お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?

基本二度寝

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「…」

王は返す言葉もなかった。
心無い言葉に、サリーシアは傷ついたようには見えない。
魅力が無いなら早く手放せと言う。

しかし、そうもいかない。
サリーシアの能力は買っている。
公務において国王の補佐は完璧なのだ。

白い結婚。
それを申し立てられれば、王族ですら離縁の対象になる。
そうして跡継ぎが他の貴族よりも強く求められる王家に、その義務を怠ったと、責められるのは国王の方だ。

王妃とも床を共にするようにという条件で、愛妾を囲うことが許されたのに、その義務を果たしてないことが明らかになってしまう。

考えろ。考えろ。なにか術があるはずだ。

べアディスは従弟の顔を思い出した。

余裕顔のサリーシアを一泡吹かせてやる。

べアディスは嗤った。


ーーー

べアディスは従弟を説得し、最終的には王命という形で強制的に承諾させた。

従弟には愛する妻がいる。その最愛を裏切れと命じた。
かなり抵抗されたが、王命となれば応じなければならない。

従弟は憎々しげにべアディスを睨みつけていた。



「私が手を出す程でもない。こいつに任せる」

先日と同様に先触れもなく訪れたサリーシアの執務室にやってきた王は、従弟の公爵当主を連れてきた。

公爵は先代王弟の子なので、王家の血は流れている。

従弟の子供なら、跡取の血筋に問題はない。


本当なら、自分が。

そう思っていても、愛するリリネーゼに対しては反応する身体が、サリーシアの胸の感触を脳裏に描けば途端に萎えた。
心は興奮しているにもかかわらず、身体が拒否するのだ。

ちぐはぐな己の身体現象に苛立つ。

「あらあら。陛下はいろいろ策を講じていらっしゃるのですね。
なるほど。公爵ならば王家の跡継ぎに問題はありませんね」

「…俺はリリィしか抱かぬからな」

以前のような威勢の良さなく、自分に言い聞かせるように呟いた。

愛妾は子を産めぬように処置を施されている。
リリィはあくまで王を慰めるためだけの存在であり、子を生む必要はない。
子を待ちわびるリリィ本人には知らされてはいない。

国王の後継者は、王が娶る妃が産む子の中でしか選ばれないのだ。

ーーー

従弟を残し、王はサリーシアの執務室を出た。

本当は許しを乞う女を眺めてやるつもりだったのだが、急ぎの要件で呼びつけられ仕方無しにその場を後にした。

隣国の王との通信球を使った緊急の遠距離会談を済ませ、一息ついたところで、従弟がやってきた。

王は事を思い出し、にやにやと従弟に尋ねた。

「これで白い結婚の申し立ては無理だな」
「そのことですが…。申し訳ありませんが不甲斐ない結果になりました」

詳細を聞いて王は驚いた。

従弟もサリーシアを前にして身体が反応しなかったという。

「…そのような理由で命を逃れるつもりか」

おどして見せても、従弟は「妻の事を想えば反応しますが、いざ王妃を目の前に、彼女に触れれば萎えてしまうのです」と言う。

従弟はその現象を、喜ぶより、困惑していた。

「…妻を裏切ろうとした罰なのかもしれません」

青ざめ肩を落とす従弟の姿に、王はそれ以上言うことはなかった。

その不可解な現象に困惑したのは王も同様だったのだから。
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