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刑務所の中の運動会~不条理なスタートライン~[神回]
刑務所の中の運動会~不条理なスタートライン~[神回]②
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刑務所の中にはどこの工場にも工場長と呼ばれるボスがいる。
ちなみに俺の居た工場の工場長は、俺と同じ部屋の親分だ。
親分は今回は傷害でしょんべん刑だかが、その前は殺人教唆で12年入っていたらしい。
背中には一面風神雷神の彫り物。
右手の小指も左手の小指も無い。
何で指が無いのか聞いた人間は何故か1人も居ない。
親分は工場では工場長と呼ばれ、何から何まで仕切っていた。王様だった。
時には若い刑務官よりも刑務所の事を仕切っていた。
親分は、この刑務所のあるO市にある組織の大組長で、この街の顔だった。
工場長というのは、刑務作業の責任者でもあるし、工場内のトラブルを解決したり、相談を受けたりもする。
親分は工場内の全てを認知していた。
その、情報収集能力に長けていた。
俺は配役以来この工場長である親分とずーっと同じ部屋だった。
親分の名前は「マサ」さんだった。
フルネームも知ってるが、ここでは「マサ」さんだ。
親分が部屋でトイレに行くと、俺がパッと蛇口を捻り水を出す。
親分が手を洗う。
すると、俺の同僚の亀谷が親分に親分のタオルを両手でサッと差し出す。
一事が万事、24時間俺達はこの様な生活を続けてた。
飯の時も、親分が箸を付けてから全員食事を始める。
部屋のテレビは親分が見たいチャンネルを、俺達は一緒に見させて頂く。
親分が将棋がしたくなれば、誰かが相手をする。
勝ったらいけない。
絶対に勝ってはいけない。
勝ってしまえば親分の機嫌が物凄く悪くなる。
部屋の空気が悪くなるから親分に将棋で勝つ事は、同衆にも仲間達にも相当嫌われる。
これがいつも、俺が親分の将棋の相手として行かされる。
他のやつは本当は将棋が出来るのに、相手をしたくないからルールがわからないと始めから嘘を付いている。
ここでとても大切な事を発表する。
親分は、将棋が物凄く弱い。
こっちがギャン泣きしそうになる位、将棋が弱い。
俺も将棋に関して言えば初心者に毛が生えた位のものだが、親分はそれを遥かに超えて将棋が弱い。
だから俺は羽生善治バリに悩んでしまう。
考え過ぎて手が打てない。
勝ったらいけない将棋程難しいものは無い。
声に出して何回も「親分、逆に違うやり方もあります」と失礼の無い言い方をチョイスして何度もアドバイスを声に出して言う。
親分に確実に聞こえる声音で何度も何度もアドバイスと、その戦術のプレゼンをする。
中田敦彦ばりのプレゼンをかます。
でも親分は俺のアドバイスを無視して、嘘でしょ?という手を打ってくる。
また歩をただ前に出すのだ
地獄だった。
親分は、大切な自分の飛車角や金を全く意識せずに歩を前に進めてくる作戦なのだ。
何度も繰り返して教えた防御の仕方も、本番になったら全く忘れてただただコイツには負けたくないオーラを全開にして歩を前に出す。
部屋の同衆達は「勝つなよ」と目で合図を送ってくる。
勝つ訳ないだろ?
結局俺は親分の王様を追い込まされ、王手をしてしまった。寧ろ親分の技によって王手させられたと言っても過言ではない。
その瞬間目の前の親分は、将棋板の上の将棋の駒を両手でグチャグチャにして、思いっきり壁を足で蹴りまくった。
部屋がシーンとなる。
そこから21時の就寝時間まで、俺達の部屋は誰も一言も喋らない部屋になった。
テレビの時間になっても誰1人テレビのスイッチを付けない。
静かに流れる隣のテレビのナレーションの声と鼻を啜る音を聞いて静かに読んでる官本のページを捲る。
次の日の朝になると、親分はいつもの親分になっていて、「今日帰ってきたらまた将棋するぞ」等と俺に言う。
親分のこうしたブラックジョークで俺の胃袋は5.6回溶けて穴があいた。
昨日ずっと黙っていたのは親分なりに将棋の戦法をシュミレーションしてたのかも知れないとも思った。
刑務所の中の運動会[神回]③に続く
ちなみに俺の居た工場の工場長は、俺と同じ部屋の親分だ。
親分は今回は傷害でしょんべん刑だかが、その前は殺人教唆で12年入っていたらしい。
背中には一面風神雷神の彫り物。
右手の小指も左手の小指も無い。
何で指が無いのか聞いた人間は何故か1人も居ない。
親分は工場では工場長と呼ばれ、何から何まで仕切っていた。王様だった。
時には若い刑務官よりも刑務所の事を仕切っていた。
親分は、この刑務所のあるO市にある組織の大組長で、この街の顔だった。
工場長というのは、刑務作業の責任者でもあるし、工場内のトラブルを解決したり、相談を受けたりもする。
親分は工場内の全てを認知していた。
その、情報収集能力に長けていた。
俺は配役以来この工場長である親分とずーっと同じ部屋だった。
親分の名前は「マサ」さんだった。
フルネームも知ってるが、ここでは「マサ」さんだ。
親分が部屋でトイレに行くと、俺がパッと蛇口を捻り水を出す。
親分が手を洗う。
すると、俺の同僚の亀谷が親分に親分のタオルを両手でサッと差し出す。
一事が万事、24時間俺達はこの様な生活を続けてた。
飯の時も、親分が箸を付けてから全員食事を始める。
部屋のテレビは親分が見たいチャンネルを、俺達は一緒に見させて頂く。
親分が将棋がしたくなれば、誰かが相手をする。
勝ったらいけない。
絶対に勝ってはいけない。
勝ってしまえば親分の機嫌が物凄く悪くなる。
部屋の空気が悪くなるから親分に将棋で勝つ事は、同衆にも仲間達にも相当嫌われる。
これがいつも、俺が親分の将棋の相手として行かされる。
他のやつは本当は将棋が出来るのに、相手をしたくないからルールがわからないと始めから嘘を付いている。
ここでとても大切な事を発表する。
親分は、将棋が物凄く弱い。
こっちがギャン泣きしそうになる位、将棋が弱い。
俺も将棋に関して言えば初心者に毛が生えた位のものだが、親分はそれを遥かに超えて将棋が弱い。
だから俺は羽生善治バリに悩んでしまう。
考え過ぎて手が打てない。
勝ったらいけない将棋程難しいものは無い。
声に出して何回も「親分、逆に違うやり方もあります」と失礼の無い言い方をチョイスして何度もアドバイスを声に出して言う。
親分に確実に聞こえる声音で何度も何度もアドバイスと、その戦術のプレゼンをする。
中田敦彦ばりのプレゼンをかます。
でも親分は俺のアドバイスを無視して、嘘でしょ?という手を打ってくる。
また歩をただ前に出すのだ
地獄だった。
親分は、大切な自分の飛車角や金を全く意識せずに歩を前に進めてくる作戦なのだ。
何度も繰り返して教えた防御の仕方も、本番になったら全く忘れてただただコイツには負けたくないオーラを全開にして歩を前に出す。
部屋の同衆達は「勝つなよ」と目で合図を送ってくる。
勝つ訳ないだろ?
結局俺は親分の王様を追い込まされ、王手をしてしまった。寧ろ親分の技によって王手させられたと言っても過言ではない。
その瞬間目の前の親分は、将棋板の上の将棋の駒を両手でグチャグチャにして、思いっきり壁を足で蹴りまくった。
部屋がシーンとなる。
そこから21時の就寝時間まで、俺達の部屋は誰も一言も喋らない部屋になった。
テレビの時間になっても誰1人テレビのスイッチを付けない。
静かに流れる隣のテレビのナレーションの声と鼻を啜る音を聞いて静かに読んでる官本のページを捲る。
次の日の朝になると、親分はいつもの親分になっていて、「今日帰ってきたらまた将棋するぞ」等と俺に言う。
親分のこうしたブラックジョークで俺の胃袋は5.6回溶けて穴があいた。
昨日ずっと黙っていたのは親分なりに将棋の戦法をシュミレーションしてたのかも知れないとも思った。
刑務所の中の運動会[神回]③に続く
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