淑女の仮面を被った悪女は、隣国に渡る

基本二度寝

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「ははは。無駄に調子づいたな。殿下の怒りを買い公爵令嬢が王都に住めなくなくなるなど」
「殿下!そこまでしなくても!私なら謝罪の言葉だけいただければそれでよかったのです!」
「リリーシュア。君は少し優しすぎる」

王太子は男爵令嬢の腰を抱いて引き寄せ、額に唇を落とした。

「っ!今は、こんなことしている場合では、んんっ」

頬を赤らめながら訴えるリリーシュアの口を王太子は己のそれで塞ぐ。
王太子の胸を叩いて抗議していた手も、いつの間にか彼の背中に周り、恋人たちは抱き合って口づけを交わす。

皆、愛し合う二人に釘付けだったので、顔を伏せていたカブエラに気づくこともなかった。
唇で弧を描き、狂気を含む笑みに気づけなかった。

くくっ

低く喉で笑うカブエラ。

ようやく異変に気づいた王太子は、口づけを止め、リリーシュアを背にかばった。

ぱんぱんと手を打ってカブエラは顔を上げた。

「ええ。素敵ですわ。殿下。ただの男爵令嬢に夢を見させてあげるなんて。どう考えても彼女を妃になど出来ないのに。ああ、愛妾になさるのかしら?」
「何を言う!リリーシュアは正妃に決まっている」

ひっとリリーシュアが悲鳴を上げた。
彼女自身にそんなつもりがない事は、カブエラにすらわかるのに、王太子も側近たちも彼女がただ遠慮しているのだと判断している。

「あら、そうでしたの?それは失礼しました。ならばで結ばれた国王夫妻が誕生するのですね。素晴らしいわ」
「当てこするな、だから貴様のような女は誰からも好かれないのだ」

取り巻きもなかったカブエラ。
孤高と孤立は違う。
カブエラは後者なのだと突きつけた。

「妃は皆に愛されるような者こそ相応しい」

王太子の言葉に、周囲が拍手する。
賛同の意味を示しているのだ。

「そうですか。そうですね。彼女は皆から愛されている。殿下はそんな彼女を選び、私を捨てたかったのでしょうから。
私が何を忠告しようが聞き入れられる事もなかったでしょう」

「…何が言いたい」

「私は男爵令嬢を苛めてなどおりませんでした」
「信じぬ」
「…でしょうね」

男爵令嬢の言葉は信じ、長年婚約関係だったカブエラの言葉は信じない。
王太子は、カブエラが嫉妬で令嬢を貶める女だと思っているのだ。

ただ、前提が違う。
カブエラは王太子を愛してもいない。
愛してもいない男に嫉妬など沸きようもないのに。

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