王太子妃は人質として帝国に差し出された

基本二度寝

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馬車が止まると、ジルグレイアはさっさと扉をあけて下りる。

エンフィアに侍女はつけられていない。
王宮の侍女を用意してくれた王太子殿下の申し出を、皇帝は断った。
身一つで皇帝に差し出された。

去り際の、悔しそうな王太子の顔を思い出してエンフィアは胸が痛む。

普段身につけている衣装よりも豪華な婚姻用ドレスは、侯爵家の財力を見せつける為、細やかな装飾が施してあった。
王家の婚姻に対するいわゆる見栄の為に。

そっとスカートを掴み、ドレスを傷つけぬように、しずしずと歩き、開け放たれたままの扉へ向かう。

「っ…!」

エンフィアの前に差し出された手に驚いた。
既にいないと思っていたジルグレイアが、エンフィアの為に外で待っていたのだ。

「どうした、一人では降りられないだろう?」
「いえ、不要です」

ジルグレイアを無視したエンフィアは、馬車のステップに置いた足がスカートの裾を踏み、バランスを崩した。

「そそっかしい人質だな」

馬車から落ちることなく、エンフィアは大きな身体に抱き止められて横抱きにされた。

「お、降ろしてください」
「暴れたら足が見えるぞ」

エンフィアは身を縮こませて小さくなった。
抵抗もできず、意見も聞いてもらえない。
自分が人質としてここにいる事を痛感した。


「お帰りなさいませ。陛下。おや、おやおや…おや?」
「なんだ、ウェルズ」

ジルグレイアはジト目で側近の臣下を見下ろした。
この男がにまりと意味有りげに笑う時はたいてい良からぬ事だと理解していた。

「人質受け取りに行って、嫁を見つけてきたんですか?」

白の花嫁衣装にブーケを握りしめた女を大事そうに抱いている上司を、ウェルズは茶化した。

「…王太子妃エンフィア。彼女が人質だ」

「は?…本気ですか?人質は王族だと…」

「…王太子に嫁いで王族の一員となった、と言う事だろう?」

「…ふざけてます?」

「かなり」

頭の上で交わされる会話に、エンフィアはもやりとした。
エンフィアでは人質に足らぬと言われているのだ。

祖国のために、エンフィアは人質としてやって来た。

侮られるつもりはない。

「っあの!」

「ああ!エンフィア様。申し訳ありません。そんな居心地の悪い場所にずっと置いていて。さぁ陛下、エンフィア様を降ろして差し上げてください。
後は私が引き継ぎますので」

ウェルズは、急かしてジルグレイアの腕からエンフィアを救い出した。

「…部屋まで連れて行ってもよかったが」
「何いってんですか。政務が滞っているんですから、早く執務室へ行ってください」

しっしっと帝国のトップを追い払い、ウェルズは戸惑うエンフィアを屋敷の奥へとエスコートして行った。

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