召喚士リン〜異世界転生した俺は好きなものを守るためにこの類まれなる召喚能力を使います〜

ゴリラ伯爵

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プロローグ

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 「ねえ…」

 「言ったよね…」

 男は少しうつむき、不機嫌そうに声を発する。

 「俺の大事なもんに手ぇ出したらさぁ……」

 男の周りを包む空気が、ピシッ、ピシッと小さな音を立てヒリつき、それは少しずつ、ゆっくりと大きな範囲に広がっていく。

 男が顔を上げる。

声のテンションとは裏腹に、一見すれば爽やかな、女性はおろか、同性ですら見惚れてしまうような、優しい微笑みを〝貼り付けて〟。

 「王様だろうがなんだろうが……」

 優しい微笑みを〝貼り付けた〟男の口角が、ツーっと吊り上がる。

 「国だとか関係なく……」

 怒気を孕んだ目をカッと見開き、[それら]を睨め付ける。

 「全部ぶっ壊しちゃうってさぁ」

 微笑みの仮面が、獰猛な笑みに変わり、
ヒリついていた空気は息苦しいほどの重圧に姿を変える。

 男の目線の先には、見渡す限りの人々。幾つもの隊列を成し、男とはわずか数百メートルの間を空け、対峙している。隊列ごとに旗が掲げられ、風に靡いている。赤の布地に黒く描かれた剣と鷲。その紋は王家の直属の軍勢であることを誇示している。
 
  「トラっ!」

 男は不意に叫び、飛び上がる。たった今立っていたその場所には、美しい虎柄模様の猫が姿を現す。ついつい愛でたくなるような、気品すら感じさせる愛くるしさ。普通の虎猫だったらそうであろう。普通であれば。

 (改めて見ると、やっぱでっかいよな~)

 そう。我々が知りうる猫の何十倍ものサイズ。大型の肉食獣よりも遥かに大きい。

 (リアル版の猫ちゃんバスだよね~)
 
 ニコッと笑うと、男はそのまま猫の、巨猫の背中に跨る。

 「行こうか、トラ」

 ゴロゴロと大きく喉を鳴らすトラの毛並みを優しく撫でると、トラは大きく伸びをして、スッと身を屈める。

 その姿を見た王軍は、武器を持つものは武器を、魔法を使うものは杖を、それぞれが掲げ、構える。

 いよいよ開戦の時。
 
この戦いは後に、

『天魔の乱』

として、後世に語り継がれていく。

 男の名前はリン。

この物語は『天魔のリン』の物語。

少し長くなるかも知れないが、リンのお話を、共に歩いて頂けたら。
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