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12月30日(2)
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玄関の扉を開けて出てきた美月さんは長い髪をまっすぐと下ろし、ロンTと長い足を引き立たせるジーンズというラフな格好をしてニコニコと嬉しそうに微笑んだ。どんな格好をしていても美人な人だ。
「いらっしゃ~い」
「お邪魔します。あと、これクッキーです」
「え?そんな気を使わなくても良かったのに…」
紙袋に入ったクッキーを美月さんに差し出した。初めてお邪魔する訳だし、今日は夕ご飯もご馳走になる予定の為、涼ちゃんと待ち合わせ前に急いで購入した物だ。
涼ちゃんの家は普通のファミリー向け6階建マンションの3階。角部屋だった。
玄関で靴を脱ぎリビングに通されると、ソファーにテレビ、ダイニングテーブルとそれほど物は多くなく、綺麗な部屋だった。
「涼がもう必死になって片付けてたのよ?」
「母さんが脱ぎ散らかしてたんでしょ」
「そんな事ないわよ」
「2人しかいないのに洗濯機3回も回したんだからね!?」
お店では掃除も片付けも丁寧で綺麗好きなのかと思っていたが、家だと美月さんはだらしないらしい。
だから今日は部屋を片付ける為に夕方からの待ち合わせだったのかもしれない。
「凪沙ちゃん。今私のことだらしないって思ったでしょ?」
「え!?いえ、そんなことは……」
「あ!その顔絶対思ってた!違うの!最近ちょーっとお店が忙しくて後回しになっちゃってただけだからね!?」
慌てた様子を見せる美月さんを冷ややかな目で涼ちゃんは眺めていた。
空気を変えるように美月さんが手をパンっと叩いた。
「そうだ!今日はね悠木家特製ハンバーグ作っちゃうから期待しててね!涼も大好きなの!ね!涼!」
「…うん」
「あ、じゃあ、私もお手伝いします!」
「大丈夫!凪沙ちゃんはお客様だからね!涼と一緒に部屋で待ってて」
そう言って美月さんはお店のとは違う可愛らしい柄の入ったエプロンを付けて長い髪を縛りながらキッチンに入っていった。
「凪沙こっち」
涼ちゃんが手招きをしている。涼ちゃんについていくと廊下に何個かある扉の一つに案内される。扉には“RYO“と書かれたプレートが下げられていて、涼ちゃんの部屋だとすぐに気づいた。
カチャッと扉を開けた涼ちゃんが中に入っていく。
中を覗いてみるとシンプルな部屋だった。本棚、ベッド、勉強机。全体的な色合いも落ち着いている。部屋だけを見ると女の子の部屋というよりは男の子の部屋と言われたほうがしっくりくるくらい。
すごく涼ちゃんらしい部屋だなと思った。
本棚には涼ちゃんが読んでいる小説と漫画があって、勉強机にはバスケに関する本が置いてある。ところどころに涼ちゃんの好きなものが置いてある。机の上にある写真立てには幼い子供と若い頃の美月さん。その隣の男性はこの前涼ちゃんと駅のホームで話していたあの人だ。
写真立ての隣にはクリスマスプレゼントとして渡した犬のチビぬいも飾られている。
机を眺めていると隣に涼ちゃんが並んだ。
「何もない部屋だけど……」
涼ちゃんが苦笑気味に笑った。
「そんなことないよ。涼ちゃんの好きなものがたくさん置いてある」
久しぶりに再開したチビぬいを手に取った。ただのクレーンゲームで取った景品にはすでに色んな思い出が詰まっている気がした。
「そう、だね。うん。好きなものが増えたんだ」
私が手に取ったチビぬいを見ながら柔らかく微笑む。
「マイバスケットボールまであるなんて、やっぱりバスケ好きなんだね」
机の隣に転がっているバスケットボールを指差した。私の家にはない物だ。
「でも、今この部屋で1番好きなのは、凪沙だよ」
「………」
目を見つめられ真剣に言われたら誰だって照れると思う。そんなセリフがさらりと言えてしまうところとか、どこでそんな言い回しを覚えたんだとか色々と思うところはあったけれど……
「すごくくさいセリフだね」
「やっぱり?でも、本当だから」
涼ちゃんはおどけて笑った。ベシッと涼ちゃんの二の腕を叩いて、こっちが恥ずかしくなったのを誤魔化した。
『飲み物持ってくるね。適当に座ってて』と一旦部屋から出て行った涼ちゃんに言われた通り、ベッドを背もたれにしながら座った。
本棚に並べられた小説を見ていると、色褪せた本の中に背表紙も書かれていない、というかアルバムみたいな本が一冊挟まっていた。
気になって取り出してみると、やっぱりアルバムで非常に中が気になった。流石に勝手にみるのは悪いので涼ちゃんが戻ってるまで我慢をする。
「お待たせー」
涼ちゃんがトレーにコーヒーとお皿に乗ったクッキーを運んできた。
「涼ちゃんこれ見ていい?」
早速アルバムを両手で掲げながらワクワクと聞いてみる。
涼ちゃんの口の端がピクッとしたが、私の顔を見てため息をついて“どうぞ“と諦めたように言った。
私はすぐに1ページ目を開いた。
トレーを机に置いた涼ちゃんは静かに私の隣に腰を下ろした。
「いらっしゃ~い」
「お邪魔します。あと、これクッキーです」
「え?そんな気を使わなくても良かったのに…」
紙袋に入ったクッキーを美月さんに差し出した。初めてお邪魔する訳だし、今日は夕ご飯もご馳走になる予定の為、涼ちゃんと待ち合わせ前に急いで購入した物だ。
涼ちゃんの家は普通のファミリー向け6階建マンションの3階。角部屋だった。
玄関で靴を脱ぎリビングに通されると、ソファーにテレビ、ダイニングテーブルとそれほど物は多くなく、綺麗な部屋だった。
「涼がもう必死になって片付けてたのよ?」
「母さんが脱ぎ散らかしてたんでしょ」
「そんな事ないわよ」
「2人しかいないのに洗濯機3回も回したんだからね!?」
お店では掃除も片付けも丁寧で綺麗好きなのかと思っていたが、家だと美月さんはだらしないらしい。
だから今日は部屋を片付ける為に夕方からの待ち合わせだったのかもしれない。
「凪沙ちゃん。今私のことだらしないって思ったでしょ?」
「え!?いえ、そんなことは……」
「あ!その顔絶対思ってた!違うの!最近ちょーっとお店が忙しくて後回しになっちゃってただけだからね!?」
慌てた様子を見せる美月さんを冷ややかな目で涼ちゃんは眺めていた。
空気を変えるように美月さんが手をパンっと叩いた。
「そうだ!今日はね悠木家特製ハンバーグ作っちゃうから期待しててね!涼も大好きなの!ね!涼!」
「…うん」
「あ、じゃあ、私もお手伝いします!」
「大丈夫!凪沙ちゃんはお客様だからね!涼と一緒に部屋で待ってて」
そう言って美月さんはお店のとは違う可愛らしい柄の入ったエプロンを付けて長い髪を縛りながらキッチンに入っていった。
「凪沙こっち」
涼ちゃんが手招きをしている。涼ちゃんについていくと廊下に何個かある扉の一つに案内される。扉には“RYO“と書かれたプレートが下げられていて、涼ちゃんの部屋だとすぐに気づいた。
カチャッと扉を開けた涼ちゃんが中に入っていく。
中を覗いてみるとシンプルな部屋だった。本棚、ベッド、勉強机。全体的な色合いも落ち着いている。部屋だけを見ると女の子の部屋というよりは男の子の部屋と言われたほうがしっくりくるくらい。
すごく涼ちゃんらしい部屋だなと思った。
本棚には涼ちゃんが読んでいる小説と漫画があって、勉強机にはバスケに関する本が置いてある。ところどころに涼ちゃんの好きなものが置いてある。机の上にある写真立てには幼い子供と若い頃の美月さん。その隣の男性はこの前涼ちゃんと駅のホームで話していたあの人だ。
写真立ての隣にはクリスマスプレゼントとして渡した犬のチビぬいも飾られている。
机を眺めていると隣に涼ちゃんが並んだ。
「何もない部屋だけど……」
涼ちゃんが苦笑気味に笑った。
「そんなことないよ。涼ちゃんの好きなものがたくさん置いてある」
久しぶりに再開したチビぬいを手に取った。ただのクレーンゲームで取った景品にはすでに色んな思い出が詰まっている気がした。
「そう、だね。うん。好きなものが増えたんだ」
私が手に取ったチビぬいを見ながら柔らかく微笑む。
「マイバスケットボールまであるなんて、やっぱりバスケ好きなんだね」
机の隣に転がっているバスケットボールを指差した。私の家にはない物だ。
「でも、今この部屋で1番好きなのは、凪沙だよ」
「………」
目を見つめられ真剣に言われたら誰だって照れると思う。そんなセリフがさらりと言えてしまうところとか、どこでそんな言い回しを覚えたんだとか色々と思うところはあったけれど……
「すごくくさいセリフだね」
「やっぱり?でも、本当だから」
涼ちゃんはおどけて笑った。ベシッと涼ちゃんの二の腕を叩いて、こっちが恥ずかしくなったのを誤魔化した。
『飲み物持ってくるね。適当に座ってて』と一旦部屋から出て行った涼ちゃんに言われた通り、ベッドを背もたれにしながら座った。
本棚に並べられた小説を見ていると、色褪せた本の中に背表紙も書かれていない、というかアルバムみたいな本が一冊挟まっていた。
気になって取り出してみると、やっぱりアルバムで非常に中が気になった。流石に勝手にみるのは悪いので涼ちゃんが戻ってるまで我慢をする。
「お待たせー」
涼ちゃんがトレーにコーヒーとお皿に乗ったクッキーを運んできた。
「涼ちゃんこれ見ていい?」
早速アルバムを両手で掲げながらワクワクと聞いてみる。
涼ちゃんの口の端がピクッとしたが、私の顔を見てため息をついて“どうぞ“と諦めたように言った。
私はすぐに1ページ目を開いた。
トレーを机に置いた涼ちゃんは静かに私の隣に腰を下ろした。
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