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12月10日(2)
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「さっむぅ~」
「もう屋上でお昼食べるのは無理かも……」
口から白い息がポワポワと流れていく。
お昼休みになって4人で屋上に来てみたが、屋上の扉を開けた瞬間、今日は一段と冷えた外気がビュゥゥゥと4人に向かって吹いてきた。
それでも人数はかなり減ってはいるが屋上で食べている強者な生徒はちらほらといる。
扉をバタンと閉めて4人で顔を合わせた。
「仕方ない。ちょっと遠いけどあそこに行くか」
ちさきちゃんが言う“あそこ“とはそう。“あそこ“である。
教室から移動するならやっぱり屋上の方が近いし、外で食べるのは気持ちよかったけど、流石に季節は冬へと移り変わってきていて上着を羽織っても寒く感じるようになってきていた。
「あっ……」
「ととっ!………気をつけてね。凪沙」
屋上へ続く階段を降りているとつまづいた私の手を涼ちゃんが取って支えてくれた。
「ありがとう」というと自然と離れていく涼ちゃんの手をキュッと掴んだ。
「ど、どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
にこりと笑って手を繋いだまま階段を降りていく。
戸惑った様子を見せながらも涼ちゃんは私に引かれ大人しく着いてきた。
先に階段を降りたちさきちゃんと亜紀ちゃんが振り返って、私たちを見たちさきちゃんがニヤッと笑った。
「さっきまで寒かったのになんかすっごい熱いわー」
「高坂!うるさい!」
ちさきちゃんに揶揄われ、ちょっと赤くなった頬をムスッと涼ちゃんは膨らませた。
それでも涼ちゃんは手を離そうとはしてないし、私も離すつもりはない。
結ちゃんやちさきちゃんと何が違うのか、私の気持ちを知るために……
「ちさき……」
「うぇっ!?!?な……なんだよ!急に!!」
「手繋いで行こう」
「いや、なんで!?!?」
亜紀ちゃんがちさきちゃんの手を繋いで歩き出した。
その後を涼ちゃんと手を繋いでついていく。
「なんか今日は熱いねー」
「悠木涼!!うるさい!!今は冬だよ!!」
手を引かれながらちさきちゃんは振り返って涼ちゃんを睨んだ。
廊下を進んでいくと色んな生徒とすれ違う。驚いた様子を見せる生徒。微笑ましそうに見つめてくる生徒。笑っている生徒。ヒソヒソとしている生徒。
私たちを見て何を思っているんだろう。女の子同士で手を繋ぐのは今は普通かな?
前の2人を見て思う。
「なんだかダブルデートしてるみたいだね。学校だけど」
「いいね!!!ダブルデート!!」
涼ちゃんは楽しそうに笑った。
振り返っていたちさきちゃんが妙な表情になった。亜紀ちゃんも私達を無表情に見つめる。
特別教室が並ぶ1階の1番奥、それぞれ手を繋いだまま辿り着いた教室で涼ちゃんはすぐに口を開いた。
「ね!4人でダブルデートしようよ!!」
「なんでだよ!!どっちも付き合ってないじゃん!」
確かにちさきちゃんと亜紀ちゃんも付き合ってないし、私と涼ちゃんも付き合ってないけど……
この間の涼ちゃんと2人でのお出かけもデートって言ってたし、4人で行けば付き合ってないくてもダブルデートって言ってもおかしくはない。
「普通に遊びに行くならいいの?」
「まぁ……」
「じゃあ、4人で遊びに行こう!!」
「わーい。ダブルデートだね!」
涼ちゃんが嬉しそうに繋いだ手を振った。
「ダブルデートじゃない!」
ちさきちゃんは叫ぶが誰も聞き入れはしなかった。亜紀ちゃんもまんざらでもなさそうな様子でちさきちゃんを見ていた。
――――――
「涼を連れていく気!?!?」
美月は男に向かって叫んだ。
「そう言ってるだろ」
淡々と告げる不機嫌そうな男はカウンター席に座った。
「どうして……今になって……」
「あまり家の事できてない見たいじゃないか……」
喫茶みづきの経営者である美月は店長としてお店の経営を優先して家のことは疎かになる事が多かった。
疎かにしたかったわけではない。
経営者としてお店を守らないといけなかった。涼を養っていかなければいけなかった。
優先順位がお店になるのは必然的だっただけのこと。
「少し家のことができてないだけじゃない……」
「涼のご飯すらまともに作ってやれてないらしいじゃないか」
「そんなこと……」
ないとは言えなかった。事実、ずっと学校のお昼は凪沙が作ってくれる前までは涼はコンビニのおにぎりで済ませていた。家のご飯も作れていないことの方が多かった。
「学校のこともある。もう少しレベルの高い高校に入れてやるべきだ」
「高校は涼が行きたいところに行かせてるわ!」
「中途半端な進学校じゃなく、将来を見据えた学校に行かせる。俺の所に来れば家のことも学校のことも金のことも心配しなくて済むんだ」
美月は何も言えなくなってしまった。
涼には苦労をさせている。家の事も任せてしまうことが増えていた。
お金の心配はさせないようにしていたが、涼の事だ気を遣ってくれているんだろう。
この男の所に行けばそう言った苦労をさせる事なく良い暮らしができることはわかる。
男が着ているスーツはブランドものでつけている時計も誰もが知っているものだ。
美月は迷いが生まれた。
涼の幸せを1番に願っている母親としてどうしたら良いのだろうか……
「もう屋上でお昼食べるのは無理かも……」
口から白い息がポワポワと流れていく。
お昼休みになって4人で屋上に来てみたが、屋上の扉を開けた瞬間、今日は一段と冷えた外気がビュゥゥゥと4人に向かって吹いてきた。
それでも人数はかなり減ってはいるが屋上で食べている強者な生徒はちらほらといる。
扉をバタンと閉めて4人で顔を合わせた。
「仕方ない。ちょっと遠いけどあそこに行くか」
ちさきちゃんが言う“あそこ“とはそう。“あそこ“である。
教室から移動するならやっぱり屋上の方が近いし、外で食べるのは気持ちよかったけど、流石に季節は冬へと移り変わってきていて上着を羽織っても寒く感じるようになってきていた。
「あっ……」
「ととっ!………気をつけてね。凪沙」
屋上へ続く階段を降りているとつまづいた私の手を涼ちゃんが取って支えてくれた。
「ありがとう」というと自然と離れていく涼ちゃんの手をキュッと掴んだ。
「ど、どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
にこりと笑って手を繋いだまま階段を降りていく。
戸惑った様子を見せながらも涼ちゃんは私に引かれ大人しく着いてきた。
先に階段を降りたちさきちゃんと亜紀ちゃんが振り返って、私たちを見たちさきちゃんがニヤッと笑った。
「さっきまで寒かったのになんかすっごい熱いわー」
「高坂!うるさい!」
ちさきちゃんに揶揄われ、ちょっと赤くなった頬をムスッと涼ちゃんは膨らませた。
それでも涼ちゃんは手を離そうとはしてないし、私も離すつもりはない。
結ちゃんやちさきちゃんと何が違うのか、私の気持ちを知るために……
「ちさき……」
「うぇっ!?!?な……なんだよ!急に!!」
「手繋いで行こう」
「いや、なんで!?!?」
亜紀ちゃんがちさきちゃんの手を繋いで歩き出した。
その後を涼ちゃんと手を繋いでついていく。
「なんか今日は熱いねー」
「悠木涼!!うるさい!!今は冬だよ!!」
手を引かれながらちさきちゃんは振り返って涼ちゃんを睨んだ。
廊下を進んでいくと色んな生徒とすれ違う。驚いた様子を見せる生徒。微笑ましそうに見つめてくる生徒。笑っている生徒。ヒソヒソとしている生徒。
私たちを見て何を思っているんだろう。女の子同士で手を繋ぐのは今は普通かな?
前の2人を見て思う。
「なんだかダブルデートしてるみたいだね。学校だけど」
「いいね!!!ダブルデート!!」
涼ちゃんは楽しそうに笑った。
振り返っていたちさきちゃんが妙な表情になった。亜紀ちゃんも私達を無表情に見つめる。
特別教室が並ぶ1階の1番奥、それぞれ手を繋いだまま辿り着いた教室で涼ちゃんはすぐに口を開いた。
「ね!4人でダブルデートしようよ!!」
「なんでだよ!!どっちも付き合ってないじゃん!」
確かにちさきちゃんと亜紀ちゃんも付き合ってないし、私と涼ちゃんも付き合ってないけど……
この間の涼ちゃんと2人でのお出かけもデートって言ってたし、4人で行けば付き合ってないくてもダブルデートって言ってもおかしくはない。
「普通に遊びに行くならいいの?」
「まぁ……」
「じゃあ、4人で遊びに行こう!!」
「わーい。ダブルデートだね!」
涼ちゃんが嬉しそうに繋いだ手を振った。
「ダブルデートじゃない!」
ちさきちゃんは叫ぶが誰も聞き入れはしなかった。亜紀ちゃんもまんざらでもなさそうな様子でちさきちゃんを見ていた。
――――――
「涼を連れていく気!?!?」
美月は男に向かって叫んだ。
「そう言ってるだろ」
淡々と告げる不機嫌そうな男はカウンター席に座った。
「どうして……今になって……」
「あまり家の事できてない見たいじゃないか……」
喫茶みづきの経営者である美月は店長としてお店の経営を優先して家のことは疎かになる事が多かった。
疎かにしたかったわけではない。
経営者としてお店を守らないといけなかった。涼を養っていかなければいけなかった。
優先順位がお店になるのは必然的だっただけのこと。
「少し家のことができてないだけじゃない……」
「涼のご飯すらまともに作ってやれてないらしいじゃないか」
「そんなこと……」
ないとは言えなかった。事実、ずっと学校のお昼は凪沙が作ってくれる前までは涼はコンビニのおにぎりで済ませていた。家のご飯も作れていないことの方が多かった。
「学校のこともある。もう少しレベルの高い高校に入れてやるべきだ」
「高校は涼が行きたいところに行かせてるわ!」
「中途半端な進学校じゃなく、将来を見据えた学校に行かせる。俺の所に来れば家のことも学校のことも金のことも心配しなくて済むんだ」
美月は何も言えなくなってしまった。
涼には苦労をさせている。家の事も任せてしまうことが増えていた。
お金の心配はさせないようにしていたが、涼の事だ気を遣ってくれているんだろう。
この男の所に行けばそう言った苦労をさせる事なく良い暮らしができることはわかる。
男が着ているスーツはブランドものでつけている時計も誰もが知っているものだ。
美月は迷いが生まれた。
涼の幸せを1番に願っている母親としてどうしたら良いのだろうか……
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