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帰ってきた愛し子
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今も昔もイオリ自ら“黒狼”と名乗った事はない。
“黒狼”と呼ばれ始めたのはいつからだったか。
「Sランクになったあたりだよ。」
二つ名がある事自体が恥ずかしいイオリは、そう呼ばれると顔を顰める事も多かった。
それとは裏腹にポーレットの街で“黒狼”の存在が囁かれ始めたのも事実で、古参の住人達ほど“黒狼“がイオリであると知っていた。
「今日も挨拶した皆んながイオリに宜しくって言ってたよ。」
殊更話をややこしくしたのはイオリが眠りについている間に発売された絵本の存在だった。
伝説の存在となっている“神の愛し子”について書かれた絵本のシリーズがある。
“黒の英雄譚”はその中でも絶大な人気を誇っていた。
眠りから覚め、初めて“黒の英雄譚”を目にしたイオリは「誰だこんな事したのは!!」と発狂した。
「アルだよ。
アルがココちゃんに作っちゃえって言ってたのパティ聞いてたもん。」
・・・。
「パティ。
ナレーションに話しかけるのやめようか。」
スコルに宥められたパティは楽しそうに頷くとプリンのおかわりを所望した。
聞けば、真偽不確かな噂が広まるよりかは良かろうと国王であるアフレッド・アースガイルの思い付きにより誕生した絵本の存在は、兎にも角にも結果それまで冒険者の間だけに名が通っていた“黒狼“の二つ名を“黒の英雄譚“の登場と共に一般大衆にも知られる事となってしまったのだった。
「まったく、余計な物を作りおって。」
これには流石のテオルドも兄であるアルフレッドの言動に抗議した程だった。
ただし、過度な噂が鎮静化した事を踏まえると一定の効果があった事も事実だろう。
代わりに“黒狼”の人気と当人が名乗りでないのを良い事に各地で“黒狼”の名を語る者が現れるようになった。
ヴァルトの報告によれば、この日問題を起こした冒険者も声高に“黒狼”を名乗ったと言う。
仲間と共に街で好き放題していたところ、本当の“黒狼”を知っていたであろうポーレットの住人達と揉めたのだそうだ。
「何でイオリの本拠地で“黒狼”を名乗るかね。
普通、身元を騙るっていうのは当人の事を噂以外知らないって街で行うものでしょ?」
呆れながら言うスコルの言葉には一同同感だと頷くしかない。
「馬鹿だったのかな?」
素直すぎる感想を言うパティは、おかわりしたプリンの最後の一口を大切そうに口に運んだ。
「それとも、各地で上手くいきすぎて本当に自分の事をイオリだと思い込んじゃったんじゃない?
嘘つき続けると、自分でも本当の事が分からなくなっちゃう人がいるらしいよ。」
クリクリした目で周囲を見回したナギの知識に大人達も感嘆する。
「ただの冒険者の喧嘩なら、ギルドからのペナルティと罰金で済んだでしょうが、詐欺と恐喝なども付きますから簡単に釈放とはならないでしょう。
この際、ポーレットの街でイオリを騙るのは無理だと大々的に発表したら如何でしょう?」
最後のヴァルトの提案にテオルドは最もだと頷いた。
テオルド達は分かっていた。
街の英雄を騙るなど、イオリを愛するポーレットの住人達が許すわけないと・・・。
“黒狼”と呼ばれ始めたのはいつからだったか。
「Sランクになったあたりだよ。」
二つ名がある事自体が恥ずかしいイオリは、そう呼ばれると顔を顰める事も多かった。
それとは裏腹にポーレットの街で“黒狼”の存在が囁かれ始めたのも事実で、古参の住人達ほど“黒狼“がイオリであると知っていた。
「今日も挨拶した皆んながイオリに宜しくって言ってたよ。」
殊更話をややこしくしたのはイオリが眠りについている間に発売された絵本の存在だった。
伝説の存在となっている“神の愛し子”について書かれた絵本のシリーズがある。
“黒の英雄譚”はその中でも絶大な人気を誇っていた。
眠りから覚め、初めて“黒の英雄譚”を目にしたイオリは「誰だこんな事したのは!!」と発狂した。
「アルだよ。
アルがココちゃんに作っちゃえって言ってたのパティ聞いてたもん。」
・・・。
「パティ。
ナレーションに話しかけるのやめようか。」
スコルに宥められたパティは楽しそうに頷くとプリンのおかわりを所望した。
聞けば、真偽不確かな噂が広まるよりかは良かろうと国王であるアフレッド・アースガイルの思い付きにより誕生した絵本の存在は、兎にも角にも結果それまで冒険者の間だけに名が通っていた“黒狼“の二つ名を“黒の英雄譚“の登場と共に一般大衆にも知られる事となってしまったのだった。
「まったく、余計な物を作りおって。」
これには流石のテオルドも兄であるアルフレッドの言動に抗議した程だった。
ただし、過度な噂が鎮静化した事を踏まえると一定の効果があった事も事実だろう。
代わりに“黒狼”の人気と当人が名乗りでないのを良い事に各地で“黒狼”の名を語る者が現れるようになった。
ヴァルトの報告によれば、この日問題を起こした冒険者も声高に“黒狼”を名乗ったと言う。
仲間と共に街で好き放題していたところ、本当の“黒狼”を知っていたであろうポーレットの住人達と揉めたのだそうだ。
「何でイオリの本拠地で“黒狼”を名乗るかね。
普通、身元を騙るっていうのは当人の事を噂以外知らないって街で行うものでしょ?」
呆れながら言うスコルの言葉には一同同感だと頷くしかない。
「馬鹿だったのかな?」
素直すぎる感想を言うパティは、おかわりしたプリンの最後の一口を大切そうに口に運んだ。
「それとも、各地で上手くいきすぎて本当に自分の事をイオリだと思い込んじゃったんじゃない?
嘘つき続けると、自分でも本当の事が分からなくなっちゃう人がいるらしいよ。」
クリクリした目で周囲を見回したナギの知識に大人達も感嘆する。
「ただの冒険者の喧嘩なら、ギルドからのペナルティと罰金で済んだでしょうが、詐欺と恐喝なども付きますから簡単に釈放とはならないでしょう。
この際、ポーレットの街でイオリを騙るのは無理だと大々的に発表したら如何でしょう?」
最後のヴァルトの提案にテオルドは最もだと頷いた。
テオルド達は分かっていた。
街の英雄を騙るなど、イオリを愛するポーレットの住人達が許すわけないと・・・。
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