2 / 11
ニ
しおりを挟む
「ははは。無駄に調子づいたな。殿下の怒りを買い公爵令嬢が王都に住めなくなくなるなど」
「殿下!そこまでしなくても!私なら謝罪の言葉だけいただければそれでよかったのです!」
「リリーシュア。君は少し優しすぎる」
王太子は男爵令嬢の腰を抱いて引き寄せ、額に唇を落とした。
「っ!今は、こんなことしている場合では、んんっ」
頬を赤らめながら訴えるリリーシュアの口を王太子は己のそれで塞ぐ。
王太子の胸を叩いて抗議していた手も、いつの間にか彼の背中に周り、恋人たちは抱き合って口づけを交わす。
皆、愛し合う二人に釘付けだったので、顔を伏せていたカブエラに気づくこともなかった。
唇で弧を描き、狂気を含む笑みに気づけなかった。
くくっ
低く喉で笑うカブエラ。
ようやく異変に気づいた王太子は、口づけを止め、リリーシュアを背にかばった。
ぱんぱんと手を打ってカブエラは顔を上げた。
「ええ。素敵ですわ。殿下。ただの男爵令嬢に夢を見させてあげるなんて。どう考えても彼女を妃になど出来ないのに。ああ、愛妾になさるのかしら?」
「何を言う!リリーシュアは正妃に決まっている」
ひっとリリーシュアが悲鳴を上げた。
彼女自身にそんなつもりがない事は、カブエラにすらわかるのに、王太子も側近たちも彼女がただ遠慮しているのだと判断している。
「あら、そうでしたの?それは失礼しました。ならば真実の愛で結ばれた国王夫妻が誕生するのですね。素晴らしいわ」
「当てこするな、だから貴様のような女は誰からも好かれないのだ」
取り巻きもなかったカブエラ。
孤高と孤立は違う。
カブエラは後者なのだと突きつけた。
「妃は皆に愛されるような者こそ相応しい」
王太子の言葉に、周囲が拍手する。
賛同の意味を示しているのだ。
「そうですか。そうですね。彼女は皆から愛されている。殿下はそんな彼女を選び、私を捨てたかったのでしょうから。
私が何を忠告しようが聞き入れられる事もなかったでしょう」
「…何が言いたい」
「私は男爵令嬢を苛めてなどおりませんでした」
「信じぬ」
「…でしょうね」
男爵令嬢の言葉は信じ、長年婚約関係だったカブエラの言葉は信じない。
王太子は、カブエラが嫉妬で令嬢を貶める女だと思っているのだ。
ただ、前提が違う。
カブエラは王太子を愛してもいない。
愛してもいない男に嫉妬など沸きようもないのに。
「殿下!そこまでしなくても!私なら謝罪の言葉だけいただければそれでよかったのです!」
「リリーシュア。君は少し優しすぎる」
王太子は男爵令嬢の腰を抱いて引き寄せ、額に唇を落とした。
「っ!今は、こんなことしている場合では、んんっ」
頬を赤らめながら訴えるリリーシュアの口を王太子は己のそれで塞ぐ。
王太子の胸を叩いて抗議していた手も、いつの間にか彼の背中に周り、恋人たちは抱き合って口づけを交わす。
皆、愛し合う二人に釘付けだったので、顔を伏せていたカブエラに気づくこともなかった。
唇で弧を描き、狂気を含む笑みに気づけなかった。
くくっ
低く喉で笑うカブエラ。
ようやく異変に気づいた王太子は、口づけを止め、リリーシュアを背にかばった。
ぱんぱんと手を打ってカブエラは顔を上げた。
「ええ。素敵ですわ。殿下。ただの男爵令嬢に夢を見させてあげるなんて。どう考えても彼女を妃になど出来ないのに。ああ、愛妾になさるのかしら?」
「何を言う!リリーシュアは正妃に決まっている」
ひっとリリーシュアが悲鳴を上げた。
彼女自身にそんなつもりがない事は、カブエラにすらわかるのに、王太子も側近たちも彼女がただ遠慮しているのだと判断している。
「あら、そうでしたの?それは失礼しました。ならば真実の愛で結ばれた国王夫妻が誕生するのですね。素晴らしいわ」
「当てこするな、だから貴様のような女は誰からも好かれないのだ」
取り巻きもなかったカブエラ。
孤高と孤立は違う。
カブエラは後者なのだと突きつけた。
「妃は皆に愛されるような者こそ相応しい」
王太子の言葉に、周囲が拍手する。
賛同の意味を示しているのだ。
「そうですか。そうですね。彼女は皆から愛されている。殿下はそんな彼女を選び、私を捨てたかったのでしょうから。
私が何を忠告しようが聞き入れられる事もなかったでしょう」
「…何が言いたい」
「私は男爵令嬢を苛めてなどおりませんでした」
「信じぬ」
「…でしょうね」
男爵令嬢の言葉は信じ、長年婚約関係だったカブエラの言葉は信じない。
王太子は、カブエラが嫉妬で令嬢を貶める女だと思っているのだ。
ただ、前提が違う。
カブエラは王太子を愛してもいない。
愛してもいない男に嫉妬など沸きようもないのに。
155
あなたにおすすめの小説
夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位
岡暁舟
恋愛
とある公爵家の嫡男チャールズと正妻アンナの物語。チャールズの愛を受けながらも、夜の営みが段々減っていくアンナは悶々としていた。そんなアンナの前に名も知らぬ女が現れて…?
私は人形ではありません
藍田ひびき
恋愛
伯爵令嬢アリシアには誰にも逆らわず、自分の意志を示さない。そのあまりにも大人しい様子から”人形姫”と揶揄され、頭の弱い令嬢と思われていた。
そんな彼女はダンスパーティの場でクライヴ・アシュリー侯爵令息から婚約破棄を告げられる。人形姫のことだ、大人しく従うだろう――そんな予想を裏切るように、彼女は告げる。「その婚約破棄、お受けすることはできません」
※なろうにも投稿しています。
※ 3/7 誤字修正しました。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる