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三
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「仕事は終った?俺の奥さん」
「エルク!おかえりなさい」
大きな荷物を抱えたまま、エルクはジュリアの職場である小さな商店にやってきた。
腕を広げるエルクの胸にジュリアは飛び込んで、キスで迎えた。
「どうだった?行商は」
「面白いものあったよ」
そういって荷物から四角い板を取り出す。
紐で繋がっているのは筒のようだった。
「これみて!遠視筒と言ってね、筒を向けた先の映像をこの板に投影できるんだ!」
「異国にはそんなものがあるのね」
法律に触れそうだけど、という言葉は控えた。
にこにこと嬉しそうな夫に無粋な言葉はいらない。
ふと、エルクが腰から手のひらサイズの板を取り出した。
「それは?」
「ん?これ?これは遠く離れた友人と連絡が取れる魔具なんだよ!同業者で持ってて情報の共有をしてるんだー」
「情報の共有?」
「他国の情報だね。今ここでは蘭が流行ってるとか、絹が不足しているとか。そういった同報が流れてくるんだ。うーん。他国の新聞が自宅のポストに届く…みたいな感じかなぁ?」
「本当?それってすごい事なんじゃない…?」
「うん!まだ出回ってないから一般に普及するのはまだまだ先だろうねー」
エルクは板を指でぽんぽんと数回叩くと再びポケットにそれを戻した。
「お仕事終わるまで待つから一緒にかえろ?」
エルクに頷いて、ジュリアは店の奥へと引っ込んだ。
「ジュリアさんお迎えがきたのね」
「今日はもう帰って良いですよ。あとは雑用だけなので」
「え、でも」
「大丈夫。旦那さん行商人なんでしょ?帰ってきてるときはいっぱい甘やかしてもらいなさい」
「皆さん…ありがとう」
新しい職場の同僚はジュリアに対して優しい。
傾きかけた店を立て直した彼女を認めてくれている。
ジュリアはメイピアの結婚を待たずに家を追い出された。
しかも、職場の方にまで父は圧力をかけ、仕事まで失った。
微々たる退職金を手に、途方に暮れていたところで声をかけてくれたのは、仕事で面識のあった行商人のエルクだった。
「商品の仕入れでお店に行ったんだけど、…どうしたの?」
事情を話すと、彼は親身になってくれた。
「じゃあ一緒に行商してみない?」
行くところのないジュリアはその誘いに乗った。
エルクと共に国を渡って色々な景色を見た。
いかに自分が小さい世界に居たのかを思い知ってジュリアは興奮した。
しかも、ずっと帳面の管理しかしていなかったジュリアは実際の品物を手に取りそれを売る、商売という物の良さを初めて体験した。
エルクは売り込みが上手く、客に商品説明する彼の助手のように隣に立っているにも関わらず「あ、買います!」と言ってしまうほどだった。
その度、羞恥にかられるジュリアに対して、エルクは俺の上得意さんだね、とにこにこと笑ってくれた。
一年程エルクと旅をして彼から求婚された。
「実はずっと前から気になってたんだけど、貴族様だったから諦めてたんだー。よかったら俺の奥さんになってくれないかなぁ?」
一緒に旅をして、近くで彼の人となりを知り、ジュリアは快く求婚を受けた。
エルクが拠点を置く国で、ジュリアは仕事を世話してもらった。
子供ができるかもしれないし、身重のジュリアを連れ回すわけには行かないからと住居も用意して。
エルクは行商範囲を国内か隣国までと決めた。
どうしても遠方に行かなければならない時は、高額だが転移装置を使用して最長でも二週間以上の出張しないと決めた。
世界中を回っていたエルクにしてみればかなりの決断だと思う。
ジュリアと離れたくないからとエルクは言うが、多分ジュリアを一人にしたくないのだろう。
仕事を用意してくれたものそういった理由もあったのだろうと思っている。
あれ以来、ジュリアは家族と連絡はとっていない。
海を渡り、別の大陸へ移動してしまった為、母国の情報は全く入ってこなかった。
まぁ、陞爵して王子を婿に迎えることができたのだから家族は不幸になっていることはないだろう。
ジュリアは、エルクの優しい笑顔に応えて差し出された手を握って我が家への帰路についた。
「エルク!おかえりなさい」
大きな荷物を抱えたまま、エルクはジュリアの職場である小さな商店にやってきた。
腕を広げるエルクの胸にジュリアは飛び込んで、キスで迎えた。
「どうだった?行商は」
「面白いものあったよ」
そういって荷物から四角い板を取り出す。
紐で繋がっているのは筒のようだった。
「これみて!遠視筒と言ってね、筒を向けた先の映像をこの板に投影できるんだ!」
「異国にはそんなものがあるのね」
法律に触れそうだけど、という言葉は控えた。
にこにこと嬉しそうな夫に無粋な言葉はいらない。
ふと、エルクが腰から手のひらサイズの板を取り出した。
「それは?」
「ん?これ?これは遠く離れた友人と連絡が取れる魔具なんだよ!同業者で持ってて情報の共有をしてるんだー」
「情報の共有?」
「他国の情報だね。今ここでは蘭が流行ってるとか、絹が不足しているとか。そういった同報が流れてくるんだ。うーん。他国の新聞が自宅のポストに届く…みたいな感じかなぁ?」
「本当?それってすごい事なんじゃない…?」
「うん!まだ出回ってないから一般に普及するのはまだまだ先だろうねー」
エルクは板を指でぽんぽんと数回叩くと再びポケットにそれを戻した。
「お仕事終わるまで待つから一緒にかえろ?」
エルクに頷いて、ジュリアは店の奥へと引っ込んだ。
「ジュリアさんお迎えがきたのね」
「今日はもう帰って良いですよ。あとは雑用だけなので」
「え、でも」
「大丈夫。旦那さん行商人なんでしょ?帰ってきてるときはいっぱい甘やかしてもらいなさい」
「皆さん…ありがとう」
新しい職場の同僚はジュリアに対して優しい。
傾きかけた店を立て直した彼女を認めてくれている。
ジュリアはメイピアの結婚を待たずに家を追い出された。
しかも、職場の方にまで父は圧力をかけ、仕事まで失った。
微々たる退職金を手に、途方に暮れていたところで声をかけてくれたのは、仕事で面識のあった行商人のエルクだった。
「商品の仕入れでお店に行ったんだけど、…どうしたの?」
事情を話すと、彼は親身になってくれた。
「じゃあ一緒に行商してみない?」
行くところのないジュリアはその誘いに乗った。
エルクと共に国を渡って色々な景色を見た。
いかに自分が小さい世界に居たのかを思い知ってジュリアは興奮した。
しかも、ずっと帳面の管理しかしていなかったジュリアは実際の品物を手に取りそれを売る、商売という物の良さを初めて体験した。
エルクは売り込みが上手く、客に商品説明する彼の助手のように隣に立っているにも関わらず「あ、買います!」と言ってしまうほどだった。
その度、羞恥にかられるジュリアに対して、エルクは俺の上得意さんだね、とにこにこと笑ってくれた。
一年程エルクと旅をして彼から求婚された。
「実はずっと前から気になってたんだけど、貴族様だったから諦めてたんだー。よかったら俺の奥さんになってくれないかなぁ?」
一緒に旅をして、近くで彼の人となりを知り、ジュリアは快く求婚を受けた。
エルクが拠点を置く国で、ジュリアは仕事を世話してもらった。
子供ができるかもしれないし、身重のジュリアを連れ回すわけには行かないからと住居も用意して。
エルクは行商範囲を国内か隣国までと決めた。
どうしても遠方に行かなければならない時は、高額だが転移装置を使用して最長でも二週間以上の出張しないと決めた。
世界中を回っていたエルクにしてみればかなりの決断だと思う。
ジュリアと離れたくないからとエルクは言うが、多分ジュリアを一人にしたくないのだろう。
仕事を用意してくれたものそういった理由もあったのだろうと思っている。
あれ以来、ジュリアは家族と連絡はとっていない。
海を渡り、別の大陸へ移動してしまった為、母国の情報は全く入ってこなかった。
まぁ、陞爵して王子を婿に迎えることができたのだから家族は不幸になっていることはないだろう。
ジュリアは、エルクの優しい笑顔に応えて差し出された手を握って我が家への帰路についた。
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