【本編完結】お互いを恋に落とす事をがんばる事になった

シャクガン

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10月27日(6)

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みんなが私の左手を見て固まった。

「……こんなになるまで―――」

山野さんがより一層眉を歪ませて呟いた。
他の人が見てもわかるくらい私の指は太く腫れている。

「凪沙!?その指どうしたの!?いつから!?」
「………」

ちさきちゃんが私の肩を掴んで責め立てる。いや、責めてるわけじゃなくて心配しているのはわかってる。でも、今の私には責められてるように感じる。

私は体育館の床に視線を落とした。

ちさきちゃんに掴まれている肩と山野さんに握られている左腕が強く掴まれてるわけでもないけど、痛い。

「天城さん。保健室行きましょう」
「そ、そうだ!保健室!!」

「だ、ダメ!!!」

私は掴まれていた2人の手を振り払うように一歩下がった。

保健室なんて行ったら午後の試合が出られなくなる。涼ちゃん達のクラスとの試合も出来なくなる。みんなで練習してきたのに1勝もできないで……最後まで球技大会に出られなくなる。私のせいで……

「だ、大丈夫だよ?このくらい平気だから……」

「大丈夫なわけあるか!!こんなに腫らして!!」

ちさきちゃんが私の左手首を掴んで強引に歩き出す。
「わ、私も行きます!!」と山野さんもちさきちゃんの後をついてきた。

後ろを振り返ると心配そうに私を見つめる寺田さんと杉本さんがいて、その隣に涼ちゃんと結ちゃんが体育館に残った亜紀ちゃんに話しかけてるのが見えた。



「ちょ、ちょっと!ちさきちゃん!!」

ずんずん廊下を進んでいくちさきちゃんに引っ張られるようにして歩いていく。歩く速度は早くてちさきちゃんの横顔は険しく眉間に皺を寄せている。

「あ、あー。ごめん……」
「うん。ごめんね」

それ以上の言葉は交わさず、無言で歩く。後ろを静かに山野さんがついてくる。
ゆっくりになった速度でもちさきちゃんは私の左手首を掴んで離さなかった。

保健室が見えて、止まりそうな足をちさきちゃんが引っ張っていく。
山野さんが先に進んで保健室の扉に手をかけ開けてくれた。

中にはメガネをかけた保健医の女の先生が退屈そうに窓の外を見ていた。グラウンドでやってるソフトボールとサッカーの試合を眺めているんだろう。
開いたドアに気づいて振り向いた。

「おーおーどした?どした?」

見た目が割と若い印象の保健医の先生は砕けた口調で話すことも多く。生徒からの人気も高い先生だ。

「熱中症か?風邪か?怪我か?」

棚から冷えペタやら薬やら包帯やらを取り出しながらウキウキと聞いてくる。

「笹倉先生……」

呆れながら山野さんがため息をついた。

「おーごめんごめん。今日は球技大会だから忙しくなると思ってたら暇でね。いや、暇なのはいいことなんだけどね?退屈っていうかさ~……ん?」

私たちの重たい空気にやっと気づいたらしい先生はニコニコ顔から眉を顰めた。

「どした?」
「凪沙の怪我見てください」

ちさきちゃんが私の背中を押して先生の前に立たせる。

「おー天城か。怪我したのか?」



―――――



笹倉先生が私の指をテープで固定していく。

「骨折とかはして無さそうだけど、一応病院で診てもらったほうがいいだろうなぁ」

「それと」と笹倉先生は続けた。

「天城はこの後の球技大会は見学な」
「え……」
「当たり前だろ。その手でバレーする気か?」
「で、でも!私平気です!」
「保健医ストップだから。これは命令な」

そう言って笹倉先生は机に向かってノートに書き込み始めた。

やっぱり出られなくなった。それはそうだ。もし、ちさきちゃんや山野さんが怪我してるってなった時、私だって止める。だから隠してたのに、結局バレて私は試合には出られない。

私は後ろにいる山野さんとちさきちゃんに振り返った。

「まぁ、仕方ないだろ。あたしたちも午後は見学か~ソフトボールの試合でも観に行こうかな」

ちさきちゃんは笑っていう。

「え!?私は出られないけど、代わりに誰か出てもらうことできないの!?」
「人数的に無理でしょうね。ソフトボールの方も休みの人がいてギリギリでしたから」
「え、そ、それじゃ…」

「A組は棄権ですかね」

最悪。最低。

全部私のせい。みんなで頑張った練習も、全部台無しだ。いつもの実力も出せず、不完全燃焼。
涼ちゃんと一緒に頑張ろうって約束したのに…私のせいで……全部!全部!

私がみんなを朝練に誘った。山野さんは毎日付き合ってくれた。ちさきちゃんも亜紀ちゃんも寺田さんも杉本さんも……休みの日まで練習をしたのに…私のわがままに付き合ってくれたのに……それを私が全部壊した。

A組棄権

1番したくなかった選択肢だ。

私は立ち上がって2人に向かって頭を下げた。

「ごめん………ごめんなさい……ごめ……」

掠れた声が出た。下を向いたら涙が出そうだった。右手を握って耐える。
もう上は向けない。

「ちょま!!凪沙!?!?」

私は保健室を飛び出して走った。後ろからちさきちゃんの声が聞こえる。

廊下に水滴が垂れる。

これは汗だと心の中で言い訳を呟く。

目的の場所も無く、ただ廊下を走る。途中先生に叫ばれたけど聞こえない事にしとく。






今はただ1人になりたかった。






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