もう一度婚約を、望む貴方は誰ですか?

基本二度寝

文字の大きさ
7 / 15

七 演武会後

しおりを挟む
絶対おかしい。なにか変だ。

物置部屋に閉じ込められたトルクトは腫れた頬を抑えていた。


昨日に引き続き、今日もアルシオーネに会いに行った。
一晩経てば、アルシオーネも冷静になるだろうと思っていた。

伯爵家に押しかけたことがばれ、抗議を受けたようで、父はトルクトに謹慎を言いつけた。
それではアルシオーネに会いに行けない。
婚約関係が戻れば、父も喜ぶだろうと訴えれば、アルシオーネはもう他の子息と婚約を結んでいると言われた。


…はぁ?

もう?
婚約解消からそんなに日は経っていない。
いくら何でも、早すぎるだろう。
…まさか、あの女浮気していたんじゃ

けれど相手を聞けば、ただの男爵子息。
しかも、相手に嫁ぎ婚姻後は伯爵家から離れ、貴族ではなくなるという。

トルクトは首を傾げた。
あまりに利益のない婚姻だ。

そうか。
アルシオーネは婚約解消がショックのあまり熟考せず相手を決めたんだ。
俺でないなら誰でも同じ。
貴族でなくなれば社交の場には出られない。
そこまでして、トルクトを忘れようとしているんだ。

トルクトは己の都合よく解釈した。

伯爵家にはもう行けない。
次訪れたら警備団に突き出すし、支援も取りやめると通告された。

ならば、外で会うしかない。
新しい婚約相手の男爵子息は騎士団所属だという。
律儀なアルシオーネなら、明日の騎士団演武会へ観覧に向かうはずだ。

トルクトは、屋敷の者に気付かれぬようこっそり部屋から抜け出した。

ーーー

「総括の息子に絡むなんてとんだ命知らずが居たもんだ」

男爵家の男がアルシオーネと去るのを呆然と見つめていた時、どこから現れたのか屈強な男たちがトルクトを囲んだ。

「な、なんだお前達はっ」

王家の紋章を肩に刻む甲冑を纏った彼らは、先程演武会の中心に居た者たちだった。

彼らの爵位はわからないが、今この会場で彼らに高圧的に振る舞うのは不利だ。

「なにって…なぁ?」
「我らの上官に絡む奴がいたらまぁ…一応確保対象になるわけで」

上官…?
トルクトの兄より年上だろう男達が口にする上官に絡んでなどいない。
なにか誤解が生じている。

「俺、いや、私は誰にも迷惑をかけていない」

「いやいや、うちの大将の婚約者に声かけてただろ。しかも名を呼び捨て。…知らないってすげぇな」
「彼女に暗部をつけててよかった。接触の可能性って連絡受けて大将速攻飛び出したよな。いやぁ…こえぇ…」
「待て待て。暗部ってなに、所属違うのに大将なんで暗部に指示出せんの?おかしくね?」
「お前はまだうちに来て日が浅いから…そのうち…わかる」

トルクトを放置して騎士団員は盛り上がっている。
少しずつ距離を取り、この場を離れようとした。

「…どこへいく?ちゃんと家まで丁重に送り届けろと言われてる。…逃げるな」

トルクトの真後ろから声が降ってきた。
そっと振り返れば、頭一つ分高い視線がトルクトを見下ろす。

「っひぃ」

女に見せつけ、戯れるためだけの中途半端に鍛えた身体は、実用的な筋肉を持つ団員たちに囲まれれば小枝のようだった。
見世物のように、往来を闊歩して屋敷まで連行されると、父は団員達に伏して謝罪し、トルクトは温厚な兄に頬を張られ、古い物置部屋に押し込まれたのだった。





※『大将』は部下間のあだ名で役職名ではありません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王族の言葉は鉛より重い

Vitch
恋愛
 フォークライン公爵の娘であるミルシェ。  彼女は間違い無く公爵の血を引く娘だった。  あの日までは……。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

処理中です...