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三
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「まぁ、いいですわ。今日此処に来たのはこんな茶番に付き合う事ではありません。私の用事を済まさせて頂きます」
カブエラは手提げから球体を取り出した。
魔力を感じるので魔道具の一種なのだろうと王太子は判断した。
「…なんだそれは。リリーシュアに何をするつもりだ」
「なにも?私は一度も彼女に近づいたことなどありません」
「ふん。信じぬ」
「そうですか。ならば私は発言を控えましょう」
カブエラが魔力を魔道具に流すと、空中に絵が現れた。
「…記録魔具」
止まっている馬車を投影しているそれを見せられ、「なんだ」「意味がわからぬ」と側近たちが声を上げる。
「馬車の家紋は…リリーシュアの家のものだ」
王太子の呟きに、一同は黙った。
「これがなんだという」
王太子の後ろから顔を出しているリリーシュアも意味がわからないのか不思議そうに画をみていた。
「まさか、この馬車に何かしたのかっ」
その言葉を発した直後、止まっていた馬車が動き出した。
ギッギッギッ
木の軋む音がするが、馬車の機動力である馬は止まったまま。
馬車は、その場で揺れていた。
「…なんだ?」
映し出されている馬車が大きくなっていく。
記録魔具が馬車に近づいたのだろう。
馬車の小窓は閉じられ、中の様子はわからない。
しかし、扉の前で中の声を拾う。
「ぅあっ、あっ、あ、もっと、もっ、と」
「お嬢様っ」
女の声と男の声が交じる。
断続的な嬌声に、リリーシュア以外の者はそれが何がを理解した。
「…これがなんだ」
王太子は気丈に振る舞う。
女の声に、覚えなどない。似ている、だけで知らぬ者の声だと。
カブエラは黙ったまま。じっと映像に目を向けていた。
それからすぐに馬車の揺れが止まり、沈黙が訪れる。
魔具がゆっくり馬車から離れ、また馬車全体を映し出す。
再び口を開こうとした王太子は言葉を失った。
扉が開き、御者の男が周囲を確認して降りてくると、続いてリリーシュアが顔を出した。
御者の手を取り、ゆっくり下りてくると、御者の手を握りしめ、「…また帰りにね」と言葉をかける。
「…なんだこれは」
王太子は背後のリリーシュアを振り返る。
しかし、リリーシュアは理解していないのか、不思議そうに王太子を見上げた。
「え?何か?」
「…わからないのか?自分のやっていたことを」
「え?え、なに?マッサージ、だけど…何か問題が?馬車は乗り慣れてないから脚のむくみが酷くて…家では、メイドがよくやってくれているけど…、え?なぁに?」
「…マッサージ…?」
「ドレスに慣れなくて…肩とか、腰とか…全身が痛くて…」
王太子は呆れたような声を上げ、そして笑った。
リリーシュアは男爵家の養子だ。
男爵家に跡継ぎができなかった為、血縁者の中から選ばれた元平民だ。
常々ドレスの重さに辟易していたリリーシュアの愚痴を聞いていたのに、王太子はリリーシュアを信じきれていなかった己を恥じ、笑う事でごまかした。
「残念だな。カブエラ。貴様の愚かな魂胆などお見通しだ。私はリリーシュアを愛し、そして信じている」
カブエラは手提げから球体を取り出した。
魔力を感じるので魔道具の一種なのだろうと王太子は判断した。
「…なんだそれは。リリーシュアに何をするつもりだ」
「なにも?私は一度も彼女に近づいたことなどありません」
「ふん。信じぬ」
「そうですか。ならば私は発言を控えましょう」
カブエラが魔力を魔道具に流すと、空中に絵が現れた。
「…記録魔具」
止まっている馬車を投影しているそれを見せられ、「なんだ」「意味がわからぬ」と側近たちが声を上げる。
「馬車の家紋は…リリーシュアの家のものだ」
王太子の呟きに、一同は黙った。
「これがなんだという」
王太子の後ろから顔を出しているリリーシュアも意味がわからないのか不思議そうに画をみていた。
「まさか、この馬車に何かしたのかっ」
その言葉を発した直後、止まっていた馬車が動き出した。
ギッギッギッ
木の軋む音がするが、馬車の機動力である馬は止まったまま。
馬車は、その場で揺れていた。
「…なんだ?」
映し出されている馬車が大きくなっていく。
記録魔具が馬車に近づいたのだろう。
馬車の小窓は閉じられ、中の様子はわからない。
しかし、扉の前で中の声を拾う。
「ぅあっ、あっ、あ、もっと、もっ、と」
「お嬢様っ」
女の声と男の声が交じる。
断続的な嬌声に、リリーシュア以外の者はそれが何がを理解した。
「…これがなんだ」
王太子は気丈に振る舞う。
女の声に、覚えなどない。似ている、だけで知らぬ者の声だと。
カブエラは黙ったまま。じっと映像に目を向けていた。
それからすぐに馬車の揺れが止まり、沈黙が訪れる。
魔具がゆっくり馬車から離れ、また馬車全体を映し出す。
再び口を開こうとした王太子は言葉を失った。
扉が開き、御者の男が周囲を確認して降りてくると、続いてリリーシュアが顔を出した。
御者の手を取り、ゆっくり下りてくると、御者の手を握りしめ、「…また帰りにね」と言葉をかける。
「…なんだこれは」
王太子は背後のリリーシュアを振り返る。
しかし、リリーシュアは理解していないのか、不思議そうに王太子を見上げた。
「え?何か?」
「…わからないのか?自分のやっていたことを」
「え?え、なに?マッサージ、だけど…何か問題が?馬車は乗り慣れてないから脚のむくみが酷くて…家では、メイドがよくやってくれているけど…、え?なぁに?」
「…マッサージ…?」
「ドレスに慣れなくて…肩とか、腰とか…全身が痛くて…」
王太子は呆れたような声を上げ、そして笑った。
リリーシュアは男爵家の養子だ。
男爵家に跡継ぎができなかった為、血縁者の中から選ばれた元平民だ。
常々ドレスの重さに辟易していたリリーシュアの愚痴を聞いていたのに、王太子はリリーシュアを信じきれていなかった己を恥じ、笑う事でごまかした。
「残念だな。カブエラ。貴様の愚かな魂胆などお見通しだ。私はリリーシュアを愛し、そして信じている」
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