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三
「伯爵令嬢カリーナ様」
カリーナは、声をかけられて振り向いた。
二週間ほど前にカリーナが声を掛け、無礼振る舞った相手、公爵令嬢フリージアがそこに居た。
「…フリージア様」
「ありがとうございました。カリーナ様」
フリージアは、優しく微笑んだ。
え、と音にならない息が漏れる。
「カリーナ様のおかげで、私婚約を解消できましたの」
「、…あれは…」
「ですから、感謝を伝えたくて」
フリージアの笑顔に、以前感じた薄ら寒さは感じなかった。
ただただ純粋に喜びを表すだけの笑顔。
「わた、しは…なにも」
「いいえ。貴女の勇気ある行動が、周りを動かしたのです」
伯爵令嬢が、公爵令嬢に噛み付いた。
それがどれほどのことか。
ロマンセとベルガモを支援する令嬢や一部の子息達は、その行動に勇気付けられ、フリージアの公爵家に投書を送りつけた。
『ロマンセを解放せよ、婚約を破棄せよ』と。
公爵令嬢に過ぎないフリージア宛に送りつけられても意味はない。
これがせめて、公爵当主宛であったなら、即座に抗議文が送り返されただろう。
無記名の投書だとしても、手紙に残る魔力残渣を辿れば、発送元はすぐに特定できる。
ただ、それには多額の対価が必要となる。
悪戯如きに出せるような金額ではないが、生憎と公爵家の資産は潤沢だった。
投書の身元を調べてみれば、手紙の主は男爵家から侯爵家まで様々だった。
貴族学園に通うご令嬢たちからの素敵な手紙を溜め込み、送り主をすべて特定した上で、フリージアは国王への面会を求めた。
あとは、フリージアの口八丁。
フリージアは、自分への攻撃を己の武器に変換させて国王への説得の道具に使ったのだった。
「やはり、婚姻は愛し合う者同士でなければなりませんものね」
「…」
カリーナの婚約も、フリージアの婚約撤回のあおりを受けて解消されている。
不憫な恋人たちのために、良かれと思って行動しただけなのに。
それに同調した令嬢や子息たちも気持ちは同じだろう。
フリージアが婚約を解消したことで、元婚約者の伯爵家の未来は暗いものになった。
昔の功績だけにしがみつき、無条件に金を与えられる生活に浸かりきっていた伯爵家は、新たな寄生先を見つけるしか生き残れない。
フリージアとの婚約がなくなったロマンセには、まだ寄生主は見つかっていない。
フリージア自身は間を置かずに、幼馴染の大公子息との婚約を発表した。
ロマンセと愛し合っていたはずのベルガモ嬢は、一端婚約が解消された相手と再婚約を果たした。
ロマンセとの逢瀬、学園内での不貞が知られ、床に頭を擦り付けて相手方に謝罪をして許してもらえたようだ。
しかし、婚後の社交界への出席も茶会の開催も認めないなどの、厳しい条件付きのようだった。
貴族学園の卒業も認められずに、学園から去っていったベルガモのその後の姿は誰も見ていない。
夢中で彼らを応援していた支援者は、我が身に降ってきた災難にあわてふためき、それどころではなくなっていた。
「ふふ。王命だった婚約がなくなって、幼馴染の彼と婚約できましたの。カリーナ様には本当に感謝しかありません」
フリージアが婚約をした大公子息。
その彼と以前婚約していた侯爵令嬢は、他の家の子息と婚約を結んだ。
そして、その子息と婚約していた令嬢は、また別の子息との婚約を果たし…、それが巡り巡って、カリーナと婚約していた相手は、カリーナとは違う令嬢と婚約してしまった。
理由は単純だ。
フリージアの婚約で、貴族全体の婚約が大きく変わり、カリーナの元婚約者の家の派閥が変わってしまった。
政敵になってしまった彼の家には嫁げない。
カリーナが無理を通して彼の元に嫁げば、実家の家族に迷惑がかかるし、カリーナの愛する彼も敵を娶った裏切り者と仲間内から罵られることになる。
この愛を貫けば、カリーナは愛する者達を破滅させると知り身を引いた。
引くしか、なかった。
「これでよかったのですよね。カリーナ様」
「…なにがですか」
「貴女の望み通り、ロマンセ様と婚約はなくなりましたし、私は愛する者を婚約相手に選びました」
「…」
「でもおかしなことに、ロマンセ様とベルガモ様は結ばれなかったようですね…?」
「…っ!」
「ですが、…私は貴女の仰った通りにいたしましたからこれでよかったのでしょうね」
フリージアは目を細めて、口角を上げる。
以前カリーナが感じた、背筋がぞわりとするような、笑みを浮かべる。
「、わたしが、のぞんだのはっ…!こんな未来じゃ」
フリージアが背を向けて去っていった後、カリーナは地に手をついて涙を零した。
今更ながらに、フリージアがロマンセと婚約していた事で、己の幸せがあったのだと知り、ただただ後悔に咽び泣いた。
カリーナは、声をかけられて振り向いた。
二週間ほど前にカリーナが声を掛け、無礼振る舞った相手、公爵令嬢フリージアがそこに居た。
「…フリージア様」
「ありがとうございました。カリーナ様」
フリージアは、優しく微笑んだ。
え、と音にならない息が漏れる。
「カリーナ様のおかげで、私婚約を解消できましたの」
「、…あれは…」
「ですから、感謝を伝えたくて」
フリージアの笑顔に、以前感じた薄ら寒さは感じなかった。
ただただ純粋に喜びを表すだけの笑顔。
「わた、しは…なにも」
「いいえ。貴女の勇気ある行動が、周りを動かしたのです」
伯爵令嬢が、公爵令嬢に噛み付いた。
それがどれほどのことか。
ロマンセとベルガモを支援する令嬢や一部の子息達は、その行動に勇気付けられ、フリージアの公爵家に投書を送りつけた。
『ロマンセを解放せよ、婚約を破棄せよ』と。
公爵令嬢に過ぎないフリージア宛に送りつけられても意味はない。
これがせめて、公爵当主宛であったなら、即座に抗議文が送り返されただろう。
無記名の投書だとしても、手紙に残る魔力残渣を辿れば、発送元はすぐに特定できる。
ただ、それには多額の対価が必要となる。
悪戯如きに出せるような金額ではないが、生憎と公爵家の資産は潤沢だった。
投書の身元を調べてみれば、手紙の主は男爵家から侯爵家まで様々だった。
貴族学園に通うご令嬢たちからの素敵な手紙を溜め込み、送り主をすべて特定した上で、フリージアは国王への面会を求めた。
あとは、フリージアの口八丁。
フリージアは、自分への攻撃を己の武器に変換させて国王への説得の道具に使ったのだった。
「やはり、婚姻は愛し合う者同士でなければなりませんものね」
「…」
カリーナの婚約も、フリージアの婚約撤回のあおりを受けて解消されている。
不憫な恋人たちのために、良かれと思って行動しただけなのに。
それに同調した令嬢や子息たちも気持ちは同じだろう。
フリージアが婚約を解消したことで、元婚約者の伯爵家の未来は暗いものになった。
昔の功績だけにしがみつき、無条件に金を与えられる生活に浸かりきっていた伯爵家は、新たな寄生先を見つけるしか生き残れない。
フリージアとの婚約がなくなったロマンセには、まだ寄生主は見つかっていない。
フリージア自身は間を置かずに、幼馴染の大公子息との婚約を発表した。
ロマンセと愛し合っていたはずのベルガモ嬢は、一端婚約が解消された相手と再婚約を果たした。
ロマンセとの逢瀬、学園内での不貞が知られ、床に頭を擦り付けて相手方に謝罪をして許してもらえたようだ。
しかし、婚後の社交界への出席も茶会の開催も認めないなどの、厳しい条件付きのようだった。
貴族学園の卒業も認められずに、学園から去っていったベルガモのその後の姿は誰も見ていない。
夢中で彼らを応援していた支援者は、我が身に降ってきた災難にあわてふためき、それどころではなくなっていた。
「ふふ。王命だった婚約がなくなって、幼馴染の彼と婚約できましたの。カリーナ様には本当に感謝しかありません」
フリージアが婚約をした大公子息。
その彼と以前婚約していた侯爵令嬢は、他の家の子息と婚約を結んだ。
そして、その子息と婚約していた令嬢は、また別の子息との婚約を果たし…、それが巡り巡って、カリーナと婚約していた相手は、カリーナとは違う令嬢と婚約してしまった。
理由は単純だ。
フリージアの婚約で、貴族全体の婚約が大きく変わり、カリーナの元婚約者の家の派閥が変わってしまった。
政敵になってしまった彼の家には嫁げない。
カリーナが無理を通して彼の元に嫁げば、実家の家族に迷惑がかかるし、カリーナの愛する彼も敵を娶った裏切り者と仲間内から罵られることになる。
この愛を貫けば、カリーナは愛する者達を破滅させると知り身を引いた。
引くしか、なかった。
「これでよかったのですよね。カリーナ様」
「…なにがですか」
「貴女の望み通り、ロマンセ様と婚約はなくなりましたし、私は愛する者を婚約相手に選びました」
「…」
「でもおかしなことに、ロマンセ様とベルガモ様は結ばれなかったようですね…?」
「…っ!」
「ですが、…私は貴女の仰った通りにいたしましたからこれでよかったのでしょうね」
フリージアは目を細めて、口角を上げる。
以前カリーナが感じた、背筋がぞわりとするような、笑みを浮かべる。
「、わたしが、のぞんだのはっ…!こんな未来じゃ」
フリージアが背を向けて去っていった後、カリーナは地に手をついて涙を零した。
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