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十三

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デムロックがサロンに参加し、他の貴族との交流を深めていた所に、使用人が慌ててやってきた。

「あの場で、火急とか言うんじゃない。貴族の好奇心を煽ってどうする」

使用人を叱咤しつつ、デムロックは用件を帰宅する馬車の中で聞いた。



「父上っ!」
邸に着くなり、応接間に騒がしく飛び込んだ。

「ん、どうした?デムロック。サロンに行っていたのでは?」

父はのんびりとお茶を飲んでいた。
父と対面する席にいたのは、あの小賢しい下位貴族の第二隊長だ。

「美味しいお茶ですね。これは産地は何処のもので?」
「わかるかね!実はな」

二人はまるでお茶仲間のように、何気ない会話をしている。
使用人が言っていた事態が起こっていたのなら、こんな状態には…。

「歓談中すいません、父上。トルクトは今どこに」
「トルクト?」

父は首を傾げた。
物置部屋にいるだろう?と言わんばかりの表情にデムロックは誤情報だったのかと胸をなでおろした。

しかし、

「誰だそれは」

「は…父、上?」

「先程の罪人のことではないですか?」

第二隊長の言葉に、ああと相槌を打つ。

「罪人!?トルクトが何をしたと!抜け出して、アルシオーネ嬢に会いに行った程度で罪になどなるはずがっ」

「いえ、当主の知らぬ間に当家の血縁届を提出していた不届き者の事ですよ。先程、離縁届けを提出していただいたのでこちらの家とはご安心ください」

「まったく。うちにはデムロック息子は居ないというのに。いつの間にそんな」

「巧妙な偽造でしたからね。組織的なものかもしれません」

二人は、なんの話をしているのだ。

「何を、何を言っているんですか!トルクトは、この家の人間です!目を覚してください父上!」

「おや、ご子息は乱心されてますね。あの罪人に何か暗示でも仕込まれたのでしょうか」

第二隊長は心配気に話しかけるが、瞳の奥が笑っている。

「貴様…、一体何をしたっ」
「おや、随分取り乱されておりますね。侯爵様。もしよければ騎士団の治療院でご子息の暗示や催眠術の確認を致しましょうか?」 

「そうだな。先程から妙な事を口走って」

「父上、違いますっ!トルクトは確かにこの家の、父の息子で私の弟です!思い出してください、ほら、お前からも訴えろ!」

側にいたメイドの腕を掴んで叫んだ。
彼女はトルクトの食事を運んでいた者だ。

「お、落ち着いてください。デムロック様は旦那様のたった一人の跡取りですよ」

「一人じゃないっ!」

優しく諭すメイドの腕を払った。

「先程の、私に知らせを持ってきた使用人は…っ」

「完了だよー。全く、立ってるものは親でも使うなんて…どこで子育て間違えた…?」

タイミングよく扉が開き、知らぬ男と先程、サロンまでデムロックを迎えに来た使用人が部屋に入ってきた。

男を無視して、使用人に詰め寄った。

「お前、さっき私に知らせを持ってきたよな!?トルクトが一週間も前に邸から抜け出していたと、逃亡に手を貸したメイドが吐いたと、そう言ったよな!?」

「デ、デムロック様。どうされたのですか。落ち着いてください。
確かに知らせを届けましたが…『不届き者が当家の血縁届けを提出し潜り込んでいた事』を火急に、」

「は、はは…何を言っている…先刻、トルクトがトルクトが逃げたと、言っていたではないか…なぁ」

使用人は申し訳なさそうに眉を八の字にした。



「デムロック様…トルクトとは、どちら様でしょうか」
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