続々・拾ったものは大切に大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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何事も準備こそが楽しい

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 朝霧が白むポーレットの街で教会の重い扉を1人の男が開いた。

 少し冷える風がこの日の新しい空気を教会に誘う。

「おはようございます。」

「「「「おはようございます!」」」」

 元気な声のする方を見た男・・・神父のエドバルドは優しく微笑んだ。

「おはようございます。
 イオリさん。皆さん。
 いらっしゃる頃だと思っていました。」

 エドバルドは人好きのする笑顔で子供達を迎え入れた。

「早朝からすみません。」

 イオリの言葉にエドバルドは首を横に振る。

「いいえ。
 教会はいつ何時でも開かれています。
 ポーレットの街を離れる皆さんにリュオン様もお会いされたいでしょう。」

 イオリとヒューゴは微笑むと子供達を追いかけて教会に入った。

 普段であれば街が起きていない時間。

 それでもこの日はチラホラと教会に人の姿があった。

「皆様、ポーレット公爵の旅の安全を願いにいらっしゃっているんです。」

 イオリ達を案内するエドバルドは、丁度祈りを終えた老婆に微笑み会釈した。

 旅の安全を民に願われる領主・・・。

 テオルド・ドゥク・ポーレットが如何に民に愛されているか、こんな時に気付かされる。

「俺達もリュオン様にご挨拶しようか。」

「「「「うん!」」」」

 絶対神リュオンの石像の前に膝を付くとイオリは瞳を閉じる。

 子供達も慣れたようにイオリの隣で同じように祈りを捧げた。

「リュオン様、行って来ます。」

 そう声を掛けても以前の様にリュオンが答えてくれる訳ではない。
 それでもイオリは彼の神が虹色の髪を靡かせながら微笑んでいるのが分かる。

 イオリはニッコリとした顔をリュオンの石像に向けると静かに立った。

「行かれるのですね?」

 イオリの祈る・・・正確には報告なのだが、その姿を見届けたエドバルドは、その視線を熱心に祈りを捧げるヒューゴに向けた。

 一度は絶対神に与えられた人生を恨んだヒューゴである。

 絶対神に見放されたと絶望した先に出会ったのがイオリだ。

 再び明るい陽の下で生きる人生を歩んでも、嘗ての様に純粋に絶対神の慈愛を受け取る事が出来ずにいた男は家族が教会で熱心に祈りを捧げても、以前は傍観者に徹していた。

「一度でも絶対神を恨んだ俺が絶対神の愛を乞うなど間違っている。」

 時間が経っても頑なにそう考えるヒューゴは、時が経ち己の為ではなく家族の安寧を祈るようになった。
 
 勿論、イオリと共に時間を過ごす事で、絶対神を身近に感じた故の心境の変化であるが、何よりも今回の様にイオリが教会で絶対神リュオンに報告をしている間に短い会話をする神父エドバルドの影響が大きかった。

 エドバルドは決して強制をしない。

 その日の体調や世間話をしていたくらいだ。
 それでも、教会という場を居心地悪く感じていたヒューゴにとってエドバルドの穏やかさは安心だったはずだ。

 いつしかヒューゴが誰よりも長く祈りを捧げる姿を見るようになった。

 満足したのか立ち上がったヒューゴにエドバルドは微笑む。

「今日の体調は?」

「問題ないです。」

「よろしい。
 王都まで気をつけて行ってきて下さい。
 ポーレットはいつでも貴方達を待っています。」

 エドバルドの見送りの言葉にイオリはニッコリとした。

「行って来ます。」

「「「「行ってきます!!」」」」

 そして、イオリ達は教会の重い扉を開いて出て行った。
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