギを連れてくれば、次から簡単に後宮に行けたはずだったな。」

 呑気なイオリにはロクの気持ちは分からない。
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