婚約破棄された彼女は元婚約者の側近に求婚する

基本二度寝

文字の大きさ
4 / 7

「…避妊薬…?」
「ええ。私の希望ですから、負担は私が負うべきかと」

男性用の避妊薬は、女性のものよりも高価なものなのだが、まさかそのようなものを用意していたとも思わなかった。
一般的な女性用の物のほうが手にも入りやすい。

(そこまで…する?)

そこで初めて、エレアーナはイグナーツに尋ねたのだ。

「どうして、そこまでして子を望まないのですか…?」

イグナーツには爵位がある。
いずれはそれを継ぐ者が必要になるはずなのだ。

「…私はこの国に明るい未来があるとは思っていません」



王太子はお気に入りの令嬢が嫌がらせを受けたとして、エレアーナとの婚約の破棄を望んだ。
自分を守る大きな後ろ盾を、下位貴族の令嬢如きで手放そうとした。

そして、事もあろうに国王もまたそれを認めた。
愛する息子の望むままに。

現王も、そして次期王も為政者としてはあまりに私欲が強すぎる。

我々臣下が彼らを上手くコントロールしなければ、国は簡単に傾くと、イグナーツはみている。

「暗い未来しかみえない現状、子を望むのはあまりに親の勝手だと思いました。子、そして孫の代のこの国は今よりも悲惨な情勢になる可能性が高い」

エレアーナは思ってもみない言葉に一瞬言葉を失った。

彼は、未来を憂いて、子を作らない選択をしたのだ。

「ならば…初めから私に手を出さなければ、…副作用が出るかもしれない避妊薬を使ってまで…あのような行為を」

「それに関しては私的理由です。
人より少し…性欲が強いと自覚があったので。
白い結婚は考えておりませんでした。
…もちろん一方的な行為で済ませるつもりもありませんでしたが、…昨夜はご満足いただけませんでしたか?」

明け透けに言われれば、エレアーナも返事に窮する。
確かに、彼は独りよがりではなく、ちゃんとエレアーナも高みに連れて行ってくれたけれど…。

昨夜の情景が浮かび、慌ててエレアーナは話を変えた。

「あ、…そういえば屋敷には戻らないって。そう言ってなかったかしら。

イグナーツが出していた条件の一つ。

「それは、…普段から屋敷にはあまりいないんですよ。先程の話に繋がりますが、殿下の執務補佐の仕事に日々追われてますから。
月に三日、屋敷に戻れたら良い方ですね」

「それは…帰らない…ではなく、帰れない…」

「まぁ、そうですね。城で寝泊まりしたほうが、実際仕事も捗るので。
今夜に限っては、部下から『なんで結婚の翌日に登城してるのですか。新婚なんだから早く帰ってあげてください』と、強引に帰宅させられたのです」

エレアーナは夫の言い分を聞いて、彼なりの理由を知った。
もっと傲慢な理由だと思っていた。

「…もう一つ、良い?」
「まだ何か」

イグナーツが距離を詰める。
腰に回された腕が、エレアーナの身体を引き寄せる。

「…夜会に連れては行かないっていう条件には…どんな意味があるの」

頬に手を添えられて上向かされた。
イグナーツは妙な色気を醸し出している。
その目には昨夜もあった欲の色がみえた。

「…普段は屋敷への帰宅が叶わない職務環境ですが、夜会の日は参加準備の為に、帰宅を命じられるのです。
その日だけは、確実に屋敷に戻れるわけです」

「…それで?」

エレアーナの唇を太い指が撫でる。
触れたいのに触れられない、焦らされている。そんな葛藤を感じる動きで。

「ようやく会える妻を前に、何もしないわけがないでしょう?」

エレアーナは間違えた。
イグナーツのことを誤解していた。

「きっと足腰が立たなくなるほどに抱き潰してしまうと思うので、だろうと言うことです」

彼は令嬢達の夢を壊す為に、鬼畜な条件を出していたわけではない。
政略結婚でも、妻を妻として扱うつもりだったのだろう。

彼女たちに伝える言葉選びに難があったのだ。

「もう、質問は終わりですか?」

エレアーナが、答える前に唇は塞がれ、寝台に押し倒された。

今夜もまた彼に甘やかされる。

あなたにおすすめの小説

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

[完結]愛していたのは過去の事

シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」 私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。 そう、あの時までは 腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは 貴方、馬鹿ですか? 流行りの婚約破棄に乗ってみた。 短いです。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

婚約破棄を謝っても、許す気はありません

天宮有
恋愛
 侯爵令嬢の私カルラは、ザノーク王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。  ザノークの親友ルドノが、成績が上の私を憎み仕組んだようだ。  私が不正をしたという嘘を信じて婚約を破棄した後、ザノークとルドノは私を虐げてくる。  それを耐えながら準備した私の反撃を受けて、ザノークは今までのことを謝ろうとしていた。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。