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第二章 「神に愛されなかった者」
#48 大切なもの
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マリス教の白。自警団の黒。
それが目の前でくっきりと分かれる中、シンシアは不機嫌そうに言葉を発した。
「――リンディル、邪魔しないで貰えますか?」
「お前こそ邪魔しないで貰えるか? 私の道を開けてくれ」
リンディルの後ろにいる、軍服に身を包んだ自警団の面々。
初日に見た数とは比較にならないほど多く、一糸の乱れもなく整然としたその隊列が行進する。
「相変わらず自分勝手ですね。今回も、道理や正義はこちらにありますが」
それを受けて、リンディルはさも当然というように言葉を返す。
「道理や正義なんて、弟一人で私はひっくり返るが」
それを受けて、シンシアは無表情でその疑問を言葉にした。
「――あなたの弟は、もう死んだはずですが?」
そのシンシアの言葉に、リンディルはにっこりと作り笑顔を浮かべた。
「"知ってるよ"」
その言葉を発した刹那、トンとリンディルは地面をはねた。
ある意味、空中でいい的になった彼女に、反射的にマリス教団員の攻撃が降り注ぐ。
数多の光の矢が、リンディルに迫る。
その的である彼女の元に、球のようにそれが集まった。
「――ふっ」
が、それは瞬き一つで霧散した。
傷一つなく、音もなく、それは空気に溶けるように跡形もなく消えた。
シンシアが無表情で言葉を発する。
「――無駄です、彼女に"それ"は効きません」
その言葉の意味や、目の前に起こったことに何が何だか分からず、俺がポカンとする中。
まるで重力などを感じさせないその跳躍で、俺の前方へとリンディルは華麗に着地した。
「リ、リンディルさん」
「うむ。元気か、弟。お姉ちゃんは元気だ」
その爽やかな気持ちの良い笑顔を浮かべる彼女は、傍から見たらいい姉だ。
この光景に唯一の問題があるとすれば、この人が俺の姉でないことくらいだ。
「――さて、姉弟の水入らずの話もいいが、時間はないな」
辺りを見渡しながら、残念そうに話すリンディル。
そして、彼女はゆっくりと俺の先を見据えた。
「その背中にいる娘のが今回の"原因"か」
そのリンディルの言葉に、俺は頷く。
「顔を見せてもらってもいいか?」
その申し出に、俺は一瞬躊躇した。
『神に愛されなかった者は、誰にでも忌み嫌われる』
俺とミヤ以外で、ナナのことを初めから忌み嫌わなかった奴なんていなかった。
フィリーだって初めはそうだった。
例に習うなら、彼女にナナを見せる、この行為は危険に思えた。
だが。
俺を助けてくれた彼女に、敵意なんて微塵も感じない。
それに何より、ナナの震えがこの瞬間だけは嘘かと思うくらい消えていた。
「……名前は、ナナです」
その俺の言葉を受けて、リンディルは俺の後ろへ歩を進めた。
そしてナナを見ると、彼女は何かを思い出したかのように笑った。
「綺麗な顔してるな」
武器を持たない左手でナナの頭をなでる、リンディル。
ナナの鼓動が、穏やかな間隔を刻んだ。
俺が不思議な気持ちで、それを目の当りにしていると。
リンディルの口元が、小さく動いたのが見えた。
――これも、神様のいたずらか。
それが何を意味していたのかは分からないが、その表情は少し寂しげに見えた。
そんな一時を終えると、リンディルがもういいという視線をこちらへと送った。
そこで俺は改めて、疑問を彼女に投げた。
「リンディルさん、なんで助けてくれたんですか?」
「弟が守りたいものを守るのは当然だろ」
からからと笑う、その姿に彼女の本質がどこにあるのか分からなかった。
「――それに、私たちエルバッツ自警団の本来の目的は、エルバッツを守ることじゃないんだ」
「え?」
「"大切なものを自分たちで守る"、それが私たちの役目だ」
リンディルにとっての大切なもの。
その本当の意味を俺はまだ理解していないのかもしれない。
「それに何より、お前には私のようになってほしくない」
彼女の生い立ちも、人生も、苦しみも。
俺はあのおかしな言葉でしか彼女の一端を知らない。
ただ一つ分かることは、彼女が弟を失ったということくらいだ。
俺に言いたいことを終えると、リンディルの視線は真横を向く。
「いつかの少女と虎も、こいつをよろしくな」
申し訳なさそうな表情でリンディルは笑う。
最後にそっと、彼女は俺の耳元に迫ると。
『右手に向かって走れ』
そう囁いた。
* * *
――#50「運命のアナグラム」まで、後#1。
それが目の前でくっきりと分かれる中、シンシアは不機嫌そうに言葉を発した。
「――リンディル、邪魔しないで貰えますか?」
「お前こそ邪魔しないで貰えるか? 私の道を開けてくれ」
リンディルの後ろにいる、軍服に身を包んだ自警団の面々。
初日に見た数とは比較にならないほど多く、一糸の乱れもなく整然としたその隊列が行進する。
「相変わらず自分勝手ですね。今回も、道理や正義はこちらにありますが」
それを受けて、リンディルはさも当然というように言葉を返す。
「道理や正義なんて、弟一人で私はひっくり返るが」
それを受けて、シンシアは無表情でその疑問を言葉にした。
「――あなたの弟は、もう死んだはずですが?」
そのシンシアの言葉に、リンディルはにっこりと作り笑顔を浮かべた。
「"知ってるよ"」
その言葉を発した刹那、トンとリンディルは地面をはねた。
ある意味、空中でいい的になった彼女に、反射的にマリス教団員の攻撃が降り注ぐ。
数多の光の矢が、リンディルに迫る。
その的である彼女の元に、球のようにそれが集まった。
「――ふっ」
が、それは瞬き一つで霧散した。
傷一つなく、音もなく、それは空気に溶けるように跡形もなく消えた。
シンシアが無表情で言葉を発する。
「――無駄です、彼女に"それ"は効きません」
その言葉の意味や、目の前に起こったことに何が何だか分からず、俺がポカンとする中。
まるで重力などを感じさせないその跳躍で、俺の前方へとリンディルは華麗に着地した。
「リ、リンディルさん」
「うむ。元気か、弟。お姉ちゃんは元気だ」
その爽やかな気持ちの良い笑顔を浮かべる彼女は、傍から見たらいい姉だ。
この光景に唯一の問題があるとすれば、この人が俺の姉でないことくらいだ。
「――さて、姉弟の水入らずの話もいいが、時間はないな」
辺りを見渡しながら、残念そうに話すリンディル。
そして、彼女はゆっくりと俺の先を見据えた。
「その背中にいる娘のが今回の"原因"か」
そのリンディルの言葉に、俺は頷く。
「顔を見せてもらってもいいか?」
その申し出に、俺は一瞬躊躇した。
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俺とミヤ以外で、ナナのことを初めから忌み嫌わなかった奴なんていなかった。
フィリーだって初めはそうだった。
例に習うなら、彼女にナナを見せる、この行為は危険に思えた。
だが。
俺を助けてくれた彼女に、敵意なんて微塵も感じない。
それに何より、ナナの震えがこの瞬間だけは嘘かと思うくらい消えていた。
「……名前は、ナナです」
その俺の言葉を受けて、リンディルは俺の後ろへ歩を進めた。
そしてナナを見ると、彼女は何かを思い出したかのように笑った。
「綺麗な顔してるな」
武器を持たない左手でナナの頭をなでる、リンディル。
ナナの鼓動が、穏やかな間隔を刻んだ。
俺が不思議な気持ちで、それを目の当りにしていると。
リンディルの口元が、小さく動いたのが見えた。
――これも、神様のいたずらか。
それが何を意味していたのかは分からないが、その表情は少し寂しげに見えた。
そんな一時を終えると、リンディルがもういいという視線をこちらへと送った。
そこで俺は改めて、疑問を彼女に投げた。
「リンディルさん、なんで助けてくれたんですか?」
「弟が守りたいものを守るのは当然だろ」
からからと笑う、その姿に彼女の本質がどこにあるのか分からなかった。
「――それに、私たちエルバッツ自警団の本来の目的は、エルバッツを守ることじゃないんだ」
「え?」
「"大切なものを自分たちで守る"、それが私たちの役目だ」
リンディルにとっての大切なもの。
その本当の意味を俺はまだ理解していないのかもしれない。
「それに何より、お前には私のようになってほしくない」
彼女の生い立ちも、人生も、苦しみも。
俺はあのおかしな言葉でしか彼女の一端を知らない。
ただ一つ分かることは、彼女が弟を失ったということくらいだ。
俺に言いたいことを終えると、リンディルの視線は真横を向く。
「いつかの少女と虎も、こいつをよろしくな」
申し訳なさそうな表情でリンディルは笑う。
最後にそっと、彼女は俺の耳元に迫ると。
『右手に向かって走れ』
そう囁いた。
* * *
――#50「運命のアナグラム」まで、後#1。
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