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五
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王太子が自身の得物を拾い上げたのを確認して、ルカナドは警戒を強くした。
『貴方、裏切られるわよ』
いつかの女の言葉が蘇る。
ルカナドは街のただの衛兵だった自分を、見出し自身の近衛騎士にと引き抜いた王太子に感謝していた。
給金がぐっとあがり、家族の生活は楽になった。
衛兵だった頃は自分の生活だけで手一杯だったが、妹に結婚祝いとしてまとまった金額を渡せる余裕が生まれた。
しかし、良いことばかりではない。
魔力なしの平民ごときがと、同僚たちや過去の仲間に妬まれた。
貴族しかいない王宮騎士からは、爪弾きに合う。
それでも、昔の生活よりも今のほうが随分楽だった。
街の荒くれ者相手に暴れ、身体中に傷や痣を作る事はなくなった。
『お前は命の恩人だ』
王太子と側近達に感謝された。
普段は目にすることもできない天上人に感謝されたのだ。
理由はわからない。
首を傾げても詳細は語られなかったが、できる限りルカナドを王太子は側に置いた。
その王太子には婚約者がいた。
控えめなその貴族令嬢は、王太子には無下に扱われていた。
王太子には恋人が居る。恋人らは寄り添い愛を語る。
平民のルカナドからみれば不誠実な行動だと思っているが、貴族ではよくあることだと知っている。
それでも、語らう恋人たちを見つめる王太子の婚約者が、表情を変えずに傷ついている事に気付いた。
貴族特有の文化である愛のない結婚でも、相手を愛してしまったら不幸だろうなと思った。
時間を確認して、ルカナドは恋人から王太子を引き離しにかかる。
ルカナドは事前に指示を受けていた。
時間が来れば仕事を理由に王太子をその恋人から引き離す役目を与えられている。
言葉だけでは、あしらわれる。
だから、強引に王太子の腕を掴んで恋人から引き離す、それがルカナドの仕事だった。
『いつもすまない』
なかなか離れたがらない王太子も、ルカナドが腕を引けば、素直に応じる。
恋人と離れ姿が見えなくなったらいつも感謝された。
一緒にいるときは片時も離れたくないと言わんばかりにだったのに、いざ距離を取り、恋人の姿を視界の遠くに捉えた王太子は、いつも恋人を憎々しげに睨んでいた。
ルカナドは王太子の極端な感情に気づいてはいたが、その原因を知ろうとは思わなかった。
大凡つまらぬ嫉妬か独占欲だろうとしか思っていなかった。
王太子はルカナドに恋人の動向を逐一探らせ報告させた。
かなり重度の独占欲だ。
一歩間違えれば犯罪に近い。
…王族には適用されないのだろうが。
『貴方、裏切られるわよ』
酒に酔い、夜会の会場から辞した王太子の恋人に尾行を気付かれ、忠告された。
『殿下はそのような人ではありません』
『あらそう?なら楽しみね。私はこの休憩室で休んでいるから殿下にそう報告してね?』
王太子の恋人は、扉を開いて入っていく。
『あ。知っているとは思うけど、平民が貴族令嬢に暴行すれば、首が飛ぶわよ?』
『…如何なる理由があろうと、婦女に暴力を振るうつもりはありません』
『主の命令でも…?』
『主はそのような命令はしません』
女は笑っていた。
『貴方は裏切られるわ』
『失礼します』
ルカナドは表情を崩さぬ様に気を配った。
この女と話していても埒が明かない。
『もし、主がソレを命じたら素直に受けなさい』
『私が助けてあげるから』
背中に掛けられた言葉には答えず、ルカナドは主の元へと戻っていく。
その後、その忠告通りの状況に陥った。
やけになったルカナドは、主の命令に従った。
命令に背いても、応じても、結果は同じなのだから。
無垢な身体を貫いて、穿ち揺らせて堕とす。
目の前の女が媚薬に犯されて思考が浮ついている事が彼女にとっては救いなのかもしれない。
男を知らぬはずの身体は、最初から今までずっとルカナドを求めて離さない。
途切れ途切れに、ルカナドの名を呼ぶ。
愛しい相手のように。
「好き、愛して、ルカ」
これは、だめだと思った。
媚薬に耐性があったはずのルカナドも、自分が堕ちていくのがわかる。
このオンナはオレのもの。
誰に渡してやるものか。
もし、奪うものがいたのならば。
ルカナドは、目の前で振りかぶる刃に向けて、シーツを手早く投げた。
王太子の視界を奪い、剣を握る手に蹴りを入れる。
勢いで後ろに倒れる王太子は、手から剣がすっぽ抜けて部屋の扉に激突させた。
「貴っ、様…!」
「邪魔すんじゃねえよ」
尻餅をついた王太子にロシナンテが駆け寄る。
「殿下、お怪我は」
「あぁ、ルカっ…ルカ」
「あぁ悪いな。気持ちよくしてやるから、…ほら」
王太子もロシナンテのことも見えていない。
見ていない。
女にはルカナドだけだった。
ルカナドは再び深く自分の女と繋がり、一番奥を刺激する。
背をのけぞらせて、女は絶頂する。
何度も、何度も。
「っあ、それ、すき、すき!ルカぁ」
「っ俺もだ、もっと欲しがれ、リアナ」
ルカナドは、抱く女の奥に何度目かの吐精をした。
『貴方、裏切られるわよ』
いつかの女の言葉が蘇る。
ルカナドは街のただの衛兵だった自分を、見出し自身の近衛騎士にと引き抜いた王太子に感謝していた。
給金がぐっとあがり、家族の生活は楽になった。
衛兵だった頃は自分の生活だけで手一杯だったが、妹に結婚祝いとしてまとまった金額を渡せる余裕が生まれた。
しかし、良いことばかりではない。
魔力なしの平民ごときがと、同僚たちや過去の仲間に妬まれた。
貴族しかいない王宮騎士からは、爪弾きに合う。
それでも、昔の生活よりも今のほうが随分楽だった。
街の荒くれ者相手に暴れ、身体中に傷や痣を作る事はなくなった。
『お前は命の恩人だ』
王太子と側近達に感謝された。
普段は目にすることもできない天上人に感謝されたのだ。
理由はわからない。
首を傾げても詳細は語られなかったが、できる限りルカナドを王太子は側に置いた。
その王太子には婚約者がいた。
控えめなその貴族令嬢は、王太子には無下に扱われていた。
王太子には恋人が居る。恋人らは寄り添い愛を語る。
平民のルカナドからみれば不誠実な行動だと思っているが、貴族ではよくあることだと知っている。
それでも、語らう恋人たちを見つめる王太子の婚約者が、表情を変えずに傷ついている事に気付いた。
貴族特有の文化である愛のない結婚でも、相手を愛してしまったら不幸だろうなと思った。
時間を確認して、ルカナドは恋人から王太子を引き離しにかかる。
ルカナドは事前に指示を受けていた。
時間が来れば仕事を理由に王太子をその恋人から引き離す役目を与えられている。
言葉だけでは、あしらわれる。
だから、強引に王太子の腕を掴んで恋人から引き離す、それがルカナドの仕事だった。
『いつもすまない』
なかなか離れたがらない王太子も、ルカナドが腕を引けば、素直に応じる。
恋人と離れ姿が見えなくなったらいつも感謝された。
一緒にいるときは片時も離れたくないと言わんばかりにだったのに、いざ距離を取り、恋人の姿を視界の遠くに捉えた王太子は、いつも恋人を憎々しげに睨んでいた。
ルカナドは王太子の極端な感情に気づいてはいたが、その原因を知ろうとは思わなかった。
大凡つまらぬ嫉妬か独占欲だろうとしか思っていなかった。
王太子はルカナドに恋人の動向を逐一探らせ報告させた。
かなり重度の独占欲だ。
一歩間違えれば犯罪に近い。
…王族には適用されないのだろうが。
『貴方、裏切られるわよ』
酒に酔い、夜会の会場から辞した王太子の恋人に尾行を気付かれ、忠告された。
『殿下はそのような人ではありません』
『あらそう?なら楽しみね。私はこの休憩室で休んでいるから殿下にそう報告してね?』
王太子の恋人は、扉を開いて入っていく。
『あ。知っているとは思うけど、平民が貴族令嬢に暴行すれば、首が飛ぶわよ?』
『…如何なる理由があろうと、婦女に暴力を振るうつもりはありません』
『主の命令でも…?』
『主はそのような命令はしません』
女は笑っていた。
『貴方は裏切られるわ』
『失礼します』
ルカナドは表情を崩さぬ様に気を配った。
この女と話していても埒が明かない。
『もし、主がソレを命じたら素直に受けなさい』
『私が助けてあげるから』
背中に掛けられた言葉には答えず、ルカナドは主の元へと戻っていく。
その後、その忠告通りの状況に陥った。
やけになったルカナドは、主の命令に従った。
命令に背いても、応じても、結果は同じなのだから。
無垢な身体を貫いて、穿ち揺らせて堕とす。
目の前の女が媚薬に犯されて思考が浮ついている事が彼女にとっては救いなのかもしれない。
男を知らぬはずの身体は、最初から今までずっとルカナドを求めて離さない。
途切れ途切れに、ルカナドの名を呼ぶ。
愛しい相手のように。
「好き、愛して、ルカ」
これは、だめだと思った。
媚薬に耐性があったはずのルカナドも、自分が堕ちていくのがわかる。
このオンナはオレのもの。
誰に渡してやるものか。
もし、奪うものがいたのならば。
ルカナドは、目の前で振りかぶる刃に向けて、シーツを手早く投げた。
王太子の視界を奪い、剣を握る手に蹴りを入れる。
勢いで後ろに倒れる王太子は、手から剣がすっぽ抜けて部屋の扉に激突させた。
「貴っ、様…!」
「邪魔すんじゃねえよ」
尻餅をついた王太子にロシナンテが駆け寄る。
「殿下、お怪我は」
「あぁ、ルカっ…ルカ」
「あぁ悪いな。気持ちよくしてやるから、…ほら」
王太子もロシナンテのことも見えていない。
見ていない。
女にはルカナドだけだった。
ルカナドは再び深く自分の女と繋がり、一番奥を刺激する。
背をのけぞらせて、女は絶頂する。
何度も、何度も。
「っあ、それ、すき、すき!ルカぁ」
「っ俺もだ、もっと欲しがれ、リアナ」
ルカナドは、抱く女の奥に何度目かの吐精をした。
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