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「そろそろ良いだろ。ルカナド、代われ」

時計の長針が一周した。
待つ事に飽きていた王太子は立ち上がり、寝台に近づく。

平民のモノが憎い女を貫き、純潔は奪われた。
それはシーツに残る体液に混ざった紅が証明している。

ルカナドに嬲られ、平民の汚い言葉を強要されて吐かされる女の姿に嗜虐心が擽られた。
曲がりなりにも貴族令嬢が、下品な単語で男のモノを強請ねだらされているのだ。
情欲に浮かされた今の女に矜持などない。

こんな、魅了の無い女など恐れる必要もない。

「あぁ?」

ルカナドが寝台のそばに立った王太子を睨みつけた。

「貴様、その態度はなんだ」
「チっ、うるせぇよ。俺のもんに触んじゃねぇ」

女に伸ばした手をはたき落とされた。

「もうコイツは俺のもんだ」
「何…?」

「殿下っ、」

怒る王太子を、ロシナンテが慌てて止めた。

「何をするやめろ」
「殿下、落ち着いてください!平民の様子が、おかしくはありませんか」
「はぁ?薬で色に狂っているだけだろう?」

王太子が寝台から引き離されたのを確認して、ルカナドは女に口付ける。

目だけは王太子を睨みつけ、警戒しているようで、まるで雌を囲う獣のようだと思った。

「…我々は魅了の能力について調べてきました。ルカナドがそれに対抗できる存在と我々は結論付けましたが、それに間違いは無いのでしょうか」

「何が言いたい」

ロシナンテは、王太子からルカナドへ視線を向け呟いた。

「…今のあの男は、女に魅了されているのではないですか。深くあの女と繋がったことで」

「…まさか」

女を抱き込みこちらを威嚇する男に、かつての己の姿を見た気がする。
記憶がないはずなのに。

「純潔を奪えば魅了の能力は失われると資料室の文献にあったではないか」
「それですよ。もし、その情報が偽りだったとしたら…?」
「偽り…」

王太子は眉を寄せた。

「…能力を駆使して城内を闊歩していたあの女が、弱点が記載された魔術資料をそのままにしておくと思いますか?」

王太子ははっとした。
城に堂々と入り込み、困難なはずの王太子と接触を可能にして来た狡猾な女が、それを見逃すだろうか。

王太子とロシナンテは一歩二歩と、寝台から距離をとる。

女を捕らえるはずだったこの罠は、逆に自分たちを追い詰めていないか。

此方側の武器だったはずのルカナドが、手を離れて此方に刃を向ける。

まずい事になった。
ルカナドを取られてしまうとは思っても見なかった。
術の効かぬルカナドが敵の手の内に落ちる想定はしていない。

こんな時にニリアーナの控えめな笑顔が過る。

大丈夫ですと励ましてくれるあの声が聞きたい。

彼女との未来のためにも、此処で負け帰るわけにはいかないのだ。

王太子は、脱いで捨てたルカナドの防具の側にあった男の剣を手に取った。

捕らえて公の場に晒して処刑する案を捨てるしかない。

此処で二人もろとも処する他ない。

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