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狩人イオリの奮闘
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柔らかな風によって葉がサヤサヤと擦れる音をたてていた。
辺りの様子を伺っていた1匹の鹿が周囲に何もいない事に安心したのか、落ちていた木の実をポリポリと試食し始める。
どうやら彼の舌にあったのか、鹿は満足そうに木の実を食すのに集中していた。
シュッ
次の瞬間、風を切る音がしたと思えば、鹿の4本の脚は一瞬にして縛り上げられ逆さまに吊るされてしまった。
「よしっ。」
そこに姿を見せたのは真っ黒な髪に右目を眼帯で覆った若者だった。
ここは“明けない魔の森”と呼ばれる魔獣達の住処である。
自然豊かなこの森には魔獣だけでなく動物達も多く生息していた。
真っ黒な髪をした青年・・・イオリは仕掛けた罠に鹿が掛かったのを確認すると、直ぐに眠薬で眠らせた。
「うん。上質な肉を持った鹿だね。
大きな怪我もないし、高く買い取って貰えそうだ。」
イオリは自身の足元でお利口に座っているゼンに笑いかけた。
「キャンッ!」
ご機嫌のゼンは真っ白な毛糸玉の様な体でピョンピョンと飛ぶとイオリの周囲を駆け巡る。
「あまり長居すると皆んなが心配するから、そろそろ帰ろうか。」
イオリは嘗ての住処であった森を見渡し、少しだけ名残惜しそうに帰る準備を始めた。
この世界に降り立ったイオリにとって“明けない魔の森”は本当の意味の家だった。
ゼンと共に駆けずり回った日々はイオリにとってかけがいのない時期だ。
絶対神リュオンへ加護を返した事で、それまでと大きく違うのは、身体強化だけでなく、彼が愛用していた武器の数々が失われた事だろう。
今では、本来の知識を活用し、こうやって“明けない魔の森”の入り口付近で動物相手に罠を仕掛けて獲物を得ている。
本当であれば、ポーレット公爵家の面々やイオリの家族達は危険な“明けない魔の森”へ行くのをやめて欲しいと思っている。
しかし、イオリの卓越した知識と定期的に得てくる獲物を見れば駄目とも言えずにいた。
狩人としてのイオリの立ち振る舞いは、幼少期の祖父からの教えであり、派手な戦闘にばかり目が行きがちな若い冒険者達のお手本になると、今では時々冒険者ギルドに特別講師を頼まれる程だ。
イオリをSランク冒険者の“黒狼”と知らない若い冒険者達は、彼の物腰柔らかい話し方に最初こそ侮る姿勢を見せる事もあるが、イオリの圧倒的な技術力を前に最終的には教えを乞うのである。
「冒険者にとって一番大事なのは、命を持ち帰る事。
確かに依頼の失敗や未達成によるペナルティは怖いけど、それだって命あっての事だからね。
挽回すら出来ずにこの世を儚むなんて悲しいじゃないか。」
イオリの言葉を若い冒険者達は真剣に聞いた。
森の歩き方、魔獣へのアプローチの仕方・・・。
この半年の間、基礎中の基礎を教え込まれるポーレットの冒険者ギルドで登録した新人達は他の領のギルドよりも死者数が著しく少ない。
イオリの教えが、こうも結果に現れた事にギルドマスターは関心するばかりだった。
「ほい。帰るよ。
ゼン?」
帰宅の準備が整ったイオリは葉っぱで遊んでいたはずのゼンを振り返った。
「グゥゥゥゥ。バウッ!」
そのゼンは子狼になって初めてと言って良いほどに低い声を出して森の奥に吠えた。
辺りの様子を伺っていた1匹の鹿が周囲に何もいない事に安心したのか、落ちていた木の実をポリポリと試食し始める。
どうやら彼の舌にあったのか、鹿は満足そうに木の実を食すのに集中していた。
シュッ
次の瞬間、風を切る音がしたと思えば、鹿の4本の脚は一瞬にして縛り上げられ逆さまに吊るされてしまった。
「よしっ。」
そこに姿を見せたのは真っ黒な髪に右目を眼帯で覆った若者だった。
ここは“明けない魔の森”と呼ばれる魔獣達の住処である。
自然豊かなこの森には魔獣だけでなく動物達も多く生息していた。
真っ黒な髪をした青年・・・イオリは仕掛けた罠に鹿が掛かったのを確認すると、直ぐに眠薬で眠らせた。
「うん。上質な肉を持った鹿だね。
大きな怪我もないし、高く買い取って貰えそうだ。」
イオリは自身の足元でお利口に座っているゼンに笑いかけた。
「キャンッ!」
ご機嫌のゼンは真っ白な毛糸玉の様な体でピョンピョンと飛ぶとイオリの周囲を駆け巡る。
「あまり長居すると皆んなが心配するから、そろそろ帰ろうか。」
イオリは嘗ての住処であった森を見渡し、少しだけ名残惜しそうに帰る準備を始めた。
この世界に降り立ったイオリにとって“明けない魔の森”は本当の意味の家だった。
ゼンと共に駆けずり回った日々はイオリにとってかけがいのない時期だ。
絶対神リュオンへ加護を返した事で、それまでと大きく違うのは、身体強化だけでなく、彼が愛用していた武器の数々が失われた事だろう。
今では、本来の知識を活用し、こうやって“明けない魔の森”の入り口付近で動物相手に罠を仕掛けて獲物を得ている。
本当であれば、ポーレット公爵家の面々やイオリの家族達は危険な“明けない魔の森”へ行くのをやめて欲しいと思っている。
しかし、イオリの卓越した知識と定期的に得てくる獲物を見れば駄目とも言えずにいた。
狩人としてのイオリの立ち振る舞いは、幼少期の祖父からの教えであり、派手な戦闘にばかり目が行きがちな若い冒険者達のお手本になると、今では時々冒険者ギルドに特別講師を頼まれる程だ。
イオリをSランク冒険者の“黒狼”と知らない若い冒険者達は、彼の物腰柔らかい話し方に最初こそ侮る姿勢を見せる事もあるが、イオリの圧倒的な技術力を前に最終的には教えを乞うのである。
「冒険者にとって一番大事なのは、命を持ち帰る事。
確かに依頼の失敗や未達成によるペナルティは怖いけど、それだって命あっての事だからね。
挽回すら出来ずにこの世を儚むなんて悲しいじゃないか。」
イオリの言葉を若い冒険者達は真剣に聞いた。
森の歩き方、魔獣へのアプローチの仕方・・・。
この半年の間、基礎中の基礎を教え込まれるポーレットの冒険者ギルドで登録した新人達は他の領のギルドよりも死者数が著しく少ない。
イオリの教えが、こうも結果に現れた事にギルドマスターは関心するばかりだった。
「ほい。帰るよ。
ゼン?」
帰宅の準備が整ったイオリは葉っぱで遊んでいたはずのゼンを振り返った。
「グゥゥゥゥ。バウッ!」
そのゼンは子狼になって初めてと言って良いほどに低い声を出して森の奥に吠えた。
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