淑女の仮面を被った悪女は、隣国に渡る

基本二度寝

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「殿下」
「リリー私達はもう秘めた恋人関係ではない。正式に婚約した」
「え…本当に…?」

王太子はリリーシュアを婚約者に決めた。
国王は、「優秀なお前の事だから何か考えがあっての事だろう」と難しい顔だったが、カブエラの婚約無効とリリーシュアの婚約を認めてもらえた。

しかし、喜びもつかの間、「リリーシュアが妃教育を終えるまでは婚姻も退位もない」と宣言された。

本当ならば、一年後にカブエラとの結婚してと同時に、現国王の退位は決まっていた。
カブエラとリリーシュアをすげ替えて行えば済む話、とはならなかった。

平民出身のリリーシュアには貴族の教育を受けさせている。
妃教育はそれ以降の話だ。
公式の場でなければ多少大目に見てもらえるだろうが、他国の要人と対面する機会がある王族に嫁ぐには足りないものが多すぎる。
表に出さずにいれば、王妃の必要性を問われるだろう。
恋に盲目な王太子でもそれ位は理解していた。

カブエラは妃教育に十年を要した。
王太子の母、現王妃はその半分の期間で修了させたと聞いている。
カブエラは今でこそ優秀だなんだと持て囃されているが、元々物覚えがよい方ではなかった。

から、少なく見積っても今から五年程は時間を要するだろうと目算を立てていた。


「…どうして私達より先に弟王子達が結婚式を行うの?」

ある日、リリーシュアは頬を膨らませ王太子に問う。

「どうしてとは?もともとその予定であっただけのことだよ。
弟の婚約者は妃教育を終えているし公務も行えている。王族に嫁ぐ身として問題がないからだ」

至極当たり前のことを答える。
王太子にとって当たり前だが、貴族になって浅いリリーシュアにはその知識がないのだろう。
王太子は優しく答えたつもりだったが。

「え…待ってよ…教育を終えないと結婚出来ないの…?一体何年かかると…」
「早くて五年、遅くても十年位だろう」
「…十年…」

リリーシュアは呆然としている。

「わ、私十年も待てないよ」
「そうだな。わたしも同じ気持ちだ」
「そうだよね!十年も先に子供を産める状況にあるかもわからないし…!早いに越したことはないよね」
「もちろんだ」

王太子は笑顔でリリーシュアの頬に触れた。
ばぁっと花が咲いたように笑うリリーシュア。

「殿下!ならば」
「ああ。だから、教育が早く終わるよう頑張ってくれ」

リリーシュアの嬉しそうな顔から一気に表情が消えた。
同じ気持ちだと知った王太子はリリーシュアを抱きしめていたから彼女の変化に気づけなかった。

「…カブエラ様は…、王妃様はカブエラ様も物覚えが良くなかったと聞いてます。そんな彼女がどの様に習得されたのかお話を聞きたいです」
「リリーはカブエラに苛められていただろう?顔も見たくない相手ではないか」
「それは、…好む好まざるは言ってられませんから…」

見るからに落ちこむリリーシュアを救う言葉はない。

側近の中に居た一番下位貴族の男に、カブエラを罪人として処罰できなかった腹いせに、彼女の身を穢せと命じた。

下位貴族の男は、
「知り合いに荒くれ男がいる。貴族令嬢なら喜んで引き取ってくれるので、そいつに渡して好きにさせても良いですか」
と言うので、都合が良いとそれを許した。

カブエラはもうどこぞの荒くれ男に穢されている。

父親の公爵は領地に向かったはずの娘が行方不明になったと聞いて、仕事を放棄して探し回っているらしい。
見つかった、という話は聞いていない。

あの男は上手くやったようだ。

カブエラとは二度と会うことはない。
リリーシュアの彼女に会いたいという望みは叶えてやれない。

「大丈夫。リリーシュアなら出来る。私達の愛の力があれば」

リリーシュアを抱きしめても、返される腕はない。
王太子を癒やす生き生きと輝く瞳を見せてはくれなかった。
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