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十四
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「くっそ…雑に扱いやがって…俺はぁ!侯爵家の人間だぞ!」
薄暗い牢獄に放り込まれていたトルクトは、不満を顕にする。
貴族であるのに、平民と同じ牢に押し込まれていることに納得できない。
「お前ら、絶対後で後悔させてやる!騎士なぞやめさせてやるからな!」
トルクトの脅しなど誰も相手にしていない。
彼らに其の程度の脅しは日常茶飯事だった。
アルシオーネの元に出向き、捕らえられてから一週間。
まだ、保釈はされていない。
邸のメイドに、トルクトが物置部屋に居るように偽装しろと言いつけていた。
まだ、トルクトが抜け出した事を、父も兄も気づいていないのかもしれない。
いつまで此処に居るのか。
牢番の騎士に、侯爵家に知らせを送れと言ったが、生温かい目で見つめられて終わる。
巫山戯ている。
あの男爵子息の騎士団など解体してやる、と息巻いた。
「よし。出ろ」
捕らえられてから十日経った。
ようやく、牢の扉が開いた。
礼のつもりで生意気だった牢番に殴りかかり、返り討ちを食らった。
籠手をした拳を腹に打ち込まれ、蹲った。
「あ…悪い、反射的に手が出たすまん。悪気はなかった」
蹲ったままで動けなかったトルクトは、その牢番にずるずると引きずられて屯所から放り出された。
「絶対に潰す、侯爵家の力を使って絶対に」
ブツブツと怒りに震えながら、トルクトは実家を目指した。
「おい。なんのつもりだ」
トルクトが帰宅したというのに、門扉は開かない。
門の内側にいる門番は何も喋らずに、固く門を守っていた。
「おい愚図。俺が戻ったぞ。早く開けろ」
「なんだ騒がしい」
邸から出てきたのは、兄だった。
此処で騒いでいたから様子を見に来たのだろう。
「兄上」
「?誰だお前は」
兄はトルクトを訝しげに見る。
その目は見たことがあった。
アルシオーネと同じで、他人を見る瞳。
なんの興味も示さない瞳。
呆れ蔑まれていた色すらない。
言うならば、無。
その目に、トルクトは恐怖した。
「あ、兄上。冗談は、止めて下さい。…俺が、言いつけを守らなかったから、怒っているだけですよね…?兄上」
「最近の物乞いは妙な事を言うのだな」
兄は首を傾げ、門番の肩を叩き、彼を労うと邸に戻っていった。
「え、待って!兄上っ?兄上っっ!」
トルクトの呼びかけにも答えずに、デムロックは邸の扉を閉めた。
「おや、出戻りか?」
兄が通報したのか、トルクトは警邏隊に連行された。
屯所に戻されると、取調室にはあの男爵子息の騎士が机に足を乗せ、横柄な態度で椅子に座っていた。
連行した警邏隊員は退室し、下位貴族の騎士と二人になった。
「貴様」
「半年、じっとしててくれて助かった。その間にお前の知り合いは潰していった」
「潰す、だと?随分荒っぽいことをするんだな、騎士様は」
「最後は侯爵家だけだった。最後まで抵抗してのは、あんたの兄さんだけだった。ほんと、苦労した」
「…兄上に何をした」
横柄な騎士は笑う。
「お前に関する記憶を奪った。もう、家族も友人も、お前の事を覚えているやつは貴族には居ないぞ」
記憶を、奪う…。
ああ、そうか。やはり。
他人行儀なアルシオーネを思い出した。
「アルシオーネの…記憶も、奪ったのか」
男は、「そうだ」と笑った。
「返せ!アルシオーネはっ俺の、俺のっ婚約者だ」
「色んな意味で、無理。ルシィにとってアンタはもう他人だし、まずアンタは侯爵家の人間でもない」
すっと書類を差し出された。
『離縁届け』とあるそれには、家名と父の名とトルクトの名が記入されていた。
「侯爵家にトルクトという男は居なくなった。当主、次期当主の記憶からも抹消した。アンタが言った通り、トルクトは死んだんだよ」
薄暗い牢獄に放り込まれていたトルクトは、不満を顕にする。
貴族であるのに、平民と同じ牢に押し込まれていることに納得できない。
「お前ら、絶対後で後悔させてやる!騎士なぞやめさせてやるからな!」
トルクトの脅しなど誰も相手にしていない。
彼らに其の程度の脅しは日常茶飯事だった。
アルシオーネの元に出向き、捕らえられてから一週間。
まだ、保釈はされていない。
邸のメイドに、トルクトが物置部屋に居るように偽装しろと言いつけていた。
まだ、トルクトが抜け出した事を、父も兄も気づいていないのかもしれない。
いつまで此処に居るのか。
牢番の騎士に、侯爵家に知らせを送れと言ったが、生温かい目で見つめられて終わる。
巫山戯ている。
あの男爵子息の騎士団など解体してやる、と息巻いた。
「よし。出ろ」
捕らえられてから十日経った。
ようやく、牢の扉が開いた。
礼のつもりで生意気だった牢番に殴りかかり、返り討ちを食らった。
籠手をした拳を腹に打ち込まれ、蹲った。
「あ…悪い、反射的に手が出たすまん。悪気はなかった」
蹲ったままで動けなかったトルクトは、その牢番にずるずると引きずられて屯所から放り出された。
「絶対に潰す、侯爵家の力を使って絶対に」
ブツブツと怒りに震えながら、トルクトは実家を目指した。
「おい。なんのつもりだ」
トルクトが帰宅したというのに、門扉は開かない。
門の内側にいる門番は何も喋らずに、固く門を守っていた。
「おい愚図。俺が戻ったぞ。早く開けろ」
「なんだ騒がしい」
邸から出てきたのは、兄だった。
此処で騒いでいたから様子を見に来たのだろう。
「兄上」
「?誰だお前は」
兄はトルクトを訝しげに見る。
その目は見たことがあった。
アルシオーネと同じで、他人を見る瞳。
なんの興味も示さない瞳。
呆れ蔑まれていた色すらない。
言うならば、無。
その目に、トルクトは恐怖した。
「あ、兄上。冗談は、止めて下さい。…俺が、言いつけを守らなかったから、怒っているだけですよね…?兄上」
「最近の物乞いは妙な事を言うのだな」
兄は首を傾げ、門番の肩を叩き、彼を労うと邸に戻っていった。
「え、待って!兄上っ?兄上っっ!」
トルクトの呼びかけにも答えずに、デムロックは邸の扉を閉めた。
「おや、出戻りか?」
兄が通報したのか、トルクトは警邏隊に連行された。
屯所に戻されると、取調室にはあの男爵子息の騎士が机に足を乗せ、横柄な態度で椅子に座っていた。
連行した警邏隊員は退室し、下位貴族の騎士と二人になった。
「貴様」
「半年、じっとしててくれて助かった。その間にお前の知り合いは潰していった」
「潰す、だと?随分荒っぽいことをするんだな、騎士様は」
「最後は侯爵家だけだった。最後まで抵抗してのは、あんたの兄さんだけだった。ほんと、苦労した」
「…兄上に何をした」
横柄な騎士は笑う。
「お前に関する記憶を奪った。もう、家族も友人も、お前の事を覚えているやつは貴族には居ないぞ」
記憶を、奪う…。
ああ、そうか。やはり。
他人行儀なアルシオーネを思い出した。
「アルシオーネの…記憶も、奪ったのか」
男は、「そうだ」と笑った。
「返せ!アルシオーネはっ俺の、俺のっ婚約者だ」
「色んな意味で、無理。ルシィにとってアンタはもう他人だし、まずアンタは侯爵家の人間でもない」
すっと書類を差し出された。
『離縁届け』とあるそれには、家名と父の名とトルクトの名が記入されていた。
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