聖女の専属護衛は婚約破棄を受け入れる

一

ガルウィングは、明日以降の予定を組み立てながら目的地に向かう中、呼び止められた。


「貴方との婚約を、破棄します」

ガルウィングの婚約者であった公爵令嬢は、目の前で宣言した。
いつも目を合わせない彼女が珍しく、ガルウィングを真っ直ぐ睨みつけた。

婚約者、いや元婚約者の横にはガルウィングの同僚の騎士が彼女の肩を抱いていた。

「ははっ。まぁ、ただの子爵家の令息の婚約者が公爵令嬢なんて事が夢物語だったんだよ」
「ちょっと…サドル」
「んだよ。あいつより俺の方が良いんだろ？」
「それは…」

ちらりと元婚約者が此方を見る。
気を使っているつもりかもしれないが、別に今更だった。

彼女と同僚のサドルは幼馴染だと聞いている。
彼女はよく騎士団詰め所に訪れて、サドルと会っていた。
サドルは彼女を連れて自分の部屋に連れ込んでいたのでつまりはそういう関係なのだろう。

それを知ってもガルウィングは特に気にしていなかった。

公爵令嬢との婚約は功績の報奨として国王陛下より提示され、辞退を申し出たら、慌てて王命だと言い直されそのまま受けた。

…だったら、最初から王命だと言えばよかったのだ。
回りくどい。

そんな経緯もあり、彼女とは別に好きあっていたわけでもない。
相手の方が爵位も高く、こちらから何か言うこともない。

「了解しました。それでは私は仕事がありますので」

きちんと腰を曲げ一礼をすると、振り返って目的の方向に進んだ。

「えっ？待って、ガルウィング！」
「おい、シャラ」
「だって！彼ちっとも…！」

後方で揉めるような声が聞こえたが、ガルウィングはもう明日の事で頭がいっぱいだった。