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王都 〜青春からの因果〜
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クォーレル伯爵家の執事は手紙と目録を載せたトレーを手にしたまま、扉の前に立っていた。
扉の向こうから主人の楽しそうな声がして、侍女と共に微笑んだ。
主人は若い頃から仕事に真面目で、その功績もあって領民にも愛されていた。
その主人は、どうも王都が苦手らしく、仕事以外では寄り付こうもしない。
タウンハウスも最低限の装飾に留め、人を招待する気配もない。
流石に今回は王子殿下方の結婚式であるから御家族揃って王都へ向かうと思えば、妻子を置いて執事と侍女も1人づつという毎度と変わらぬ様子であった。
結婚式と必要な限りの社交を済ませ直ぐにでも領地に帰ろうと考えているのが分かりやすく、執事も侍女も心配していたのだ。
そんな主人が若い客人を招いた・・・。
嵐でも起こるのではなかと執事は驚いた。
侍女などは、客人の子供に出す飲み物がないと慌てて引っ込んで行った程だった。
聞けば、ポーレット公爵の食客と聞いた。
であれば、身元はしっかりとしている訳だし、主人が気を遣っているのを見れば重要な訪問なのだろうと推測できた。
両手の塞がっている執事に代わり、侍女がノックし扉を開けた。
「お待たせ致しました。
こちらが王都に参りましてから届いた手紙で御座います。
目録と、念の為に貴族名簿もお持ち致しました。」
執事がテーブルに丁寧に並べるとクォーレル伯爵は頷いて客人・・・イオリに視線を移した。
知った様にイオリは自分の服の中から真っ白な狼を取り出した。
「あっ。ゼンちゃん。」
「最近はイオリの服の中でお昼寝するの好きだよね。
イオリのお腹がポコポコしてる。」
「フフフ。おはよう、ゼン。」
イオリの手の中で真っ白な毛糸玉は「クワッ」とアクビをした。
そして、覗き込んでくるクォーレル伯爵を見やれば、スッと視線を逸らした。
可愛らしいゼンにクォーレル伯爵の目尻も下がるが、家族から見れば「・・・あぁ、興味がないんだな。」と分かってしまう。
イオリ、ナギ、ニナの3人は敢えて伝える必要もないと黙っていた。
「ゼン。
悪いけど、あの匂いを探してくれないか?」
イオリの頼みを理解するようにゼンは背中を伸ばすと、テーブルにピョンッと飛び乗り手紙の束に鼻を近づけた。
スンスンスン
ゼンはイライラしたように前足で手紙の束を乱雑に蹴っていく。
「キャンッ!」
そして1枚の手紙を汚い物を触るように1つの爪で少し引き摺り出した。
「うん。それだね。」
イオリも分かっていたかのように頷き、ゼンから手紙を受け取るとクォーレル伯爵に差し出した。
「この手紙から“デーゾルド”の匂いが漂ってきます。」
「君にも分かるのか?」
驚くクォーレル伯爵にイオリは自分の鼻を指差し微笑んだ。
「人よりちょっと鼻が効くんです。
でも、動物達には敵いません。
確実に分かるゼンに頼む必要がありました。」
そのゼンはというと、ニナの前にトコトコとやって来て強請るように顔を上げている。
「うん。
今、匂いを消してあげるね。
臭い匂いを探してくれて有難う。
はい。おしまい。もう大丈夫?」
快適になったのかゼンは自分の仕事は終わりだと満足そうにイオリに飛びつき甘えるのだった。
扉の向こうから主人の楽しそうな声がして、侍女と共に微笑んだ。
主人は若い頃から仕事に真面目で、その功績もあって領民にも愛されていた。
その主人は、どうも王都が苦手らしく、仕事以外では寄り付こうもしない。
タウンハウスも最低限の装飾に留め、人を招待する気配もない。
流石に今回は王子殿下方の結婚式であるから御家族揃って王都へ向かうと思えば、妻子を置いて執事と侍女も1人づつという毎度と変わらぬ様子であった。
結婚式と必要な限りの社交を済ませ直ぐにでも領地に帰ろうと考えているのが分かりやすく、執事も侍女も心配していたのだ。
そんな主人が若い客人を招いた・・・。
嵐でも起こるのではなかと執事は驚いた。
侍女などは、客人の子供に出す飲み物がないと慌てて引っ込んで行った程だった。
聞けば、ポーレット公爵の食客と聞いた。
であれば、身元はしっかりとしている訳だし、主人が気を遣っているのを見れば重要な訪問なのだろうと推測できた。
両手の塞がっている執事に代わり、侍女がノックし扉を開けた。
「お待たせ致しました。
こちらが王都に参りましてから届いた手紙で御座います。
目録と、念の為に貴族名簿もお持ち致しました。」
執事がテーブルに丁寧に並べるとクォーレル伯爵は頷いて客人・・・イオリに視線を移した。
知った様にイオリは自分の服の中から真っ白な狼を取り出した。
「あっ。ゼンちゃん。」
「最近はイオリの服の中でお昼寝するの好きだよね。
イオリのお腹がポコポコしてる。」
「フフフ。おはよう、ゼン。」
イオリの手の中で真っ白な毛糸玉は「クワッ」とアクビをした。
そして、覗き込んでくるクォーレル伯爵を見やれば、スッと視線を逸らした。
可愛らしいゼンにクォーレル伯爵の目尻も下がるが、家族から見れば「・・・あぁ、興味がないんだな。」と分かってしまう。
イオリ、ナギ、ニナの3人は敢えて伝える必要もないと黙っていた。
「ゼン。
悪いけど、あの匂いを探してくれないか?」
イオリの頼みを理解するようにゼンは背中を伸ばすと、テーブルにピョンッと飛び乗り手紙の束に鼻を近づけた。
スンスンスン
ゼンはイライラしたように前足で手紙の束を乱雑に蹴っていく。
「キャンッ!」
そして1枚の手紙を汚い物を触るように1つの爪で少し引き摺り出した。
「うん。それだね。」
イオリも分かっていたかのように頷き、ゼンから手紙を受け取るとクォーレル伯爵に差し出した。
「この手紙から“デーゾルド”の匂いが漂ってきます。」
「君にも分かるのか?」
驚くクォーレル伯爵にイオリは自分の鼻を指差し微笑んだ。
「人よりちょっと鼻が効くんです。
でも、動物達には敵いません。
確実に分かるゼンに頼む必要がありました。」
そのゼンはというと、ニナの前にトコトコとやって来て強請るように顔を上げている。
「うん。
今、匂いを消してあげるね。
臭い匂いを探してくれて有難う。
はい。おしまい。もう大丈夫?」
快適になったのかゼンは自分の仕事は終わりだと満足そうにイオリに飛びつき甘えるのだった。
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