1 / 5
プロローグ
しおりを挟む
「ねえ…」
「言ったよね…」
男は少しうつむき、不機嫌そうに声を発する。
「俺の大事なもんに手ぇ出したらさぁ……」
男の周りを包む空気が、ピシッ、ピシッと小さな音を立てヒリつき、それは少しずつ、ゆっくりと大きな範囲に広がっていく。
男が顔を上げる。
声のテンションとは裏腹に、一見すれば爽やかな、女性はおろか、同性ですら見惚れてしまうような、優しい微笑みを〝貼り付けて〟。
「王様だろうがなんだろうが……」
優しい微笑みを〝貼り付けた〟男の口角が、ツーっと吊り上がる。
「国だとか関係なく……」
怒気を孕んだ目をカッと見開き、[それら]を睨め付ける。
「全部ぶっ壊しちゃうってさぁ」
微笑みの仮面が、獰猛な笑みに変わり、
ヒリついていた空気は息苦しいほどの重圧に姿を変える。
男の目線の先には、見渡す限りの人々。幾つもの隊列を成し、男とはわずか数百メートルの間を空け、対峙している。隊列ごとに旗が掲げられ、風に靡いている。赤の布地に黒く描かれた剣と鷲。その紋は王家の直属の軍勢であることを誇示している。
「トラっ!」
男は不意に叫び、飛び上がる。たった今立っていたその場所には、美しい虎柄模様の猫が姿を現す。ついつい愛でたくなるような、気品すら感じさせる愛くるしさ。普通の虎猫だったらそうであろう。普通であれば。
(改めて見ると、やっぱでっかいよな~)
そう。我々が知りうる猫の何十倍ものサイズ。大型の肉食獣よりも遥かに大きい。
(リアル版の猫ちゃんバスだよね~)
ニコッと笑うと、男はそのまま猫の、巨猫の背中に跨る。
「行こうか、トラ」
ゴロゴロと大きく喉を鳴らすトラの毛並みを優しく撫でると、トラは大きく伸びをして、スッと身を屈める。
その姿を見た王軍は、武器を持つものは武器を、魔法を使うものは杖を、それぞれが掲げ、構える。
いよいよ開戦の時。
この戦いは後に、
『天魔の乱』
として、後世に語り継がれていく。
男の名前はリン。
この物語は『天魔のリン』の物語。
少し長くなるかも知れないが、リンのお話を、共に歩いて頂けたら。
「言ったよね…」
男は少しうつむき、不機嫌そうに声を発する。
「俺の大事なもんに手ぇ出したらさぁ……」
男の周りを包む空気が、ピシッ、ピシッと小さな音を立てヒリつき、それは少しずつ、ゆっくりと大きな範囲に広がっていく。
男が顔を上げる。
声のテンションとは裏腹に、一見すれば爽やかな、女性はおろか、同性ですら見惚れてしまうような、優しい微笑みを〝貼り付けて〟。
「王様だろうがなんだろうが……」
優しい微笑みを〝貼り付けた〟男の口角が、ツーっと吊り上がる。
「国だとか関係なく……」
怒気を孕んだ目をカッと見開き、[それら]を睨め付ける。
「全部ぶっ壊しちゃうってさぁ」
微笑みの仮面が、獰猛な笑みに変わり、
ヒリついていた空気は息苦しいほどの重圧に姿を変える。
男の目線の先には、見渡す限りの人々。幾つもの隊列を成し、男とはわずか数百メートルの間を空け、対峙している。隊列ごとに旗が掲げられ、風に靡いている。赤の布地に黒く描かれた剣と鷲。その紋は王家の直属の軍勢であることを誇示している。
「トラっ!」
男は不意に叫び、飛び上がる。たった今立っていたその場所には、美しい虎柄模様の猫が姿を現す。ついつい愛でたくなるような、気品すら感じさせる愛くるしさ。普通の虎猫だったらそうであろう。普通であれば。
(改めて見ると、やっぱでっかいよな~)
そう。我々が知りうる猫の何十倍ものサイズ。大型の肉食獣よりも遥かに大きい。
(リアル版の猫ちゃんバスだよね~)
ニコッと笑うと、男はそのまま猫の、巨猫の背中に跨る。
「行こうか、トラ」
ゴロゴロと大きく喉を鳴らすトラの毛並みを優しく撫でると、トラは大きく伸びをして、スッと身を屈める。
その姿を見た王軍は、武器を持つものは武器を、魔法を使うものは杖を、それぞれが掲げ、構える。
いよいよ開戦の時。
この戦いは後に、
『天魔の乱』
として、後世に語り継がれていく。
男の名前はリン。
この物語は『天魔のリン』の物語。
少し長くなるかも知れないが、リンのお話を、共に歩いて頂けたら。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる