4 / 10
四
「さて、話が逸れたね。…隣国からやってきた聖女を此処へ」
国王が従者に声を掛けると、扉が開き見知った髪色の女が現れた。
薄気味悪い黒い髪と黒い瞳。
暗い容貌の女は部屋に入ると、国王に向かって膝を折った。
「ああ。楽にしていいよ。これは非公式の訪問だからね。ですよね?王太子殿下」
隣国の王にそう言われてしまえば、王太子も追随するしかない。
「…無礼は問わない」
暗い女は姿勢を正すと「何か御用で」と王太子に向かってぬけぬけと答えた。
「…我が国が水害に見舞われている。力を貸してほしい」
相変わらずの陰湿な雰囲気の聖女に対し、しぶしぶながら要件を伝えた。
コレを連れ帰り、国の災害をどうにか収めなければ、王太子は引き継ぐ国を失ってしまう。
王太子が下手に出た発言をしたが、聖女は何も映していない瞳でじっと此方を見返すだけだった。
「…おい。返事をし」
「それだけですか?」
「…なに?」
「言うべきことはそれだけですか?」
聖女はじっと王太子を見つめている。
「国王陛下から聞いていた話と違いますね」
「なに…?」
王太子は国王に視線を戻した。
どういう事かと問うつもりで。
「確かに話が違うね」
「一体何なんですか」
国王は送られてきた書状を持ってこさせて、読み上げる。
「『聖女に謝罪し、助力賜る』とあるけど。『謝罪』はなかったように思うね」
国王の言葉に王太子は顔を顰め、睨みつけた。
いつもビクビクと震えていた聖女がこんなにも傲慢になっているとは思いもしなかった。
王太子の顔を見た国王の美しき正妻が怯え、夫にしがみつく。
夫は優しく妻を抱き、王太子を視界に入れぬよう彼女の頭を撫でる素振りで自然に視線を遮った。
「そのような顔をしないで欲しいんだけど。不満があるなら早く国へ帰ってもらって構わないよ」
国王に、薄く笑われながら発せられた言葉は、提案ではなく命令だとさすがの王太子も理解した。
それに、女神を怯えさせるつもりもなかった。
「も、申し訳ございません」
「私への謝罪は必要ない」
ピシャリと言い切られると言い訳もできない。
「謝罪すべき相手は、私では?」
黒髪の聖女はニヤリと笑う。
顔を伏せ、怒りの面を隠したまま、王太子は聖女に詫びた。
お前を追放すべきではなかった。申し訳ない、と。
「頭が少し…高くありませんか?」
聖女のその言葉に、王太子の目の前が真っ赤になる。
貴、様ごとき。
怒りで震える指先を握りしめ、王太子は毛足の長い絨毯に頭をこすり付けた。
頭をすぐに上げようとして、押さえつけられた。
「短い」
ぐっと後頭部を押され、再び額をつく。
実際よりも長く感じたその時間に耐え、重みが無くなってようやく頭を上げることができた。
その段階になって気づいた。
聖女の勝ち誇った顔を見上げて。
彼女の足が下ろされるのを見て。
王太子は薄気味悪い女に頭を踏みつけられていたのだと。
国王が従者に声を掛けると、扉が開き見知った髪色の女が現れた。
薄気味悪い黒い髪と黒い瞳。
暗い容貌の女は部屋に入ると、国王に向かって膝を折った。
「ああ。楽にしていいよ。これは非公式の訪問だからね。ですよね?王太子殿下」
隣国の王にそう言われてしまえば、王太子も追随するしかない。
「…無礼は問わない」
暗い女は姿勢を正すと「何か御用で」と王太子に向かってぬけぬけと答えた。
「…我が国が水害に見舞われている。力を貸してほしい」
相変わらずの陰湿な雰囲気の聖女に対し、しぶしぶながら要件を伝えた。
コレを連れ帰り、国の災害をどうにか収めなければ、王太子は引き継ぐ国を失ってしまう。
王太子が下手に出た発言をしたが、聖女は何も映していない瞳でじっと此方を見返すだけだった。
「…おい。返事をし」
「それだけですか?」
「…なに?」
「言うべきことはそれだけですか?」
聖女はじっと王太子を見つめている。
「国王陛下から聞いていた話と違いますね」
「なに…?」
王太子は国王に視線を戻した。
どういう事かと問うつもりで。
「確かに話が違うね」
「一体何なんですか」
国王は送られてきた書状を持ってこさせて、読み上げる。
「『聖女に謝罪し、助力賜る』とあるけど。『謝罪』はなかったように思うね」
国王の言葉に王太子は顔を顰め、睨みつけた。
いつもビクビクと震えていた聖女がこんなにも傲慢になっているとは思いもしなかった。
王太子の顔を見た国王の美しき正妻が怯え、夫にしがみつく。
夫は優しく妻を抱き、王太子を視界に入れぬよう彼女の頭を撫でる素振りで自然に視線を遮った。
「そのような顔をしないで欲しいんだけど。不満があるなら早く国へ帰ってもらって構わないよ」
国王に、薄く笑われながら発せられた言葉は、提案ではなく命令だとさすがの王太子も理解した。
それに、女神を怯えさせるつもりもなかった。
「も、申し訳ございません」
「私への謝罪は必要ない」
ピシャリと言い切られると言い訳もできない。
「謝罪すべき相手は、私では?」
黒髪の聖女はニヤリと笑う。
顔を伏せ、怒りの面を隠したまま、王太子は聖女に詫びた。
お前を追放すべきではなかった。申し訳ない、と。
「頭が少し…高くありませんか?」
聖女のその言葉に、王太子の目の前が真っ赤になる。
貴、様ごとき。
怒りで震える指先を握りしめ、王太子は毛足の長い絨毯に頭をこすり付けた。
頭をすぐに上げようとして、押さえつけられた。
「短い」
ぐっと後頭部を押され、再び額をつく。
実際よりも長く感じたその時間に耐え、重みが無くなってようやく頭を上げることができた。
その段階になって気づいた。
聖女の勝ち誇った顔を見上げて。
彼女の足が下ろされるのを見て。
王太子は薄気味悪い女に頭を踏みつけられていたのだと。
あなたにおすすめの小説
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~
日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。
彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。
一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。