悪役令嬢は断罪を識っている

基本二度寝

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「本当に愚かな事をされておられる」

王の暴行が止んだのは、フランシールの父親、侯爵家の当主が現れたからだった。

「侯爵、これはっ」

「我が娘を崖から落としたと聞いたのですが」

「それは、いや、…なにか聞き違いをしてるのだ」

「そうですか。ならば、娘の面会は可能でしょうね?」

「…」

「フランシールの居る貴族牢への案内を」

侯爵は近くの近衛騎士に命じる。
騎士は国王に目を向けると、王は首を左右に振った。

「面会は、認めない。それには事前の手続きを申請し、しかるべく日程を…」

「なるほど。そうきましたか」

侯爵は特段怒りを見せることなく淡々と対応する。
フランシールを罪人として投獄したと報告した時は烈火の如く怒りを見せたと聞いていたのに。

「まぁいいでしょう。私が来たのは別件ですので」

「…無断でこんな王族の私的な区画に入ってきたのだ、それなりの理由があろうな?」

国王は不機嫌な感情を隠さずおもてに出した。
フランシールの話題に還帰せぬように、内心では怯えていることを悟られまいと。

「ええ。私の娘の卒業式典の為に用意した衣装が何故か売りに出されていまして」

侯爵の言葉に、王妃が目線を外して右手で左手を隠した。
それを見逃したのは王妃を背にしている国王だけで、侯爵はしっかりと視界に捉えている。

「それが、どうした」
「可怪しくありませんか?式典に出席した娘はそのまま罪人にされて投獄されました。今もまだ着用しているはずの衣装が市場にあることが」

国王は答えに窮した。
フランシールの衣装の所在など気にしたこともない。

「投獄時に…質素な衣装に着替えさせられたのだろう?その時手癖の悪い者が盗み出したのではないのか」

「そうでしょうね。手癖の悪い者が」

王妃の顔色が悪くなり、小刻みに震えている。

「それと時を同じくして、売り払われた金額と同等の宝石を購入した者がいたようで…。
王妃殿下。その左手の指輪は大変高価な装飾ですね。どちらでお求めに?」

侯爵は国王からその後ろの王妃に視線を移す。
王はまさかと妻に目をやった。

「これは、昔から所持していたものよ。言い掛かりはやめて」

強気な発言も震えている声のせいで効果はない。

「私が仕入れた装飾品を見間違えるわけがありません。盗難防止用の魔法を施したのも私自身ですし。
試しに施術者専用の魔法を発動させてみましょうか?」

「お前までなにをやっているんだ!!」

観念した王妃はその場に蹲って泣きわめく。
その姿に国王は王妃の罪を知った。

過去も未来も纏うことのない高貴で華美な衣装を目にして、魔が差したと王妃は告白した。

「こ、侯爵…申し訳ない。謝罪するのでこれは内々に…」

「もうこの城に金目のものはありませんからね。謝罪は素直に受けとります。二束三文ですが、王家の冠、あれで構いません」

侯爵はしれっと賠償を要求した。
王家に残る宝は、戴冠式で代々受け継いでいくその『冠』しか残されていない。

「あれは、…あれだけは…!」

「この国に次代などあるのですか?」

なんとしても未来に引き継ぐと守ってきた誇りも、侯爵の言葉に国王は膝をついた。

国王を引き継ぐのは、そこに転がっている息子しかいない。

尽く選択を誤っている息子しかいないのだ。

「陛下。大丈夫です。愛があれば、愛こそ偉大なのだと学園時代に高らかと演説されていましたよね。
我々、政略結婚をする貴族を蔑んでいた貴方なら、きっと形式だけの冠などなくとも素晴らしい国を作れるでしょう」

「侯爵、冠だけは」

国王は床に頭を押し付けて頼み込む。

「しかたありませんね」

ため息を吐く侯爵に、国王は頭を上げた。
許されるのだと安堵したのだ。

「では代わりに、我が家は他国へ移住いたします。その許可を」

侯爵は書類を一枚目の前に出すと、よい笑顔でそれに捺印を求めた。

国内最大の財力を保有する侯爵は、この国を捨てる為にここにやって来たのだった。

国王は奈落に落とされたような絶望を見た。

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