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四
「…避妊薬…?」
「ええ。私の希望ですから、負担は私が負うべきかと」
男性用の避妊薬は、女性のものよりも高価なものなのだが、まさかそのようなものを用意していたとも思わなかった。
一般的な女性用の物のほうが手にも入りやすい。
(そこまで…する?)
そこで初めて、エレアーナはイグナーツに尋ねたのだ。
「どうして、そこまでして子を望まないのですか…?」
イグナーツには爵位がある。
何れはそれを継ぐ者が必要になるはずなのだ。
「…私はこの国に明るい未来があるとは思っていません」
王太子はお気に入りの令嬢が嫌がらせを受けたとして、エレアーナとの婚約の破棄を望んだ。
自分を守る大きな後ろ盾を、下位貴族の令嬢如きで手放そうとした。
そして、事もあろうに国王もまたそれを認めた。
愛する息子の望むままに。
現王も、そして次期王も為政者としてはあまりに私欲が強すぎる。
我々臣下が彼らを上手くコントロールしなければ、国は簡単に傾くと、イグナーツはみている。
「暗い未来しかみえない現状、子を望むのはあまりに親の勝手だと思いました。子、そして孫の代のこの国は今よりも悲惨な情勢になる可能性が高い」
エレアーナは思ってもみない言葉に一瞬言葉を失った。
彼は、未来を憂いて、子を作らない選択をしたのだ。
「ならば…初めから私に手を出さなければ、…副作用が出るかもしれない避妊薬を使ってまで…あのような行為を」
「それに関しては私的理由です。
人より少し…性欲が強いと自覚があったので。
白い結婚は考えておりませんでした。
…もちろん一方的な行為で済ませるつもりもありませんでしたが、…昨夜はご満足いただけませんでしたか?」
明け透けに言われれば、エレアーナも返事に窮する。
確かに、彼は独りよがりではなく、ちゃんとエレアーナも高みに連れて行ってくれたけれど…。
昨夜の情景が浮かび、慌ててエレアーナは話を変えた。
「あ、…そういえば屋敷には戻らないって。そう言ってなかったかしら。妻のいる屋敷に帰らない」
イグナーツが出していた条件の一つ。
「それは、…普段から屋敷にはあまりいないんですよ。先程の話に繋がりますが、あのような殿下の執務補佐の仕事に日々追われてますから。
月に三日、屋敷に戻れたら良い方ですね」
「それは…帰らない…ではなく、帰れない…」
「まぁ、そうですね。城で寝泊まりしたほうが、実際仕事も捗るので。
今夜に限っては、部下から『なんで結婚の翌日に登城してるのですか。新婚なんだから早く帰ってあげてください』と、強引に帰宅させられたのです」
エレアーナは夫の言い分を聞いて、彼なりの理由を知った。
もっと傲慢な理由だと思っていた。
「…もう一つ、良い?」
「まだ何か」
イグナーツが距離を詰める。
腰に回された腕が、エレアーナの身体を引き寄せる。
「…夜会に連れては行かないっていう条件には…どんな意味があるの」
頬に手を添えられて上向かされた。
イグナーツは妙な色気を醸し出している。
その目には昨夜もあった欲の色がみえた。
「…普段は屋敷への帰宅が叶わない職務環境ですが、夜会の日は参加準備の為に、帰宅を命じられるのです。
その日だけは、確実に屋敷に戻れるわけです」
「…それで?」
エレアーナの唇を太い指が撫でる。
触れたいのに触れられない、焦らされている。そんな葛藤を感じる動きで。
「ようやく会える妻を前に、何もしないわけがないでしょう?」
エレアーナは間違えた。
イグナーツのことを誤解していた。
「きっと足腰が立たなくなるほどに抱き潰してしまうと思うので、連れ立っての夜会の参加は不可能であるだろうと言うことです」
彼は令嬢達の夢を壊す為に、鬼畜な条件を出していたわけではない。
政略結婚でも、妻を妻として扱うつもりだったのだろう。
彼女たちに伝える言葉選びに難があったのだ。
「もう、質問は終わりですか?」
エレアーナが、答える前に唇は塞がれ、寝台に押し倒された。
今夜もまた彼に甘やかされる。
「ええ。私の希望ですから、負担は私が負うべきかと」
男性用の避妊薬は、女性のものよりも高価なものなのだが、まさかそのようなものを用意していたとも思わなかった。
一般的な女性用の物のほうが手にも入りやすい。
(そこまで…する?)
そこで初めて、エレアーナはイグナーツに尋ねたのだ。
「どうして、そこまでして子を望まないのですか…?」
イグナーツには爵位がある。
何れはそれを継ぐ者が必要になるはずなのだ。
「…私はこの国に明るい未来があるとは思っていません」
王太子はお気に入りの令嬢が嫌がらせを受けたとして、エレアーナとの婚約の破棄を望んだ。
自分を守る大きな後ろ盾を、下位貴族の令嬢如きで手放そうとした。
そして、事もあろうに国王もまたそれを認めた。
愛する息子の望むままに。
現王も、そして次期王も為政者としてはあまりに私欲が強すぎる。
我々臣下が彼らを上手くコントロールしなければ、国は簡単に傾くと、イグナーツはみている。
「暗い未来しかみえない現状、子を望むのはあまりに親の勝手だと思いました。子、そして孫の代のこの国は今よりも悲惨な情勢になる可能性が高い」
エレアーナは思ってもみない言葉に一瞬言葉を失った。
彼は、未来を憂いて、子を作らない選択をしたのだ。
「ならば…初めから私に手を出さなければ、…副作用が出るかもしれない避妊薬を使ってまで…あのような行為を」
「それに関しては私的理由です。
人より少し…性欲が強いと自覚があったので。
白い結婚は考えておりませんでした。
…もちろん一方的な行為で済ませるつもりもありませんでしたが、…昨夜はご満足いただけませんでしたか?」
明け透けに言われれば、エレアーナも返事に窮する。
確かに、彼は独りよがりではなく、ちゃんとエレアーナも高みに連れて行ってくれたけれど…。
昨夜の情景が浮かび、慌ててエレアーナは話を変えた。
「あ、…そういえば屋敷には戻らないって。そう言ってなかったかしら。妻のいる屋敷に帰らない」
イグナーツが出していた条件の一つ。
「それは、…普段から屋敷にはあまりいないんですよ。先程の話に繋がりますが、あのような殿下の執務補佐の仕事に日々追われてますから。
月に三日、屋敷に戻れたら良い方ですね」
「それは…帰らない…ではなく、帰れない…」
「まぁ、そうですね。城で寝泊まりしたほうが、実際仕事も捗るので。
今夜に限っては、部下から『なんで結婚の翌日に登城してるのですか。新婚なんだから早く帰ってあげてください』と、強引に帰宅させられたのです」
エレアーナは夫の言い分を聞いて、彼なりの理由を知った。
もっと傲慢な理由だと思っていた。
「…もう一つ、良い?」
「まだ何か」
イグナーツが距離を詰める。
腰に回された腕が、エレアーナの身体を引き寄せる。
「…夜会に連れては行かないっていう条件には…どんな意味があるの」
頬に手を添えられて上向かされた。
イグナーツは妙な色気を醸し出している。
その目には昨夜もあった欲の色がみえた。
「…普段は屋敷への帰宅が叶わない職務環境ですが、夜会の日は参加準備の為に、帰宅を命じられるのです。
その日だけは、確実に屋敷に戻れるわけです」
「…それで?」
エレアーナの唇を太い指が撫でる。
触れたいのに触れられない、焦らされている。そんな葛藤を感じる動きで。
「ようやく会える妻を前に、何もしないわけがないでしょう?」
エレアーナは間違えた。
イグナーツのことを誤解していた。
「きっと足腰が立たなくなるほどに抱き潰してしまうと思うので、連れ立っての夜会の参加は不可能であるだろうと言うことです」
彼は令嬢達の夢を壊す為に、鬼畜な条件を出していたわけではない。
政略結婚でも、妻を妻として扱うつもりだったのだろう。
彼女たちに伝える言葉選びに難があったのだ。
「もう、質問は終わりですか?」
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今夜もまた彼に甘やかされる。
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