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十一 閑話/男爵
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「はぁああ。面倒くさい。帰りたい。帰りたい。
今日は早く帰ってくるように奥さんに言われてるの。
息子の嫁ちゃんになる子と一緒にご飯食べるの。わかる?お前がとっとと吐かないから私が駆り出されたわけ、わかる?うちの奥さん怒ったら怖いの。
この国滅ぶよ?まじで。
今、定時で帰るところだったの。これ残業なの。なんで宮仕えやってるとおもってるの。定時で帰れるからだよ。ボケっと一日過ごしてもお給金貰えるからだよ。お給金良いからだよ。わかる?わかんないかー」
男爵という地位でありながら、騎士団特殊班で統括などという大層な役割を与えられている男の名はサッシュ。
圧迫感のある取調室で、むさ苦しい男と対峙していた。
男は婦女誘拐の現行犯で、両手両足を座っている椅子に縛り付けられ、暴れることができないように拘束されている。
この部屋にも魔法妨害を施しているため、魔法での攻撃もできない。
それは、取調官も同じ条件だけれど。
この男は、誘拐の目的も方法もなにも吐かなかった。
叩けば埃が出そうなこの男は、どんな拷問にも、自白魔法にも耐え切った。
難攻不落の男に手を焼いた尋問官は、サッシュに泣きついてきたのだった。
「まぁ一応御約束だけど、なんであんな事したの」
目の前の男は、口を引き結んだままサッシュを見つめていた。
「ふぅん。女と子供か。なんか意外だな。もっと狂気めいた理由じゃないのか」
サッシュの言葉に男が僅かに口を動かしたが、当てずっぽうだと思ったのか、再度ぐっと口を引き結びなにも言わなかった。
「へぇ、…あの商家強盗にも関与してたのか。あ~、なるほど。だから誘拐と繋がるのか。ふむふむ、公爵家同士の確執か。ほんとしょーもない」
サッシュがペラペラと話す内容に、男は動揺した。
「あー貴族間の確執とかめんどくさい。もう暗部に丸投げしよ?そうしよ。はい終了!」
サッシュは手を叩いてもう終わったと立ち上がった。
「どうすればよかったって言うんだ!」
貝のように頑なだった男は叫んだ。
「女と子供を人質に取られた!やつらの言う通りにしなければ、俺は」
「知らんがな」
サッシュは頭を掻く。
「人質は置いといて、罪を犯すと決めたのはお前自身でしょ」
「なら、どうしたら良かったんだよ…あいつらを守るためには、」
「知らんがな」
お前ならどうする!と聞かれても、嫁も子も化物並に強い。
人質になる可能性にあるのはどう考えてもサッシュ自身だ。
どうにか想像力を膨らませるが、最終的に嫁と息子が屍の上で笑っている画しか浮かばない。
「私は尋問官の補佐をしただけ。懺悔は神父の前でやってよ」
「サッシュ統括!すごいですね!なんであんなに簡単に口を開かせちゃうんですか!」
サッシュにやたら懐いているこの尋問官はこの一件を持ってきた張本人である。
「え?あの男の資料読んでちゃちゃーっと推理した」
なーんて。ただ、あの男の頭の中を無断で覗いただけ。
話を向ければ、だいたいその関連した情報がぽんと押し出されてくる。
あの男の場合はまず女と子供。
そこから、囚われた二人と貴族の顔が現れた。
裏でこそこそ怪しい動きをしている家なので騎士団からマークされている貴族だ。
「名推理…っ!」
感動している尋問官には、…そういうことにしておこう。
訂正も面倒だ。
「でもでも、統括!あの男が言うように、もし息子さんのお嫁さんが人質にとられたりしたら統括ならどうしますか?」
…なるほど。そっちが人質になる可能性の方が高いか。
人質になるのは若い女の子の方が画になるし。
まぁ、うちの息子なら抜かりはないと思うけれど。
「私なら相手と交渉するかな」
どうにか、先方と面と向かう状況を作る。
「あとは、片っ端から食らうかなぁ」
相手の同意を得るのは、食べる記憶の範囲を指定する為。
同意なしに片っ端から食らえば、記憶を無作為に頂くことになる。
「自分が、なんの交渉をしているのか、なんでそこにいるのか、果ては自分が誰なのかじわじわとわからなくなっていくってどんな感覚なのかな」
「食らうって、なんですか。統括?」
「ううん、ごめん独り言。忘れて」
「あ、はい」
尋問官は立ち止まる。
ぼんやり前方を見つめたまま。
「まったく」
ばしっと尋問官の肩を叩くと、ハッとして此方に視線をよこした。
「うちの奥さん怖いの知ってるよね!一緒に怒られてよね!」
「え…?、あ、ええ~!?今から報告書上げないと…」
「問答無用」
「いや、ほんとうにっ、まじで、戦乙女怖いっすからぁぁぁあ」
尋問官の情けない悲鳴が重々しい取調区画に響いた。
今日は早く帰ってくるように奥さんに言われてるの。
息子の嫁ちゃんになる子と一緒にご飯食べるの。わかる?お前がとっとと吐かないから私が駆り出されたわけ、わかる?うちの奥さん怒ったら怖いの。
この国滅ぶよ?まじで。
今、定時で帰るところだったの。これ残業なの。なんで宮仕えやってるとおもってるの。定時で帰れるからだよ。ボケっと一日過ごしてもお給金貰えるからだよ。お給金良いからだよ。わかる?わかんないかー」
男爵という地位でありながら、騎士団特殊班で統括などという大層な役割を与えられている男の名はサッシュ。
圧迫感のある取調室で、むさ苦しい男と対峙していた。
男は婦女誘拐の現行犯で、両手両足を座っている椅子に縛り付けられ、暴れることができないように拘束されている。
この部屋にも魔法妨害を施しているため、魔法での攻撃もできない。
それは、取調官も同じ条件だけれど。
この男は、誘拐の目的も方法もなにも吐かなかった。
叩けば埃が出そうなこの男は、どんな拷問にも、自白魔法にも耐え切った。
難攻不落の男に手を焼いた尋問官は、サッシュに泣きついてきたのだった。
「まぁ一応御約束だけど、なんであんな事したの」
目の前の男は、口を引き結んだままサッシュを見つめていた。
「ふぅん。女と子供か。なんか意外だな。もっと狂気めいた理由じゃないのか」
サッシュの言葉に男が僅かに口を動かしたが、当てずっぽうだと思ったのか、再度ぐっと口を引き結びなにも言わなかった。
「へぇ、…あの商家強盗にも関与してたのか。あ~、なるほど。だから誘拐と繋がるのか。ふむふむ、公爵家同士の確執か。ほんとしょーもない」
サッシュがペラペラと話す内容に、男は動揺した。
「あー貴族間の確執とかめんどくさい。もう暗部に丸投げしよ?そうしよ。はい終了!」
サッシュは手を叩いてもう終わったと立ち上がった。
「どうすればよかったって言うんだ!」
貝のように頑なだった男は叫んだ。
「女と子供を人質に取られた!やつらの言う通りにしなければ、俺は」
「知らんがな」
サッシュは頭を掻く。
「人質は置いといて、罪を犯すと決めたのはお前自身でしょ」
「なら、どうしたら良かったんだよ…あいつらを守るためには、」
「知らんがな」
お前ならどうする!と聞かれても、嫁も子も化物並に強い。
人質になる可能性にあるのはどう考えてもサッシュ自身だ。
どうにか想像力を膨らませるが、最終的に嫁と息子が屍の上で笑っている画しか浮かばない。
「私は尋問官の補佐をしただけ。懺悔は神父の前でやってよ」
「サッシュ統括!すごいですね!なんであんなに簡単に口を開かせちゃうんですか!」
サッシュにやたら懐いているこの尋問官はこの一件を持ってきた張本人である。
「え?あの男の資料読んでちゃちゃーっと推理した」
なーんて。ただ、あの男の頭の中を無断で覗いただけ。
話を向ければ、だいたいその関連した情報がぽんと押し出されてくる。
あの男の場合はまず女と子供。
そこから、囚われた二人と貴族の顔が現れた。
裏でこそこそ怪しい動きをしている家なので騎士団からマークされている貴族だ。
「名推理…っ!」
感動している尋問官には、…そういうことにしておこう。
訂正も面倒だ。
「でもでも、統括!あの男が言うように、もし息子さんのお嫁さんが人質にとられたりしたら統括ならどうしますか?」
…なるほど。そっちが人質になる可能性の方が高いか。
人質になるのは若い女の子の方が画になるし。
まぁ、うちの息子なら抜かりはないと思うけれど。
「私なら相手と交渉するかな」
どうにか、先方と面と向かう状況を作る。
「あとは、片っ端から食らうかなぁ」
相手の同意を得るのは、食べる記憶の範囲を指定する為。
同意なしに片っ端から食らえば、記憶を無作為に頂くことになる。
「自分が、なんの交渉をしているのか、なんでそこにいるのか、果ては自分が誰なのかじわじわとわからなくなっていくってどんな感覚なのかな」
「食らうって、なんですか。統括?」
「ううん、ごめん独り言。忘れて」
「あ、はい」
尋問官は立ち止まる。
ぼんやり前方を見つめたまま。
「まったく」
ばしっと尋問官の肩を叩くと、ハッとして此方に視線をよこした。
「うちの奥さん怖いの知ってるよね!一緒に怒られてよね!」
「え…?、あ、ええ~!?今から報告書上げないと…」
「問答無用」
「いや、ほんとうにっ、まじで、戦乙女怖いっすからぁぁぁあ」
尋問官の情けない悲鳴が重々しい取調区画に響いた。
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