続々・拾ったものは大切に大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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帰ってきた愛し子

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 今から5年前のあの日、人々は世界の終焉を悟った。

 歴史や老人達の戯言でしか耳にした事のないダークエルフ。
 かつての厄災とまで呼ばれた男が率いる“エルフの里の戦士”の突然の強襲は、混沌の時代を忘れ去っていた人類に世界の滅亡を現実として突きつけたのだ。

 現れた屈強な“エルフの里の戦士”達は、それまで人々が関係を築いてきたエルフ族とは一線を画した異形の様だった。
 異常なまでに盛り上がった筋肉に、カサついた肌には潤いはなく、何者をも受け付けないギラついた瞳は、美しいと評判のエルフ族とは信じ難い。

 最初こそ、戸惑いながらも対話を試みる恐れを知らぬ者達もいたが、自分たちの愛する街や住人達が攻撃されれば全てが一瞬で混乱に陥り、非常なまでに被害を増やしていた。

 だが、その混乱は一時の事で終わりを見せた。

 世界各地で騎士や冒険者と交戦していた“エルフの里の戦士”達が唐突に苦しみ始め、何の言葉を残す事なく姿を消していったのだ。

 事態が治った理由すら分からない者達は、ただ災害と見まごうばかりの爪痕を残していった光景を前に唖然とし、次第に危機が去ったと喜びを噛み締めた。

 “エルフの里の戦士”が去り、平和が守られたと歓天喜地の様相に世界中が幸せに包まれたのだった。

 たった1つの地を除いて・・・。

 ーーーアースガイル国ポーレット領

 他の地と変わらず“エルフの里の戦士”の猛攻を経て、街自慢の城門は大きな穴を開けた。

 ポーレットの街の側に存在する“明けない魔の森”は世界有数の魔獣の生息地として知られており、故にスタンピードなる魔獣達の暴走が起きる事を想定して街は日々大いに警戒し続けてきた。

 そのスタンピードから街を守るのが、街をぐるりと囲み聳え立つ分厚い壁と、入り口を守護する城門だった。

 その城門が“エルフの里の戦士”に打ち破られた時、ポーレットの住人達は地獄を覚悟した。

 しかし、何度も言おう。その地獄は起きなかった。

 街を襲おうとしていた“エルフの里の戦士”が突如として苦悶の表情を浮かべ、頭を抑え苦しみながらも姿を消したからである。

 目的を達する事なく消え去った“エルフの里の戦士”達の行動は未だ解明されていない。

 しかし、この時ポーレットに住む多くの者は1人の若者の存在を思い浮かべていた。

 ポーレットの街が危機に陥った時、世界の何処かが不穏な状態に巻き込まれた時、必ずある若者が現れ人々の憂いを晴らしていってくれた。
 
 街の住人達は知っていたのだ。
 それが“神に愛された者”という認識があるなしに限らず、彼らは若者の存在を確かに知っていた。

 ポーレットの街の発展の影に、いつも見え隠れしていた若者。
 領主である公爵に庇護され、公爵邸の何処かに住まいを貰いながら街の為に尽力した若者。
 
 でも、若者の存在に気づいていた者達は、騒ぐ事なく若者をそっと見守っていた。
 
 自分の行いが、どれだけ周囲に・・街に影響を与えたかも意識もせずに、目立つ事が嫌いな若者は普通の生活を望んでいた。

 真っ黒な髪に、真っ黒な衣装。
 必ず真っ白な狼を連れた優しき若者。

 今回も若者が“エルフの里の戦士”から自分達を守ってくれたのだと、彼を知る者達は直感していた。

 強敵との戦いに疲弊した騎士や冒険者達が帰還してくるのを、喝采を持って迎えたポーレットの街の住人達であったが、いくら探しても件の若者の姿が見えない。

 仲が良いと噂のポーレット公爵家の次男が苦渋の表情で帰還したのを目撃した彼らは、最悪を悟り悲しみにくれた。

 ポーレットの街は“エルフの里の戦士”から街を守ったという奇跡に喜び舞う人々と、1人の英雄を失った喪失感に襲われる人々で入り混じった。

 中でもポーレット公爵家は、復興に尽力しながらも慈しんでいた若者がいない空虚感と戦っていた。

 そんなある日の事だった。

 “明けない魔の森”に一筋の光が空に向かって伸びているのが確認された。
 
 縋る思いで、彼の地に向かった公爵家の面々は、奇跡と思わんばかりの光景を目にする事になる。
 
 それは、失ったとばかり思っていた若者が光の繭玉に守られた姿だった。

 必死になって連れ帰ったものの、若者が目を覚ます気配は残念ながら見受けられなかった。


 それから、5年の月日が経った今。


「イオリちゃーん。」

 名を呼ばれた黒髪の若者は振り返るとニッコリと微笑んだ。


 


 

 
 
 
 

 
 
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